あなたの愛に酔う

 空が青い。
 しかし、それとは裏腹にルルーシュの心は暗かった。
「……ルルーシュ様?」
 どうかなさいました? とミレイがそっと声をかけてくる。
「会長。ここは学校ですが?」
 言外に、その呼び方はやめろ……とルルーシュは告げた。
「大丈夫です。ここには今、私と貴方だけですから」
 だから、と彼女は優しい微笑みを向けてくる。それは自分たちが幼かった頃から変わらない数少ないものだ。
「……それよりも、本当にどうかされたのですか? 朝からため息をつきっぱなしですよ?」
 物思いにふけっている表情が色っぽいとリヴァルが騒いでいたが、と彼女はどこか楽しげな口調で付け加えた。
「……リヴァル……」
「ご心配なく。今頃、倉庫で書類整理をしていますよ。ついでに、枢木スザクも一緒に」
 ニーナは地下の研究室にいるし、シャーリーは部活、カレンは今日も休みだ。この言葉に、少なくとも男性陣二人に関してはミレイが故意にこの場から遠ざけたのではないか、とそう判断をする。
「ですから、安心して相談してください」
 自分は、どのようなときでもルルーシュの味方だから。そう告げる彼女の言葉は嘘ではないだろう。
 それでも、だ。
 ためらってしまうのは、それが本当に個人的なことだから、だ。
「ルールちゃん?」
 そうやって、何もかも自分の中にため込まないの……とミレイはいきなり《会長》の口調に戻って告げる。
「……貴方は……」
 こうやって、自分の立場を使い分けるから、彼女は厄介なのだ。もちろん、それが彼女の気遣いだと言うこともわかっている。
「何なら、会長命令でもいいのよ?」
 ちゃっちゃと話なさい! と彼女は笑いながら言った。
「……鏡志朗さんと、連絡が、取れない……」
 今まで、こんなことはなかったのに、とルルーシュは小さな声で付け加える。
 キョウトに仲介して貰っての連絡だったから、すぐに返事が返ってくることは珍しい。状況によっては、半月ぐらいは帰ってこないこともあった。それでも、こんなに音沙汰がなかったことはない。
「先日、日本解放戦線が壊滅させられた、と……ひょっとしたら、鏡志朗さんもその時に……」
 そう考えたくないから連絡を取りたかったのに、とルルーシュは続ける。もし、そうだとするならば自分は生きている意味を失うのに、とも告げた。
「ルルちゃん!」
 そんな彼女の体をミレイがしっかりと抱きしめてくる。
「そんな悲しいこと言わないで。ルルちゃんまで失ったら、私たちはどうすればいいの?」
 今のアッシュフォードはルルーシュがいてくれるからこそ存続しているようなものだ。それなのに、と彼女は続ける。
「私たちはマリアンヌ様を守れなかった。そして、ルルちゃんの兄君も……それが私たちの罪だとわかっている。だから、ルルちゃんだけは守らせて?」
 藤堂のことも、出来る限りのことはするから……とそう付け加えた。
「すまない、ミレイ……」
 彼女にそんな思いをさせるつもりはなかったのだ。
 アッシュフォードにしても大切な存在をこれ以上失いたくないはず。彼等に残されているものが自分だけである以上、迂闊なセリフを口にしてはいけないと言うこともわかっていた。
 それでも、藤堂の所在がつかめないことがルルーシュを追いつめている。
「……もし、あの人の子がここにいたならば……耐えられたのかもしれないが……」
 小さなため息とともにルルーシュは自分の腹部へと手を添えた。
「ルルちゃん……それはそれで問題よ」
 ルルーシュと藤堂の関係は、キョウトでは当然のことだ。しかし、ブリタニア側ではそういうわけにはいかない。
 何よりも、彼女自身の存在が隠されなければいけないものなのだ。
「そんなことになったら、枢木スザクがどんな暴走をしてくれるか、わかったものじゃないでしょう?」
 今ですら、彼の存在は危険だと言っていい。再会できて嬉しくないわけではないが、それでも、名誉ブリタニア人であり軍人である彼の存在から、いつ自分のことがばれるかわからない。
「……ミレイ……」
「ともかく、待っていて。何なら、ニーナにも手伝わせるから」
 だから、大丈夫。そう言ってミレイはルルーシュを抱きしめていた腕を解放する。代わりに、そっと彼女の頬を撫でた。
「貴方の幸せが私たちの願い。藤堂鏡志朗の存在がそれにつながるというのならば、全力で見つけ出して見せましょう」
 そう告げる彼女の瞳には力強い光が浮かんでいる。
「……無理はするな」
 彼女の気持ちに水を差すかもしれない。それがわかっていても、ルルーシュは思わずこう告げる。
「お前を失っても、私は悲しいから」
 こう付け加えれば、ミレイは幸せそうな笑みを口元に刻んだ。



以下、発行予定の本へと続く。