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繊月 目の前で繰り広げられている会話――決して、これを『議論』とは呼びたくない――に、彼は小さなため息をついた。 どうせ、結論は一つしかない。いや、彼等が望んでいる結論が一つしかない、と言った方が正しいのではないか。 それが大局的には間違っているとしても、彼等は永遠に理解しようとはしないだろう。だから、彼等の耳には反対の声は届かない。 この事実を知ったら、《彼》はどう思うだろうか。 自分にとって、妹とは違った意味で大切な存在。 その《彼》と剣を交えなければいけない。 考えただけで、心臓が掴まれたように痛む。 それでも、全てを捨てて《彼》の元に行くことも出来ない。そんなことをすれば、妹はどうなるのか。この国にいるからこそ、あの子は命をつなげていられるのだ。 結局、自分はどちらも選ぶことが出来ないだけなのだ。どちらも大切だと言う言葉も、ただのいいわけだ。選ばないのではなく選べないという。 だから、どのような結論が出たとしても、受け入れるしかない。 それでも、なんとかできないものか……とは考える。 確かに、今、あの国と戦って勝てれば、我が国は強大な利益を手にすることが出来るかもしれない。だが、そのためにはこちらもかなりの損失を覚悟しなければいけないだろう。そして、利益を欲しがっているのは、自分たちだけではない。あわよくばと思っている者も多いだろう。 「……俺たちが、多くの国を滅ぼしてきたようにな……」 永遠に変わらないものなんて、何もありはしない。 そして、何かを滅ぼす原因になり得るのが、人の欲だ。 それがどうしてわからないのだろう。 もっとも、と小さな笑みを漏らす。 「戦争がなければ、俺があいつと会うこともなかったな」 彼と初めてあったのも、戦争が原因だった。 それは、もう七年も前になるだろうか。 もちろん、それは戦場ではない。確か、終戦――と言えるのはあくまでも戦勝国だけだ――後の条約締結の時だったと思う。 その場に立ち会える年齢ではなかった。だが、それがこの国で行われたから、その後のパーティに参加させようと思っていたのではないか。それはきっと《彼》がいたからだ。自分と同じ年だった彼が大人達の間で困らないように、と思っていたのだろう。 もっとも、と笑みに少しだけ苦いものを含める。あの時、そんな大人達の思惑は逆効果だったと言っていい。自分と彼は、まさしく水と油だった。初めてあったときに、それがわかった。 だからだろう。 大人達の前であれだけ盛大にケンカを始めてしまったのは。 こんなことをすれば、間違いなく二度と顔を合わせなくてすむだろう。そう考えていた。 しかし、そうはならなかった。 普段とは違う彼の言動に、そのころ、まだ生きていた母がおもしろがったのだ。そして、翌日以降も彼と共に過ごすように命じられた。 はっきり言って、いくら母の命令でも、そんなことはしたくなかった。だから、何とか逃げ出そうとしたのだ。 「ダメよ、ルルーシュ」 にっこりと微笑みながら母がそんな彼の襟首を掴む。 「だって、母さん!」 即座にルルーシュが反論を試みる。 「だめよ。これはあなたの義務だと思いなさい」 しかし、この一言でそれを封じられてしまった。だからといって、納得できるかと言えば、話は別だ。 「何故、僕が」 他にもいるだろう、と言外に言い返す。 「いることはいるわね。偏見しか持っていない子達が」 ため息とともに母がこう言い返してきた。 「あの子にも普通に接することが出来そうな子達は、みんな公務に就いているでしょう。だからといって、ナナリーは、ね」 別の意味で厄介な状況になりかねない。だから、と彼女は続ける。 「諦めなさい。国主の息子として生まれた以上、どんなに気に入らない相手とも親しくするのは義務だわ」 そうでなければ、余計な敵を作ってしまうことになる。ただでさえ、戦争で民を苦しめているのだ。必要以外の戦いを引き起こすことはないようにした方がいい。そうも彼女は口にする。 