目の前の光景が一瞬、信じられなかった。
 この地がエリア11と呼ばれる前の日本でも、既に廃れていたはずの公娼宿。それを復活させたのは、間違いなくブリタニアの軍人達が今はイレブンと呼ばれている女性達に対して不埒なマネをしないようにさせるためだ。
 要するに、その前に専門家が彼等の欲求を解消してやればいい。
 そう考えたものがいたことと、家族を失い、どのようなことをしてでも金を稼がなければいけない女性達の思惑が一致しただけだろう。
 しかし、目の前の人物は違うはずだ。
 そう考えかけて、ロイドはすぐに思い直す。
 あの人物には、体の不自由な妹がいる。
 そして、決して大人の庇護を受けられない立場だ、ということを一番自覚していたはずだ。
「だからといって、あんなマネをなさらなくても……」
 そう思うのは、自分が目の前の人物の本当の身分を知っているからだろう。
 同時に、目の前の人物がどんなにこんな行為を厭うていたのかを覚えていたからだ。それでも、そうしなければ、混乱していたこの地では生きていられなかったのか。
「ともかく……見つけた以上は、あの方は僕のものですよねぇ」
 ふっと笑みを浮かべるとロイドはこう呟く。
 初めてであった日から、一目で欲しいと思えた存在。
 もっとも、そう考えていたのは自分だけではなかった。ある意味、一番のライバルだったのは自分の悪友とも言える上司だ。
「ご自分で探しにいらっしゃらないのがいけないんですよ、で・ん・か」
 小さな笑いとともに、ロイドはこう呟く。
 このチャンスを見のがす自分ではないと言うことを、彼が一番よく知っているはずだし、とも。
「ともかく、このような場所から早急に救い出して差し上げなければいけませんよね」
 確かに似合うが……と付け加えてしまう。だが、それは自分だけが目にすればいいことだ。そうも考える。
「こう言うときに《伯爵》という地位が役に立ってくれそうですねぇ」
 でなければ、煩わしいだけだ。そんなことを考えながら、彼はゆっくりとその方向に向けて歩き出す。
 その気配で自分の存在に気付いたのだろうか。何の感情を見せず、ただ静かに周囲を映し出していた瞳に初めて驚愕が浮かぶ。と言うことは、目の前の相手も自分のことを忘れていなかった、と言うことだろう。それはそれで重畳、とさらに笑みを深める。
「ようやく、見つけましたよぉ。ルルーシュ様」
 格子戸越しにこう呼びかければ、ルルーシュは明らかに不安の色をその顔に浮かべた。間違いなく、今の自分の姿を見られたくなかったのだろう。
「すぐに、ここから出して差し上げます。ナナリー様もご一緒に」
 自分の家に来ればいい。そういってロイドは微笑む。
「……ロイド……」
 紅く塗られたルルーシュの唇から自分の名前がこぼれ落ちる。それだけで背筋をぞくりとしたものが駆け抜けていく。
「貴方は、僕のものですよぉ……あぁ、違いますね。僕が貴方のものなのか」
 このような場所にいても、清廉でお美しい。その姿を間近における権利を得るためならたとえ全ての財産を投げ出してもいいとまで考える。それに、そんなもの、これからいくらでも取り戻す自信があるのだから。
 その思いのまま、彼は声をかけてきたここの主人らしき男に向き直った。


以下、発行予定の本へと続く。