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「枢木さん!」 かけられた声に、スザ子は振り向く。そうすれば、先日転校してきたばかりの男子学生が緊張した面持ちで立っているのがわかった。 確かに友人達が騒ぐだけ合ってそれなりに整った容姿をしているような気はする。だが、自分の婚約者に比べれば、月とすっぽんだ。彼の完璧と言っていい容姿に勝てる人間なんていないだろう、とスザ子は信じている。 「僕に何のよう?」 それでも、同級生である以上、無視をするわけにもいかない。そう思って問いかける。もっとも、その表情を見ていれば、相手が何を言いたいのか想像はついたが。 「俺と付き合ってください!」 予想通りのセリフを彼が口にしてくれる。 「悪いけど、僕には婚約者がいるから」 誰とも付き合うつもりはない。即座にそう言い返す。 「そんな男より、俺の方が!」 「顔良し、性格良し、家柄良し、ついでに僕たちと同じ年だけど、既に自力で稼いでいる。そんな人間に勝てると思っているのか?」 相手に最後まで言わせることなく、スザ子はさらに言葉を重ねた。 彼に欠点があるとすれば、その体力の無さ、だろうか。だが、それも、自分や自分の片割れと比べるから目立つだけであって、とりあえず人並みの体力はあるはず。 「何よりも、スザクが『親友』と言ってはばからないほど気に入っている。そういう人間でないと、僕の相手は無理だから」 ついでに、神楽耶に認められないと……と付け加えながら、スザ子はさらに笑みを深める。 「それに僕は、自分の身の程を知らない人間は大嫌いなんだ」 その表情のまま、きっぱりと言い切った。 「……なっ……」 まさか、ここまで言われると思わなかったのだろう。それとも、断られること自体予想していなかったのか。どちらにしてもバカには違いない……とスザクは判断をする。 「では、失礼」 今日は早く帰らなければ行けない理由があるのだ。いつまでもこんなバカと関わり合っているわけにはいかない。そう判断をして、スザ子はきびすを返す。 「枢木さん!」 そんな彼女の背中に追いすがるような声が届く。しかし、それに振り返ることはなかった。 階段を下りようとして、そこに自分の片割れが立っているのが見えた。 「ずいぶんとあっさりと振ったな」 スザ子が口を開くよりも先に、スザクがこう言ってくる。 「当たり前だろう」 あきれたようにスザ子は言い返した。 「僕が彼以外に興味がないというのは、お前だってよく知っているだろうが」 友人ならばまだしも《恋人》として認識する気になれるのは、やはりルルーシュだけだ。そういって笑う。 「だろうな。もっとも、おかげで面白くない結果になった」 その言葉だけで、彼等が何をしていたのか想像がついてしまった。 「……また人をかけのネタにしたな?」 「いいだろう。その位のお遊び」 それに、いい小遣い稼ぎになるのだ……と彼は笑う。 「お小遣いなら、十分貰っているだろう?」 一応、あれこれして厄介ごとに巻き込まれないように、と言う配慮なのか。それに関しては甘やかされていると思う。実際、自分はバイトをしなくても十分欲しいものを手に入れて、なおかつ貯金も出来ているのだ。 「しかたがないだろう。部活の後は腹が減るんだ」 だが、男である彼は違うらしい。 「……ルルーシュはお小遣いどころか、生活費も自分で稼いでいるぞ」 そんなことをしなくてもいい立場なのに、とあきれたくなる。だが、ルルーシュにはルルーシュの考えがあるらしい。もっとも、手持ちの株の配当だけでも一財産作れるのだから、いいのかもしれない。 「あいつと俺の頭のできを比べるな」 ゲンブだけではなく、桐原老ですらそれに関してはルルーシュに相談を持ちかけるほどなんだし、とスザクは言い返してくる。 「それだけ、ルルーシュが努力しているだけだけど、な」 そう告げると、スザ子は教室に戻るために、階段を下りていく。 