「……わかりました」 そう言われては、ルルーシュも引き下がらざるを得ない。 しかし、あいつも同じことを考えてくれるのだろうか。無理なような気がするのだが、と心の中で付け加えた。 ********************** 不知夜月 「でも、君は……ユフィの仇だ」 たとえ、それが事故だったとしても。そして、彼女の名誉をこれ以上汚さなかったためだったとしても、その死の原因になったのはルルーシュだ。ギアスなどという卑怯な手段を使って自分の希望を叶えようとしたから、とスザクは続ける。 「……わかっている……」 だが、ルルーシュはそんな彼の言葉にいいわけすら代えそうとしてこない。 「お前が俺を殺したいというなら、そうすればいい」 それどころか、彼はこんなセリフまで口にする。 「……ルルーシュ……」 そこまで覚悟を決めているのか。そう考えたときだ。 「だが、今すぐは無理だ」 ルルーシュはこう付け加える。 結局、逃げているだけなのか、とまた新たな怒りがわき上がってくる。 「俺には、ナナリーやユフィが願った、優しい世界を作る義務がある。だから、それが終わるまでは、お前だろうと誰だろうと、殺されてやるわけにはいかない」 だが、それの道筋さえつけられたなら、後は自由にすればいい。彼はそうも続けた。 「逃げようとしているわけじゃないのか?」 そんなことを言って、とスザクは聞き返す。 「そう思うなら、傍にいて見張っていればいいだろう?」 静かな声音で彼はそう言い返してきた。その双眸が真紅に染まっている。何よりも醜悪だと考えているのに、何故か美しいと思ってしまうのはどうしてなのか。 「俺が逃げ出さないように、お前が」 体力的にはスザクの方が断然有利だ。だから、逃げようとしても捕まえればいい。そうも彼は続ける。 「……それはそうだな」 しかし、いいのか? とスザクは言外に問いかけた。つまり、ルルーシュは二十四時間、自分が傍にいてもいいと言っていることになる。普通なら耐えられないのではないか。 「そうしなければ、お前が信用できないのだろう?」 だから、自分は構わない。彼はそう続ける。 「わかった」 そこまで覚悟を決めているというのならば付き合ってやろう。スザクは心の中で呟く。 「ただし、これ以上、嘘をついたら……その場でユフィの敵を取らせてもらう」 それでいいなら、付き合ってやる。そう言った瞬間、ルルーシュは本当に綺麗な笑みを浮かべた。 透明な、はかなさすら感じる笑みだ。 今にも消えそうに思えて、スザクは反射的にその方を掴んだ。 別に彼が死んでも構わない。最後の日には、自分がこの手で……と考えていたはずなのに。しかし、何故仮装しなければいけない、と感じたのだ。 それがどうしてなのか。その時のスザクにはまだ、わからなかった…… 人気のない廊下を出来るだけ気配を消しつつ進んでいく。 もっとも、見つかったところで咎められることはないだろうとはわかっていた。この宮殿にいる者達は二種類しかいない。事情を知っているものか、ギアスに縛られているものだけだ。そして、その者達は命じられたこと以外決して何もしない。だから、自分がここを歩いていても気にとめないだろう。 何よりも、今の世界でルルーシュの希望通りにならないことなんてない。彼はまさしく、世界の覇王なのだ。 それでも、やはり、どこで誰が見ているかわからない。 今回の計画は本当に綱渡りだったのだ。自分の身体能力とルルーシュの思考が辛うじてシュナイゼル陣営のそれを上回っていただけのこと。そして、ニーナが素直に協力をしてくれたから、フレイヤを無効化出来た。 つまり、辛うじてこちらに人材が集まっていたのだ。それが、ニーナの罪悪感をルルーシュが煽ったからだとしても、だ。 他にも、ギアスとは関係なく彼に協力をしてくれる者達がいる。 ならば、どうして最初からそうしなかったのだろうか。そんなことも考えてしまう。そうすれば、もっと違う結果になっていたのではないか。 それすらも、今更のことだ。 全ては終わったことで、そして、これから最後の幕が開く。 