もう、いい加減にして欲しい。
 それがルルーシュの偽らざる本音だ。
「……父上は、俺の性別をきちんと認識してくださっているのか?」
 それとも、もう脳内では《女》と言うことになっているのだろうか。だとするならばぼけたのかもしれない、そう呟きながらルルーシュは顔をしかめる。
「確かに、デザイン的には可愛いし……ナナリーには無条件で似合うだろうが……」
 自分が身につけるのはごめんだ! とそう呟く。しかし、今の自分にはこれと似たような服しかないのだ。
「いったい、どうすればいいかな」
 ともかく、と呟きながら時計へと視線を向ける。
「いい加減出かけないと……ジノの認証式に間に合わなくなるか」
 そろそろスザクが迎えに来るだろう。もっとも、彼の場合、自分が準備を終えていなくても納得してくれるとはわかっている。しかし、ジノはそういうわけにはいかないはずだ。
 一生に一度の晴れの舞台だ。
 それに水を差すのは申し訳ない。
「……今日だけは、妥協をするか」
 こう呟いたときだ。誰かが静かにドアをノックする音が響く。そのリズムから、誰がそこにいるのかわかった。
「ルル? 準備は出来た」
 予想通りと言うべきか。少しの間をおいて、スザクが顔を出す。彼は既に一分の隙もなく身支度を調えていた。
「……出来ていない……」
 と言うよりも、したくなかった……とルルーシュは素直に言い返す。
「そんなことだろう、とは思っていたけどね」
 苦笑を浮かべながら、彼は歩み寄ってくる。
「嫌な気持ちはわかるけど……ジノが待っているよ?」
 ルルーシュにお祝いをいって欲しくて、と彼は付け加えながら、そっとベッドの上から今日のためにシャルルから贈られた服を取り上げた。
「しかし、今日のも凄いね……」
 ベッドの上に広げていたのとこうして持ち上げられたのを見ると、また印象が違う。そのせいだろうか。ルルーシュは思わずため息をつく。
 深緋を基調としたドレスは、重厚といえる生地と繊細なレースの飾りが美しいドレープを描いている。しかも、その色がルルーシュの髪と肌を引き立てているはずだ。
 自分が女であれば無条件で喜べるだろう。だが、とルルーシュは心の中で呟く。いくら母にうり二つ、といわれる容姿を持っているとしても、自分は男なのだ。
 それでも、これを身につけなければ、ジノの晴れの場に立ち会うことを許されない。
 スザクほどではないが、鍛錬のためによく、このアリエス宮を訪れていた彼は親戚のようなものだ。そんな彼の晴れ舞台に、お祝いの一つも伝えないわけにはい。
「……ジノのためだ……我慢するしかないだろうな」
「そうだね。そうしてくれると、僕も嬉しい」
 ジノは大切な友人だから、とスザクも頷く。
「でも、ルルがいやなら断ってもいいんだよ?」
 後で別にお祝いに行けばいいんだから、と彼は続けた。
「だが、スザクも行きたいんだろう?」
 だから、構わない。どうせ、悪いのは父上だ、とみなも知っている。ルルーシュはそう言い返す。
「ルル」
「……コゥ姉上にも、久々にお会いできるしな」
 だから、といいながら渋々と身に纏っていた夜着――こちらだけは普通のシンプルなパジャマを着ることができる――を脱ぎ捨てると、代わりにアンダーウエアを身につけていく。パニエだのなんだのと言った、普通であれば絶対に身に纏うことのないそれらを間違えずに着られるようになった自分が哀しい。
「絶対に、近いうちにこの状況を何とかしてやる……」
 ルルーシュがこう呟けば、
「その時は手伝うから」
 とスザクが即座に口にしてくれる。
「当然だろう。スザクは俺の騎士なんだから」
 そんな彼に、ルルーシュは笑い返す。
「ルルにそういわれるの、凄く好きだな」
 スザクもこう言ってとっておきの笑みを返してくれた。

以下、発行予定の本へと続く。