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どのような巡り合わせなのかはわからない。だが、世界に捨てられたはずの自分は、世界を変えられるかもしれない力を手に入れた。 だから、と心の中で呟きながら無駄に豪奢な装飾で飾り立てられた廊下を進んでいく。 「悪趣味だな、相変わらず」 いや、見るものが見れば趣味がいいというのだろう。もっと正確に言えば、緻密に計算された装飾品は美しい調和を醸し出しているというかもしれない。しかし、こう呟いてしまうのは、間違いなく今の自分の立場が関係している。 もし、この装飾にかける金額の百分の一でもゲットーにすむ者達に向けられれば、彼等の生活はどれだけ改善されるだろうか。 いや、それ以前に、自分の側にいる者達を幸せにしろ、といいたい。もちろん、これもある意味八つ当たりなのだろ言うこともわかっている。 それでも、とルルーシュは心の中だけで呟く。今の自分の気持ちを心おきなくぶつけられる相手は彼しかいない。それに、せっかく手に入れた力も使わなければ宝の持ち腐れになってしまうだろう。 「文句を言ってすっきりした所で、俺のことを忘れさせればいいだけのことだしな」 自分が身につけた力がただの暗示の能力でないことはわかっている。普通の催眠暗示では『自殺をしろ』と命じても自殺願望がない相手が即座に従うはずはない。だが、あの時自分に銃口を向けた者達はあっさりとそれに従った。 別に、そう命じたことに関しては後悔していない。奴らは自分に銃口を向けただけではなく、スザクとあの少女まで何のためらいもなく撃ったのだ。あの少女はともかく、スザクは自分にとってナナリーと同じくらい大切な存在だったのに――その前に、シンジュクゲットーにいた者達は殲滅を命じられていたらしいが、自分とは直接関わり合いがない。だから、彼等に関しては何とも思っていない。その感情が本当時自分本位だと言うこともわかっていた――またブリタニアに奪われてしまった。 クロヴィスは自分がまだ《自分》だったころ親しくしていた相手だから、命までは取りたくはない。しかし「親しき仲にも礼儀あり」というではないか。 「……となると、完全に忘れさせることはやめておいた方がいいのか?」 それでは脅しにならない。だからといって、完全に覚えていられても困る。加減がむずかしいな、と呟く。 「そういえば……昔、スザクから聞いたな。キタマクラ……じゃない。えっと……あぁ、そうだ! ユメマクラだ」 親しい相手が幽霊になったとき、生きている相手に何かを伝えるために使う方法だとか。それだと思わせればいいのか。ブリタニアにはない考え方だが、ここはエリア11――かつての日本だ。多少の慣習の違いがあったとしても構わないだろう。 「と言うわけで、待っていろ、クロヴィス!」 この鬱憤、全部たたきつけてやる! とルルーシュは拳を握りしめていた。 しかし、何にでも読み違いというものはあるもので、いくらルルーシュがアリとあらゆる可能性を検証したと思っていてもその斜め上を行くのがクロヴィスという人間の正確だった。 「ほうわぁ!」 ルルーシュがそれを思い出したのは、クロヴィスにしっかりと抱きつかれてしまったその後のことである。 「ルルーシュ! やっぱり、生きていてくれたんだねぇ!!」 マリアンヌ様にそっくりの美人さんになって……とそのまますりすりと頬ずりされて、ルルーシュの思考は完全にフリーズしてしまう。それがいけなかったのだろうか。 「まさか会いに来てくれるなんて……てっきり、嫌われているものとばかり思っていたのに」 いや、実際、嫌っていたんです。こうルルーシュは言いたい。しかし、普段なら立て板に水とばかりにあふれ出てくる言葉が、今は何故か出てこなかった。いや、脳内ではあれこれ罵詈雑言が駆けめぐっているのだが、舌が凍り付いたように動かないのだ。 しかし、それをクロヴィスは自分に都合よく受け止めているらしい。 「いや、たとえ嫌われていようと何だろうと、構わないよ。君がこうして会いに来てくれただけで十分だ」 嬉しいよ、と続けられた声には間違いなく涙がにじんでいる。 「お、俺は……俺は、嬉しくありません!」 ようやくルルーシュの口から怒鳴り声が飛び出す。 「そもそも、今日、ここに来たのは、貴方に文句を言うためです!」 