しかし、と思う。 本当に、それでいいのか。 最近、そんな疑問がわき上がってきたのは何故なのだろう。あの一月の間に、何度も何度も話し合ったのに、とスザクは心の中で呟く。 「一度動き出した歯車は、そう簡単には止められない」 それはわかっている。しかし、止められるものならば止めたい。 こう考えるようになったのは、最近、見るようになった夢のせいだろうか。 広い草原のようなところで、ルルーシュが胸から血を流しながら倒れている。血の気を失った彼の、固く閉じられた瞳に気付いた瞬間、スザクは自分の心臓が鷲掴みにされたような感覚に襲われた。次に襲ってきたのは、とてつもない喪失感だった。ユーフェミアの時ですら感じなかったそれに、スザク自身が信じられない思いを抱いたことは言うまでもない。 だが、逆に言えば、自分がそれだけルルーシュの存在を必要としているという証拠ではないか。 それが愛情だとは思わない。憎しみの対象だとしても、と心の中で呟いたところで、自嘲の笑みが浮かぶ。 「今の俺たちの関係で、それは言えないよな」 憎しみは消えていない。しかし、愛情がないとは言えないこともわかっている。 一度や二度のことならばともかく、もう何度、肌を重ねているのか数えるのも馬鹿馬鹿しいほど、夜を共に過ごしているのだ。しかも、絶対にあれは欲求不満解消の意図を超えている。実際、夕べだって……と考えたところで次第に体が熱くなってくるのを感じてしまう。 「……やばっ……」 小さな声で、スザクはこう呟く。 「今は、それどころじゃないのに」 *************************** 暁月 いったい、どうして母は自分にこの名前を付けたのだろうか。それが昔からの疑問だった。しかし、この本にもそのヒントになるようなものは書かれていない。 確かに、家系をたどっていけば彼に近しい者にたどり着くとはいえ、それだけが理由とは思えない。 小さなため息とともにルルーシュは読んでいた本を閉じる。 「どうかしたの、ルルーシュ」 即座にスザクが問い掛けてきた。その眼差しには不安そうな色が見え隠れしている。 それはきっと、先日、体調を崩してしまったからだろう。この友人――とだけはもう言えないが――は、何故か、ルルーシュの体調となると必要以上に心配してくれるのだ。 「必要な資料ではなかっただけだ」 心配するな、とルルーシュは言外に付け加える。 「なら、いいけど……でも、無理は禁物だよ」 また倒れたら大変だ、とスザクは続けた。 「大変なのは俺の体調よりもお前の成績の方だと思うが」 ジノ達とクラスメートになりたければ何も言わないが、と言い返す。 「それは、やだな」 さすがに、とスザクは口にする。 「そんな事になったら、ナナリーはともかく、ロロが『兄さんと別れろ』って騒ぎ立てるに決まっているんだ」 それだけではなく、他の者達も便乗するに決まっている。彼はそうも付け加えた。 「あいつは……」 そのことばにルルーシュは小さなため息を漏らす。何故かはわからないが、ロロは初対面──しかも、その時はまだ本当にただの《友人》だったのだ──の時からスザクを目の敵にしていた。今日も彼の勉強を見に行くと言った瞬間、思い切り反対された。しかし、この関係を面白く思っている──それはそれでは、問題ではないかとおもう──母の一言であきらめさせる事が出来たのだが、とまたため息を付く。 「それでなくても、ルルーシュは人気者なのに」 だから、と彼は表情をひきしめた。 「ここ、教えてください」 公式はあっていると思うんだけど、といいながら問題集を差し出してくる。そして、ある問題を指差した。 「どれだ?」 そういいながらルルーシュは彼の指先を覗き込む。 「あぁ、公式はあっているが……途中、プラスとマイナスを間違えているぞ」 だから答えが出ないのだ、と続ける。 「えっ?」 本当?でもといいながら、彼は改めて自分が書いた式を見直し始めた。しかし、どうやら自分ではわからないらしい。そういうこともよくあることだ。そう思いながら、ルルーシュはそっとその部分に己の指を移動する。 