「そういえば……今日、道場は?」 行かないのか? と後ろを付いてきたスザクが聞いてきた。 「帰るに決まっているだろう?」 今日、ブリタニアに戻っているルルーシュが帰ってくるのだ。教えてくれる藤堂には悪いが、どちらが優先かなんて、決まり切っている。 「……ちっ」 だが、自分の答えを聞いた瞬間、スザクは思いきり嫌そうに舌打ちをしてくれた。それがどうしてかなど、確認をしなくてもわかる。性別以外は自分とうり二つなこの片割れは、やはりルルーシュに劣情を抱いているのだ。 「残念だったな。僕が学校以外で、お前とルルーシュを二人だけにするものか」 自分の婚約者を自分の兄に取られるなんて、女として廃る。 「……それって、二人きりって言わないだろうが」 まったく、と彼はあきれたようにため息をついてみせた。 「そもそも、お前には神楽耶がいるだろう?」 男に血道を上げてどうするんだ、と逆にスザ子の方がため息をつきたくなる。 「神楽耶は気にしないな」 むしろ、ルルーシュであれば大歓迎と言いかねない。スザクはこう、スザ子の斜め上のセリフを口にしてくれた。 「はぁ?」 何馬鹿なことを言ってんの、と思わず言い返してしまう。 「女に浮気されるよりもましだって、さ」 子供が出来る心配はないし、何よりも、ルルーシュに逃げられることもない。そういっていた……と言われて、本気で頭を抱えたくなる。 「何を考えているんだ、あいつは」 箱入りで育てられたせいで常識と外れた考え方をしているとは思っていたが……とため息をつく。 だが、それを言うなら、ルルーシュだってかなり箱入りで育てられたはずだ。実の母と妹を亡くし、まるで人身御供のように自分の婚約者としてこの日本にやってきた。だが、そんな彼をブリタニア皇帝や兄姉たちが溺愛しているらしいことはその後のあれこれからもわかっていた。 今回の帰国だって、ブリタニアで行われる式典に参加するように、との一言で強引に連れ戻されたから、だ。それがなければ、自分たちと一緒に三年生としてこの場にいたのに。そう考えた瞬間、スザ子の脳裏に先ほどのバカの顔が浮かんでしまった。 「ルルーシュがいてくれれば、あんなバカに声をかけられることはなかったのに、な」 その分、女性陣に囲まれることになる。しかし、それは自分一人でも同じ事だから気にならない。ただ、どちらが『攻め』でどちらが『受け』とかとこそこそと話し合わないで欲しいとは思う。どちらがどちらでも――たとえ自分が《女性》だと認識されていなかったとしても――カップルとして認められているなら構わない。ようは、ルルーシュを狙うバカがいなければいいのだ。 しかし、自分の片割れは違う。 そんなことを考えながらも、足早に階段を下りていく。 「神楽耶とは後でゆっくりと話し合わないと」 余計なことを自分の片割れに吹き込まないで欲しい。 「いっそ、キセイジジツでも作ってしまえばいいのか?」 そうすれば、誰にも何も言わせなくてすむだろう。万が一妊娠したとしても、それは周囲が喜ぶだけだ。正式に結婚する前にとか何だと言った無粋なセリフを言うものはいない。だから、構わないだろう。 「……ルルーシュは嫌がるかもしれないけど」 男のくせに――と言ってはいけないのかもしれないが――ルルーシュはあれでも貞操観念が妙に強い。スザクが猥談を持ちかけても、頬を赤らめて逃げ出してしまうほどだ。それがスザクの行動に拍車をかけていることも否定できない。 ひょっとしたら、スザクがルルーシュにそんな感情を抱いているのも、そんな反応が楽しいからではないだろうか。 だから、ルルーシュに少し耐性をつけさせた方がいいのかもしれない。 「ルルーシュが浮気をする可能性も……否定できないか」 本人の性格はともかく、父親や兄弟達があれだ。そして、ここにも悪い見本がいる。 なら、ついでにしっかりと教育もしておこう。そんなことを考えて少しだけ笑みを浮かべた。 以下、発行予定の本へと続く。 |