誰かさんの親衛隊に殺されそうになったあげく、かばってくれた大切な人間が宇やれてしまったではないか。ルルーシュはその勢いのまま言葉を口にした。 「何!」 「そもそも、貴方は無能だから、いつまで経ってもこのエリアに平穏が訪れないんです!」 おかげでナナリーを安心して外出させられない! とも付け加えた。元々、あのかわいそうな妹は自分の意志で遠出をすることはできない。それでも、今は咲世子がいてくれるしミレイが気を遣ってくれるから、買い物ぐらいは自由に行かせてやりたいのだ。しかし、租界の中でもテロが起こるような状況では、それすらも制限せざるを得ない。 「本当に、さっさと総督の地位を他のどなたかに明け渡して、お好きな絵だけ描いておられればいいでしょうが!」 そちらの才能だけは自分だって認めているのだから。皮肉をこめてこうも口にする。 しかし、それを彼は別の意味に受け止めたらしい。 「ルルーシュゥ! 君は私のことを心配してくれるんだねぇ!」 自分はあの時、ルルーシュ達を守れなかったのに……とクロヴィスはまた瞳を潤ませる。はっきり言って、二十歳過ぎの男がそれをやっても可愛くはない。ついでに、これが兄だなんて、ものすごくいやだ、とまで思う。同時に、どうしてこうもポジティブシンキングなのだろうか、ともため息を吐きたくなる。 「そうだね。ルルーシュの言うとおり、私は総督に向いていないのかもしれない」 だから、と彼は泣き笑いのような表情を作った。 「君達と一緒にいるよ。そうすれば、少なくとも君達の盾にはなって上げられるからね」 「はぁ?」 いったい何を考えているんだ、この異母兄は。ルルーシュは本気で頭を抱えたくなる。 「大丈夫だよ、ルルーシュ。金銭面で君達には迷惑をかけるつもりはない。贅沢をしなければ一生暮らせるだけの金品はあるからね」 いざとなったら、絵を売ればいい……と言うのは何なのか。 「クロヴィス!」 だから、どうしてそういう話になるんだ。そもそも、自分は認めていない! とルルーシュは主張をする。勝手に話を進めるな、とも付け加えた。 「お兄さまだろう、ルルーシュ」 本当に口が悪くなって……と彼はわざとらしくため息を吐いてみせる。 「まぁ、いい。一緒にいるうちに治してくれれば」 「誰が『一緒に暮らす』などと言った!」 「しかたがないだろう。私には総督なんて荷が重すぎると言ったのは君じゃないか。それに、君達の側で君達を守ることと芸術のことだけを考えていたい」 それには、一緒に暮らすのが一番だろう? と付け加えながら、クロヴィスは部屋の隅に置かれていたテーブルへと歩いていく。しかし、後数歩というところで思い切りこけている。 「……何をしているんだ、貴方は」 何もないところでこけるな! しかも、ケガまでして……とルルーシュはあきれてしまう。しかし、放っておくのもいやだ。だから、仕方がなく持っていたハンカチで血が滲んでいる彼の掌を覆ってやった。 「ルルーシュ……優しいところは変わっていないね……」 またうるっと瞳を潤ませる。 「ともかく……」 それでも、思い直したように彼は口調を変えた。 「もし、君が『ダメだ』というのであれば、今すぐ君達の生存を世界中に発表するよ?」 そこにカメラがあるからね……と彼はなんでもないことのように付け加える。 「ここから操作できるそうだよ」 にっこりと微笑みながら、彼はリモコンらしきものを持ち上げた。 今からでは彼を止めるよりも先に、ここの映像が電波に乗ってしまうだろう。この力でもそれを見た全てのものの記憶を消せるかどうかわからない。何よりも、クロヴィスが自分と視線を合わせていない以上、今のルルーシュにはどうすることもできないのだ。 そうしている間にも、彼は自分がやりたいことをさっさと終わらせたらしい。本当ににこやかに振り向いた。 「では、行こうか、ルルーシュ」 この宣言が彼の意志の固さの表れであるのか。結局、ルルーシュの反対なんて、彼の耳には届いていなかったらしい。 どうしてこう言うときだけ……と心の中で呟いたときにはもう、ルルーシュの敗北は決定していたのだろうか。 それでも、とルルーシュは自分を慰めるために呟く。少なくともナナリーは喜ぶだろう。だから我慢をするか。 だだをこねる子供には勝てない、と年寄りのようなことも付け加えていた。 以下、発行予定の本へと続く。 |