「ほら、ここだ」 ここの部分でプラスとマイナスが入れ代わっている。そういえば、彼にもようやく自分のミスが見つけられたようだ。 「本当だ」 自分はこんなことで今まで悩んでいたのか、とため息を付く。 「そういう、うっかりミスが多いよな、お前は」 そこを直せば、もっと点数が取れるはずだ。ルルーシュは苦笑と共にそう告げた。 「……そうは言うけど……それが一番難しいんだよ」 計算している最中は、それが正しいと思っているんだし……とスザクは言い返してくる。そして、わからなくなったら、どこで間違えたのか考える余裕もなくなるのだ、と彼は続ける。 「そう言うときは、逆から見ていけばいい」 逆から見ていけば、違和感を見つけられるものらしい。ルルーシュは以前、親戚から聞いた言葉を口にする。 「……それって、面白い考えだね」 「あの人の思考パターンだけは、未だに理解できないからな、俺も」 比較的近い存在の親戚――手っ取り早く言えば、伯父だ――はチェスの名手で、ルルーシュは一度も勝てた覚えがない。もっとも、本人はあくまでも『趣味だ』と言い張って、周囲の者の怒りを買っているらしい、とも聞いた。 だが、それでも不思議と、彼は自分にだけは嘘を言わないらしい。母と伯母がそう言って驚いていたことも覚えている。 「まぁ。確かに逆から見ていくと予想もしていないミスを見つけられることもある」 おかげで助かったことがあることも否定しない。ルルーシュはそう付け加えた。 「ルルーシュがそう言うなら、そうなんだろうね」 そう言いながら、スザクはもう一度視線を問題集へと戻す。 「後もう一カ所、間違っているところがあるぞ」 答えは奇跡的にあっているようだが、とそんな彼に向かって言葉を投げつける。 「え? どこ?」 そう言いながら、スザクは視線を彷徨わせ始めた。 「その位、自分で探せ」 方法は教えただろう? とルルーシュは言い返す。 「そう言わずに、教えてよ」 答えが合っているなら、自分では見つけられない。スザクはそう主張をしてくれる。 「ったく……それでは、お前の勉強にならないだろうが」 自分でやらなければ意味がないだろう、とそんな彼をにらむ。 「そう言わずに」 教えて、とスザクはそんな彼を上目遣いに見つめてきた。そうすると、捨てられた子犬が救いを求めているように思えるのはどうしてなのか。目の前の相手の中身が決してそんなかわいらしい存在ではないと知っているのに。そう考えつつ、ルルーシュは視線をそらす。 「ねぇ、ルルーシュってば!」 教えてよ、とスザクはしつこくもねだってくる。 「でないと、この後の予定が狂うよ」 しかし、この一言は聞き過ごせない。 「……お前……」 ひょっとして、最初からそれがねらいか……と思わず口にしてしまう。 「何のこと?」 それに彼はにっこりと微笑み返してくる。 「ともかく、教えて?」 ね、と付け加えられて、ルルーシュは処置なしというように天井を仰ぐ。 「本当に、お前は……」 だから、成績が伸びないのだ……と口の中だけで呟く。 「ジノと同級生になるのは決まったかもしれないな」 頭を使おうとしないから、体力バカだ……と言うのだ。そう言ってまたため息をついた。 「そこまで言うことないだろ、ルルーシュ!」 確かに、頭を使うよりは体を動かしている方が性に合っているけど……とスザクは頬をふくらませる。 「そう思うなら、少しは自分でやれ」 いつまでも自分をあてにするな、と言い返す。 「……ルルーシュ?」 どういうこと? と聞き返しながら彼は表情を強ばらせた。ひょっとして、自分の前からいなくなるのか、と続ける。 「三年にあがれば、文系理系でクラスが別れるだろうが」 そうなれば、離れ離れになる可能性もある。それも忘れたのか、あきれたように付け加えた。 「……そう言えば、そうだっけ」 忘れていた、とスザクは真顔で言う。 「お前……」 ルルーシュでなくても頭を抱えたくなるのは当然ではないか。 「だって……ルルーシュが傍にいてくれるんだから、やっぱりルルーシュのことを優先したいよ」 まぁ、勉強が大切だと言うこともわかってはいるが、と彼は付け加える。 