「暇だ……」
 彼がそう言った瞬間、その場にいた者達は誰もが凍り付いた。その言葉がどれだけ恐ろしいものなのか、身をもって実感させられた人間もこの場には少なくないのだ。
 以前、彼がこの呟きをもらした時には、エリア11のテロリスト達を操って反逆ともとれる事件を引き起こしたのだ。その彼がこの場で普通に過ごしているのは、その事件が結果的にブリタニアの益に繋がったからである。
 ある意味、皇族としての仕事から逃げ回っていた第三皇子は己の力量不足を認めて新たな任地で真面目に政務に励んでいる。
 そして、限られた世界しか見ていなかった皇女達もだ。
 彼女達は、それぞれの考えで人々を導くにはどうしたらいいのかを探している。しかし、ある意味それを一番後悔しているのは彼かもしれない。そのせいで、彼は最愛の妹と離れ離れになってしまったのだ。
 それでも、与えられている仕事が厄介であるうちはまだいい。難解であればあるだけ、彼はそれに集中をしてくれるのだ。
 しかし、最近は、そうではなかった。
 それはどうしてだっただろうか。
 誰もが心の中でそう呟いた。
「シュナイゼル殿下と枢木卿が留守にされていたな……」
 彼等がいないからルルーシュのたがが外れたのかもしれない。ナナリーほど確実ではないが、それでも彼等は間違いなくルルーシュのストッパーだった。何よりも、二人とも彼の心情を正確に読み取れる。その彼等のフォローがあったからこそ、ルルーシュは大人しくここにいたのかもしれない。
「ナナリーに会いたい」
 あぁ、とうとうこの一言が出てしまった……とみなが嘆く。それだけではない。衣服の上から胃のあたりを抑える者や辞表をしたため出す者まで確認できる。
 しかし、ここでルルーシュを逃がしたらそれだけですむはずがない。
「……こうなったら、ゴットバルト卿を……」
「いや、オデュッセウス殿下にご報告申し上げた方がよくはないか?」
 シュナイゼルがいない今は、とりあえず、彼が皇宮内の責任者――もちろん、最高責任者はあくまでも皇帝であるシャルルだが――なのだ。現在、ルルーシュに回されてくる仕事も彼の指示によるものだと言っていい。
「オデュッセウス殿下は、お人柄はよろしいが……ルルーシュ殿下を抑えるには多少お力が足りない」
 むしろ、言いくるめられて終わるのではないか……と聞きようによっては皇族批判と思えるセリフを口にしている者もいる。しかし、それを誰も指摘しようとはしない。そんなことで言い争っている間にルルーシュに逃げられたら困る。そう思っているのだ。
「……ともかく、ジェレミア卿に連絡を。あの方であれば、ルルーシュ殿下をお一人で出歩かせるようなことはないだろう」
 逃亡は防げなくても、お目付役が側にいるだけでもマシではないか。少なくとも、居場所を見失う心配はない。
 それだけでもマシではないだろうか。そんなことまで口にしている。
「……藤堂達も、元気だろうか……」
 あまりに熱中をしていたせいか。騒いでいる彼等の耳にはルルーシュのこの呟きは届いていない。
「久々に会いに行くか」
 ついでに、エリア11の様子も確認したい。不穏な噂も耳に届いているし……とルルーシュは構わずに言葉を重ねる。
「と言うことで、移動手段を確保しておくか」
 そうしておけば、いつでも抜け出せる。今は、シュナイゼルもスザクもこの地にはいないから、と小さな笑みとともに彼はそっとパソコンに手を伸ばす。そして、さりげなく裏技を使って目的を達するための行動を開始した。

 そして、ルルーシュに関する情報がオデュッセウスの元に届いたときには、既に太陽宮内にはその存在はなかった。


以下、発行予定の本へと続く。