前略

 目の前にいたのは、あのころとまったく変わらぬ姿の二人だった。C.C.に関しては予想していたのだが、ジェレミアまでもがそうだ、とは思わなかった。
「ケガの状態は?」
 だが、とすぐに思い直す。彼は嚮団でかなりの人体改造を受けていたはず。その影響が外見にも及んでいるのではないか。その可能性はある、と以前《彼》が言っていたではないか。どのようなときにでもその名を口に出すことを許されない。その事実が少しだけ哀しい、と改めて認識させられてしまう。
 しかし、今は郷愁に浸っているときではない。
「……悪くはないわよぉ。と言っても、よくもないけどぉ」
 生身の部分のケガは、とりあえず治療した。しかし、問題なのはメカの方なのだ。そうラクシャータは続ける。
「医療サイバネックはアタシの専門だけどぉ、オレンジの体に使われているのは、アタシの知らない技術なのよねぇ」
 むしろ、これはナイトメアフレームの技術を応用しているのではないか。もちろん、その二つが密接に関係していることは否定できないが。しかし、と彼女は悔しげに顔をしかめた。
「……治せるのか?」
 だが、今はそれよりもこちらの方が重要だろう。
「普通に動く程度には、ね」
 日常生活には困らないようには出来る。しかし、以前のようなあのむちゃくちゃな戦闘は出来ないだろう。そう彼女は付け加えた。
「……構わない」
 静かな声が部屋の空気を震わせる。
「ジェレミア」
「私たちは、もう、戦うことを捨てた人間だ」
 平穏に暮らしていければ、それでいい。そして、あの方を偲ぶことを許してもらえれば……と告げる声音に、偽りは感じられない。
「なら、そのケガはどうしたのか……説明してもらえるのだろうな?」
 ゼロが来たのだから。そう問いかけたのは藤堂だ。
「バカが出ただけだ」
 ため息とともにC.C.が口を開く。
「バカ?」
「そう、バカだ」
 それ以外に表現のしようがない、と彼女は続ける。
「でなければ、田舎の農園に、あれだけの人数で押しかけてくるはずがないだろう?」
 おそらく、自分たちでなければ死んでいた。その言葉に、スザクは眉を寄せる。
 だが、それはまだ可愛いものだった。
「ジェレミアですら、これだけのケガを負った。離れ離れになったアーニャと息子がどうなっているか……」
 元ラウンズであったアーニャはともかく、息子は運動神経に難がある……とC.C.は爆弾発言をしてくれる。
 そのせいだろうか。
 室内にいた黒の騎士団関係者が凍り付いてしまったのは。
「……シィツゥ……」
 真っ先に我に返ったのはスザクではなくカレンだった。
「今、なんて言ったの?」
 その声が震えているのは、決して感動しているわけではない。もちろん、泣いているわけでもないはずだ。
「息子、と言ったが? それがどうかしたのか?」
 ついでに、夫もいるぞ……と彼女は平然と言い返す。
「……夫……」
 あのC.C.に、と思ってしまったのは自分だけではないはずだ。と言うよりも、彼女と結婚をしようなどと言う剛の者がいるとは思えなかったのだ。
「私にだって、求婚者の一人や二人、いるぞ」
 もっとも、そんな人間とは結婚しなかったが……と彼女は付け加える。
「それに……平穏な生活が望めるとは思えなかったしな」
 少なくとも、以前は……と少し寂しげな笑みを浮かべた理由を知っているのは、自分だけだろう。いや、ジェレミアも知っているのかもしれない。

以下、発行予定の本へと続く。