「僕のお嫁さんになってくれる?」
 初対面でいきなりこんなセリフを言われて、ルルーシュは面食らってしまう。まさか、あの異母兄以外にこんなセリフを口にする人間がいるとは思わなかった。それが彼の本音だった。
 しかし、目の前のヒスイの瞳は真摯な光をたたえている。
「お前……目が悪いのか?」
 ひょっとして、女と間違えているのだろうか。そう考えながら、言葉を口にする。
「俺は男だぞ」
 その美貌だけで父を引きつけたと言われている母にそっくりかもしれないが、とルルーシュは心の中で呟く。
 だからといって、普通《男》を嫁にしようなんて考えるはずがないのではないか。そう思うのだ。
 もっとも皇族やなんかでは、たまにある事例らしいらしいが……と以前異母兄に言われたセリフを思い出す。
「わかっているよ。でも、別におかしいことじゃないんじゃ、ないかな?」
 そんなに多くはないが、父の部下達の中にもそういうカップルがいるし……とスザクは首をかしげながら口にした。
「正式に結婚はしていなくても、周囲が認めてくれているし」
 でも、ルル−シュの立場を考えれば、正式に結婚した方がいいのかな? と彼は続ける。 「……どちらでもかまわないがな」
 ただし、とルルーシュは真っ直ぐにスザクを見つめた。
「俺を嫁にするなら、俺だけではなく、ナナリーも幸せにしてもらわないと困る」
 自分はともかく、ナナリーが頼れるのは自分だけだから……とルルーシュは付け加える。
「もちろんだよ」
 ルルーシュにとって大切な人と言うだけではなく、自分もナナリーは可愛いと思っているから、とスザクは微笑む。
「君はもちろん、ナナリーちゃんも大切にする……だから、僕と結婚してください」
 再び、彼はこう口にする。
「お前がそういうなら、してやってもかまわない」
 我ながら素直じゃないな……と思いながらもルルーシュはこう言い返す。その瞬間、スザクが本当に嬉しそうに笑った。
 その笑顔が見られただけでもいいか。
 ルルーシュはそう思って微かな笑みを口元に刻んだ。

 しかし、その約束は約束のままついえるのではないか。
 そう思わせる事態が彼等の上に降りそそいできた。
 いきなり、ブリタニアが日本侵略を開始したのだ。
 その目的は地下資源だと言うこともわかっている。いや、いつかはこうなると思っていた、というべきか。
 しかし、そのせいで自分はスザクと引き離されてしまった。理不尽な理由で母を失ったときと同じくらい、いや、それ以上の喪失感がルルーシュを包む。
「……どうして、俺の幸せを奪うんだ……」
 スザクまで奪うなんて……とルルーシュは地面を殴りつける。
「父上のはげ〜!」
 絶対、ブリタニアを壊して、父の秘密を白日の下にさらしてやる!
 ルルーシュはその日、燃えさかる炎を見つめながらそう誓った。

 だが、それをあっさりと投げ捨ててもいいと思える日が来るなんて……と心の中で呟きながら、ルルーシュは目の前の人物を見つめる。
「……ルル、僕だよ!」
 言われなくても、目の前にいるのがスザクだとわかった。問題なのは、どうして彼がブリタニア軍の軍服を身に纏っているのか、と言うことだろう。
「生きていてくれたんだね、ルル!」
 しかし、スザクには『自分が生きていた』という方が重要だったらしい。
「よかった……」
 うっすらと目尻に涙を浮かべながら何度も同じ言葉を繰り返している。
「それは、俺も同じ気持ちだが……」
 彼だけが《ルルーシュ》を必要としてくれた。他の誰もが《ブリタニア第11皇子》としてしか自分を見てくれなかったのとは違う。
 だからかもしれない。
 ナナリーとともに命を長らえた後、ついつい花嫁修業に励んでしまったのは。もちろん、それが無駄になるだろう可能性の方が高かったことはわかっていたのに、だ。
「何で、ブリタニア軍なんかに」
「……なんでって……ここが一番給料がいいからだよ」
 さらりとスザクはこう言い返してきた。
「スザク?」
 何か、とんでもないセリフを耳にしたような気がするが、それは錯覚なのだろうか。そう思いながら、ルルーシュは聞き返してしまう。
「僕たちができる仕事の中で、ブリタニア軍の給料が一番よかったんだよ」
 ルルに不自由をさせたくなかったから……と彼は真顔で口にした。
「ナナリーちゃんにも可愛い服を着せて上げたいし」
 それには、やっぱり経済力がないと……という言葉は間違っていないような気がする。だからといって、ブリタニア軍にはいることはないだろうとも思うのだ。
「ところで、ルル。今、どこにいるの?」
 正式にプロポーズにいっていいよね? と彼は小首をかしげながら問いかけてくる。しかし、そんなに可愛らしくていいのか、とその仕草を見て思ってしまう。何なら、自分の方が彼を嫁にもらった方がいいのではないか。そんなことすら考えてしまう。
「アッシュフォード学園だ」
 ナナリーも一緒にいる、とルルーシュはそれでも素直に教える。
「わかった……でも、僕が行っても大丈夫かな」
 七年前ならともかく、今は……とスザクは呟くように口にした。
「何を馬鹿なことを言っている。お前だからいいんだろうが!」
 でなければ、絶対に居場所を教えない、とルルーシュは言い返す。
「ルル……」
「約束、覚えていてくれたんだよな」
 それが嬉しい、と微笑めば、何故かスザクの頬が真っ赤に染まった。
「スザク?」
「……だって、ルル……ますます美人になっているから」
 嬉しいけど、本当にいいのかな……とスザクはそれでも微笑みを返してくれる。彼のそんな態度が嬉しい、と思ったときだ。
「貴様達、何をしている!」
 そんな彼等の邪魔をするような声が耳に届いた。視線を向ければ、ブリタニア軍の兵隊が見える。服装からして、隊長クラスの人間だろう。
「何……と言われても、将来の話だが?」
 人の幸せを邪魔するな! とルルーシュは相手をにらみつけた。そうすれば、相手が絶句をしているのがわかる。
「邪魔が入ったな、スザク。待っているから」
 できるだけ早く、プロポーズに来いよ? と言いながら、彼の頬にキスを贈った。
「わかっているよ、ルル」
 絶対行くから、とスザクもまたキスを返してくれる。そんな彼等の様子を、何と言っていいのかわからないというようにブリタニア軍の隊長が見つめていた。


以下、発行予定の本へと続く。
現在、通販の予定はありません。