しかし、予想以上に事態は複雑になっているようだ。
「……中華連邦から援助を受けている連中、か」
 何かいやなものを感じたのは自分だけではないらしい。藤堂も『調べておく』と言っていた。あるいは、日本解放戦線にもそうしている者がいるのだろうか。
「ともかく、桐原達に連絡を取らないとな」
 彼の方からも探りを入れてもらおう。ついでに、久々に神楽耶とお茶をしたいし。そう思いながら家路を急ぐ。
「やっぱり、カレンに付いてきてもらった方がよかったか?」
 租界に戻ってしまえば安心だ、と思っていたが、公園内部はやはり薄暗い。何があってもおかしくない、と言った雰囲気だ。
「ここさえ抜けてしまえば、リヴァルのバイト先が直ぐなんだが……」
 そこまでたどり着けば、後は彼のオートバイで戻ればいい。待っている間はマスターとチェスをしていてもいいだろう。そんなことを考えながら足を速める。
 後少しで公園を抜ける、と言うところまで来たときだ。
「嘘だろう!」
 何故か、目の前にブリタニア軍がいる。しかも、かなりの数だ。
「そんな情報、なかったはずなのに」
 目的地はどこか。シンジュクゲットーでなければいいが、とそんなことも考える。もし、そうであれば、直ぐに皆に連絡を取らないと……と心の中で呟いた。
「君、そこにいると危ないよ」
 その時だ。歩兵の一人がこちらに駆け寄ってくる。その装備から判断をして、名誉ブリタニア人だろう。しかし、何か見覚えがあるような気がするのだが……と思ったときだ。
「って、ルルーシュ!」
 相手が驚いたように彼女の名を呼んだ。そのまま、ヘルメットを取る。
「お前……スザクか?」
 その瞬間現れた柔らかそうな癖毛と翡翠の瞳に、いやと言うほど見覚えがあった。
「まさか、本当に軍にいるとは……」
 想定はしていたが、可能性としては一番低いだろうと思っていたのに……とルルーシュは呟く。
「君は今?」
 そんな彼女の言葉に気付いていないはずがない。なのに、綺麗にそれを無視して彼はこう問いかけてきた。
「……とりあえず、普通に学生をしている。カレンも一緒だ」
 さりげなく付け加えた言葉に、彼は複雑な表情を作る。
「カレンは書類上、父君に引き取られているからな」
 彼女の母とナオトの説得だ。そして、それにルルーシュも手を貸したことが事実だ。その方が色々と都合がいいと言えば、彼女も納得してくれたこともである。しかし、それを今のスザクに告げない方がいいような気がする。
「それよりも、お前はどうして?」
 だから、話をすり替えようと逆に質問をぶつけた。
「……聞いてないの?」
 それにスザクは驚いたように目を丸くする。
「家出したことは聞いている。その理由までは誰も教えてくれなかったが」
 これは嘘ではない。誰に聞いても微妙に言葉を濁すのだ。
「そうなんだ」
 その瞬間、どこかほっとしたような表情をしたのは何故なのだろうか。
 後で確認した方がいいのかもしれない。だが、今は脇に置いておこうと思う。
「どう見ても軍人だな」
 そう言ってルルーシュが淡い笑みを作ったときだ。
「貴様!」
 こう言いながら、誰かが歩み寄ってくる。
「……えっと……」
 どういいわけをしよう、とスザクが頬をひきつらせた。
「お前な……」
 後先を考えずに行動するところは変わっていないのか、とルルーシュはあきれたくなる。だが、このままでは彼の立場が悪くなるだろう。ロイド経由で手を回すにしても、その前に処分されてしまっては意味がない。だから、と口を開こうとしたときだ。何故か、ルルーシュの顔を見た相手が凍り付いている。
「民間人の知人が危険区域に足を踏み入れそうでしたので、止めていました」
 その隙に何とかいいわけを見つけ出したのだろう。スザクがこういった。
「そ、そうか」
 この男の顔に見覚えがある。それも、ブリタニアにいた頃だ。と言うことは、自分の本来の身分を知っていると言うことか。さて、どうやって言いくるめようかとルルーシュはいくつもの方策を脳裏に思い浮かべる。
「では、貴様が責任を持って安全な場所まで連れて行け」
 だが、せっかく考えたそれらを披露する前に、相手がこう言ってくれた。それはある意味、ありがたいことなのかもしれない。だが、どこか肩すかしを食らったような気がするのも事実だ。
 後で必ず返し風が吹くような気もする。
「行こう」
 どうするべきか、と心の中で呟くよりも早く、スザクが手を差し出してきた。
「……手をひいて貰わなくても歩けるぞ」
 迷子にもならない、と付け加える。
「わかっているけど、その方が安心できるから」
 僕が、とスザクは笑みを深めた。そんな彼の言動に違和感を覚えるのは、やはり昔のことを覚えているから、だろうか。
 本当に、行方不明になってから何があったのだろう。
 それを知りたいとおもってがいけないのか。そんなことを考えつつ、ルルーシュは渋々、彼の手に自分のそれを重ねた。


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