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妹が生まれたのは、それから半月ぐらい経ってからのことだ。 まだ自分では動くことも出来ない存在。 それでも、手を差し出せばしっかりと握りかえしてくれる。それだけで嬉しいと思う。ブリタニアにいる兄上や姉上達にかまってもらったときよりも嬉しいのは、母さんが同じだからだろうか。 「でも……スザクさんといっしょのときのうれしいとはちがう」 それはどうしてなのか、と首をかしげたときだ。 「好きの意味が違うからですわ、ルルーシュさま」 そばで本を読んでいた神楽耶様がこう言ってきた。 「すきのいみ?」 好きは《好き》ではないのか。そう思いながら私は聞き返す。 「ルルーシュさま。《好き》と言うのにも種類がありますわ。家族に対するもの、友人に対するもの、そして、恋人に対するものです」 神楽耶様は私にも理解できるようにゆっくりと話をしてくれる。 「マリアンヌ様やナナリー様に対する《好き》はご家族に対するものですわ。でも、お従兄様はルルーシュさまの家族ではありませんでしょう?」 この言葉に私は小さく頷く。 「だから、ちがうの?」 「そうですわ」 私の問いかけに神楽耶様は頷いて見せる。 「お従兄様もルルーシュさまのことを《好き》ですわよ。ただ、その好きの意味を変えられるかどうかはルルーシュさま次第ですわ」 そう言われて、私は唇をかむ。 「大丈夫。それまではしっかりと邪魔して見せますから」 「じゃま?」 「お従兄様に変な女性が近づかないように、です」 スザクさんは格好いいから、その可能性があった。その事実に気づいて、私はうつむく。彼ならば、同じくらいの年代の女性にももてるはずだ。十年待ってもらえるとは思えない。 「大丈夫です。わたくしはルルーシュさまの味方ですもの。全部邪魔して見せますわ」 そう言う神楽耶様はとても嘘を言っているようには思えない。だから、とても力強く感じられた。 「おねがいします」 私はためらわずにそう言う。 「任せておいてください。ですから、ルルーシュさまもがんばってくださいね」 「はい。がんばります」 しかし、花嫁修業とはどんなことをすればいいのだろうか。母さんに聞いてもわからないだろう、とすぐに判断する。あと、誰に聞けばいいのだろう。心の中でそう考えていた。 ブリタニアに戻ったのは、ナナリーの首が据わったと判断されてからだ。 帰りたがらなかった私に、スザクさんは『お嫁さんになれる年になったら、またおいで』と言ってくれた。つまりこれは『とりあえず結婚相手として考えておいてやろう』ということなのだろうか。まだ望みがあると考えていいんだよね。でも、日本でお嫁さんになれるのは何歳からなのだろう。十年ぐらい後ならば範囲内なのかな。 「じゅうさんさいになったら、にっぽんにいっていいですか?」 とりあえず母さんにこう問いかけてみる。 「もちろんよ。スザク君がせっかくああ言ってくれたのだしね。それに、万が一のことがあったら困るし」 母さんの言っている意味がわからない。 「でも、しばらくは母さんとナナリーと一緒にブリタニアで暮らしましょう。そうでないと、ナナリーはお姉さんを知らないまま育つことになるわ」 「……そうなの?」 「そうよ。何よりも、シャルルが何をしでかすかわからないわ」 「それはいやです」 でも父上ならやりかねない。 「だから、しばらくはこちらでいろいろと勉強をしなさいね」 母さんがこういったときだ。アリエスのエントランスに車が止まった。ここにつとめている人たちが勢揃いをして出迎えてくれる。しかし、その中にここにいるとは思わなかった人を私は見つけてしまった。 「さよこさんがいる?」 彼女は枢木の家の使用人だったはずなのに。確かに、入院中の母さんのお世話はしてくれていたが、と不思議に思う。 「神楽耶様と祖母からルルーシュさまの花嫁修業のお手伝いをするようにと仰せつかりました」 「……いいの?」 咲世子さんが来てくれたのは嬉しい。でも、咲世子さんは有能だから日本であのまま仕事を続けていた方がよかったのではないかとも思うのだ。 「もちろんです。それに今後のことを考えれば、ブリタニア皇族の方々のおそばにいる皆さんの仕事を間近で見させていただくことは得がたい勉強になります」 その言葉が本当なのかどうか、私にはわからない。だが、咲世子さんが嫌々付いてきていると言うわけではないと思えた。 「なら、うれしい、です」 そう言って笑う。 「ご一緒に勉強させてくださいませ」 咲世子さんのこのこと版、私はしっかりと頷いた。 「よかったわね、ルルーシュ」 今まで黙って聞いていた母さんがこう言ってくる。 「はい」 「咲世子さんは強いから、私も安心だわ。しばらくはナナリーを優先しないといけないし……何よりもなまった体を元に戻さないと」 さすがは母さん、と思う。 「まだ、あまり無理はされませんよう」 咲世子さんがさりげなく注意する。 「わかっているわ。これでも二児の母親だもの」 母さんの言葉がどこか白々しく聞こえるのはどうしてだろうか。 「それよりも、まずはシャルルよね。慣例とは言え、ルルーシュが日本に嫁ぐことをまだ認められないみたいだし……そのためにも体調を整えないとだめだわ」 父上は反対しているんだ。 「……だめなの?」 父上が認めてくれないと結婚できないと言うことは知っている。でも、スザクさんのお嫁さんになりたいと考えてしまうのはわがままなのだろうか。 「だめじゃないわ。ただ、シャルルがあきらめが悪いだけよ」 私の言葉に母さんがため息をつく。 「日本に行く前にちゃんと話し合ったのに」 母さんはさらに何か小さな声で呟いている。その内容はうまく聞き取れない。ただ、何か怖い単語があったような気がする。でも、母さんが父上にそんなことをするのだろうか。 「ルルーシュさま。喉が渇いておられませんか?」 しかも、それを遮るかのように咲世子さんが問いかけてくる。 「はい」 別に喉が渇いているわけではないが、この場はおとなしくしたがった方がいいだろう。そう判断をしてルルーシュは小さく頷いて見せる。 「かあさんは?」 そのまま私は母さんにも問いかけてみた。 「もらうわ。ナナリーにもミルクをあげないとね」 とりあえず母さんの意識は切り替えが終わったらしい。しかし、帰ったら怖いことが待っていると言うことが簡単に想像できる。 父上は無事で済むのだろうか。それだけが不安だった。 もっとも、そんな気持ちも簡単に吹き飛んだが。 続きは本へ |