「わかっているなら、集中しろ! その方が時間を有効に使えるだろうが」 集中して真面目にやりさえすれば、そんなに時間はかからないのに、と心の中で呟く。 「……ご褒美くれるなら、頑張る」 「褒美?」 何か、いやな予感がするのは錯覚だろうか。そう思いながら聞き返す。 「そうだな……自分で考えてちゃんと出来たら、ルルーシュからキスしてくれる?」 いつも自分からだから、とスザクは笑いながら言った。 「俺から?」 聞き間違いだろうか。そう思いつつ聞き返す。 「そう、君から」 しかし、本気で彼はそう言ったらしい。ルルーシュからすれば、それは青天の霹靂と言っていい言葉だ。 「そんな、はしたないこと……」 出来るか、と思わず言い返してしまう。 「もっとすごいこと、しているだろ?」 変なルルーシュ、とスザクは笑った。 「本当に、妙なところにこだわるよね」 そう言うところもルルーシュらしくて好きだけど、とさりげなく彼は付け加える。 「……スザク、お前……」 自分を怒らせたいのだろうか、彼は。 「いい加減にしないと、帰るぞ」 その気持ちのまま、ルルーシュはこういった。 「る、ルルーシュ!」 この言葉を耳にした瞬間、スザクが慌て出す。 「お願いだから、それはやめて」 せっかく、二人だけなんだから……と彼は続ける。ルルーシュが泊まっていくなんて、滅多にない機会なのに……と彼は泣きそうな表情で付け加えた。 「……仕方がないだろう。寮にいるとはいえ、ロロとナナリーの面倒を見ないといけないんだから」 父親はもちろん、母親も仕事で世界中を飛び回っている。双子がルルーシュの後を追いかけて中学から寮暮らしをするまでは日帰りできる範囲内でのみ仕事をしていた反動が今来ているのだ、と本人は言っていた。それをどこまで鵜呑みにして良いものかはわからない。だが、自分を信用してくれているからこそ、二人ともそんな生活を出来るようになったのではないか。そう考えれば、責任を果たすのが当然と思える。 そのしわ寄せがスザクに来ていることも否定は出来ないが。 「でも……僕たち、恋人同士だよね?」 おそるおそるというように問いかけてくる。 「何だ? 否定して欲しいのか?」 して欲しいなら、いつでもしてやる。ただし、その場合、自分たちの縁はそこで切れると思え、とルルーシュは言った。 「否定したいわけないでしょう! 君の恋人になるまで、どれだけ努力したと思っているんだよ!」 お願いだから、冗談でもそんなことは言わないで欲しい。この言葉とともに彼はテーブルに頭をすりつけるようにした。 「先に口にしたのはお前の方だろう?」 まったく、とあきれたように呟く。 「そんなこと、確認しなくてもわかっているだろうが」 ロロとナナリーが両親に一人前と認められるまで、二人を優先するのは家族として当然のことだ。それでも、スザクのことをないがしろにしたつもりはない。 「お前以外に、あんなことをさせた記憶はないし」 させるつもりもない。こう言い切ればスザクはようやく安心したのか。顔を上げた。その目尻に涙がにじんでいる。 「頑張ったら、夕食にお前の好きな煮込みハンバーグを作ってやる。それで妥協をしろ」 手を伸ばしてその涙をぬぐってやりながらルルーシュは微笑む。 「にんじんのグラッセもつけてくれる?」 「お前が食べたいならな」 ルルーシュの言葉に、スザクは小さく頷く。 「なら、さっさと終わらせてしまえ」 そうすれば、買い物に行くついでにリクエストできるぞ……と言えば、彼は再びシャープペンシルを手に取った。 「……でも、キスの方がよかったな……」 ぼそぼそと呟かれた言葉を、ルルーシュは聞こえなかったことにする。 「付け合わせは、後何がいいかな」 代わりにこう呟いた。 それに、スザクは思惑が外れたという表情を作る。それに微苦笑を浮かべつつ、ようやく足りないピースを手に入れられたという思いをかみしめていた。 そんな彼等を遠くから見つめている眼差しがあることに、彼等は気付いていなかった。 |