「……やっぱり、信じられないわ……」
 小さな声でカレンが呟いている。彼女の視線が何に向けられているか。それに気が付いた瞬間、ルルーシュは苦笑を浮かべた。
「あれがラウンズだなんて」
 確かに、今の彼の様子ではそれも無理はないのだろうか。一見すれば、隙だらけのようだ。しかし、それが見た目通りなのかどうか。彼女にもわかっているはず。
「なら、しかけてみるか?」
 小さな笑いと共に問いかける。それに彼女はどうしようかというように首をかしげて見せた。だが、直ぐに小さな苦笑を浮かべる。
「やめておくわ。そんなことをしたら、演技がばれる上に勝負が付かないもの」
 それでは、今までの努力が無駄になってしまう。彼女の顔にはしっかりとそう書いてある。そうなってしまえば、学校を休む口実がなくなってしまいかねない。それはつまり、今後の活動に支障が出る、と言うことだ。
「でも、スザクと同レベルなのよね、あいつ」
 つまり、彼も実力だけはラウンズと同レベルなのだろうか。カレンの瞳がそう言っている。
「お前とも同レベルだ、と言うことだぞ」
 スザクと甲乙がつけられないという点では、カレンだって同じだ。
「なんなら、ラウンズを目指してみるか?」
 カレンの場合、スザクよりも超えなければいけなハードルは低い。何よりも、彼女であればマリアンヌが気にいるのはわかりきっていた。そうなれば、士官学校や何かと言ったステップを吹き飛ばしてラウンズに取り立てられる可能性は否定できない――実際、アーニャという前例があるのだ――彼女の願いであれば、シャルルだって無視は出来ないし……と心の中で付け加える。
「今空いているナンバーはどれだったかな」
 円卓が完全に埋まっているわけではないし、とルルーシュは呟く。
「やめて……興味がないわけじゃないけど、でも、やっぱり、あたしは日本人でいたいから」
 即座にカレンはこう言い返してくる。
「まぁ、ルルーシュの騎士、と言う地位には興味がないわけじゃないけど……」
 こう付け加えてくれたのは、彼女が自分に対して好意を抱いてくれているからだろう。
「……まぁ、それは日本を取り戻してからでも考えればいい」
 その時、自分がブリタニアに帰るかどうか。それもわからないのだ。全てはシャルル次第だだろう。と言うことはずっとこの地にいることになるのかもしれない。それはそれで楽しいから構わないのだが、と考えたときだ。
「ルルちゃん!」
 背後からミレイが抱きついてくる。
「なんですか、会長」
 その浮かれぶりにいやなものを感じたのはルルーシュだけではないはずだ。
「ピザを作れるわよね? 生地から」
 問いかけではなく断定だ。その言葉を聞いた瞬間、カレンが気の毒そうな視線を向けてくる。間違いなく厄介ごとだ、と判断したのだろう。
 無視したい。だが、無視すればその分被害が大きくなることも十二分に学習している。スザクとは別の意味で厄介だと言えるかもしれない。だが、彼女の場合、そんな態度に出るのは校内だけだから、まだましなのか。
「……作れますが?」
 それが何か、と聞き返す。
「よかった。なら、一度作ってみてくれない? あの二人の前で」
 そう言いながら、彼女は窓の外へと視線を向ける。その先にいたのは、もちろん、スザクとジノだ。その傍で逃げ腰になっているのは間違いなくリヴァルだろう。あるいは、二人が暴走しないようにお目付役を押しつけられたか。それこそ、彼には重荷だろう。と言うよりも、二人の方で視界に入れていない可能性もある。
 だが、それよりも今は気にかかることがある。ミレイの言葉葉に、思い切りいやな予感を感じたのは自分だけではない、とルルーシュは言い切れる。
「会長?」
 何をする気だ、と言外に問いかけた。その答え次第では断らせて貰おう。それが難しいとはわかっていても、全力でそうするしかない。はっきり言って、好きこのんであの二人の決闘に巻き込まれるような趣味はないのだ。
「次の決闘が丁度学園祭に重なるのよね」
 それを利用しない手はないだろう。ミレイはそう言って微笑んだ。
「あの二人、どちらもナイトメアフレームの操縦は一流なんでしょう?」
 さらに付け加えられた言葉に、カレンの口元が引きつっている。自分がそれと同レベルだと知られたらまずい。そう考えているのではないか。確かに、彼女の正体がばれるのは自分としても困る。だが、ジノの口からばれる心配はない。となると、問題なのはやりスザクか。
「一流という基準がどこにあるのかはわかりませんが、とりあえず、普通の騎士候では勝てないでしょうね」
 マリアンヌやビスマルクに比べたらまだまだだろう。しかし、そこまで基準をあげてしまうと、一流といえる人間はラウンズの中にもいないことになってしまうか……と心の中で付け加えた。
 だから、とりあえずラウンズであるジノのレベルを基準として考えることにしたのだ。
「それで、やってみたいことがあるのよね」
 うふっと笑いながら付け加えられても『そうですか』と頷くことが出来ない。下手に頷けば間違いなく共犯扱いをされるに決まっている。とんでもない内容だった場合、スザクやジノに恨まれてしまう。その時に、彼等がどのような行動を取るか。はっきり言って考えたくはない。
「なんですか?」
 おそるおそると言った様子でカレンが問いかけた。
「巨大ピザ作り対決よ! 一センチでも大きく作った方が勝ち、と言うところかしら」
 これならば、終わった後にみんなでピザを堪能できるだろう。それはそうかもしれないが、とルルーシュはため息を吐く。
「そのピザの具やソースは誰が準備をするのですか?」
 間違いなく、自分がやらなければいけないはずだ。いったいどれだけの量を用意すればいいのか、と考えただけで頭が痛くなる。
「具は、リヴァルが切るでしょう。ソースは……不本意だけど、市販のものでいいんじゃないかしら」
 ルルーシュに『作れ』とは言わない、と言うが、どこまで信用していいものか。絶対に、途中でおいしくないからと言って前言を翻しかねない。そんな予感がある。
「それに関しては、きちんと計画案に明記して置いてくださいね」
 それが出された時点で協力をするかどうかを決める事にする、とルルーシュは言った。
「ルルちゃん!」
 ショックを受けたというような表情をミレイは作る。
「過去のあれこれを思い出してからそう言う表情はしてください」
 どれだけ自分たちが迷惑を被ったか。直ぐに思い出せるだけで既に両手の指の数では足りないほどなのだ。それを覚えているのだろう。カレンもしっかりと頷いている。
「なんでしたら、リヴァルとシャーリーにも同意を求めてきますが?」
 多数決では既に負けているが、とルルーシュはミレイを見つめた。
「わかったわよ……まったく、ルルちゃんってば……最近、可愛くないわ」
 最初にあった頃はもう少しかわいげがあったような気がするが、とミレイはわざとらしいため息を吐く。だが、ルルーシュから言わせれば、最初から自分にかわいげがあったとは思えない。仮にあったとしても、誰かさんのせいでなくなったに決まっている。そう主張したい。
「まぁ、いいわ。とりあえず、学園行事としてのお祭りだもの。せいぜい、派手にやらせて貰うわよ」
 その位は妥協してよ、とミレイは言う。


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