|
昔々。 一人のお姫様が身分を隠して東の国に逃げてきました。 祖国では、お姫様の親族が王座を廻って争っていたのです。しかし、お姫様はそんなもには興味がありませんでした。むしろ、それよりも静かに暮らしたい。それだけを望んでいました。 お姫様のその願いは叶ったと言っていいでしょう。 東の、小さな小さな島国でお姫様は友人達とひっそりと、それでも幸せに暮らしていました。 しかし、お姫様の国では大きな問題が起きていました。 王座を継ぐために必要なあるものが失われていたことに気が付いたのです。 残された者達は、それを探しました。 その間にも争いは続いています。 それを誰が持っているのか、人々が知ったときにはもう、王座を継ぐことが出来る人間はお姫様を含めてほんの数人しかいませんでした。 その中で女性なのはお姫様一人。 何よりも、彼女はもっとも正当な血筋をひいておりました。 お姫様の命を狙っていた者達は、今度はお姫様を娶ろうとし始めました。 そんなことを知るはずもないお姫様は東の国で大好きな方と結婚しました。 質素だけれども、それすらも気にならないくらい、お姫様は幸せでした。 大切な人との間に、男の子も生まれていたのです。 そんな彼女の元に魔女が現れました。 魔女は、お姫様を捜している者達のことを教えました。このままでは、大好きな方はもちろん、赤ちゃんの命も危ないともです。 その話を聞いた者達は誰もがお姫様を守ろうと考えました。しかし、お姫様だけは、その者達がどれだけ危険かを知っていました。だから、そっと彼等の元を離れたのです。 お姫様が向かったのは、誰もいない、時が止まった小さな世界。 そこで大切な人たちを見守ることにしたのです。 そんなお姫様をかわいそうに思ったのでしょう。 魔女は年に一度だけ、お姫様が大好きな方や男の子と会えるようにしてくれました。 魔女だけが使える秘密の通路を、お姫様も使えるようにしてくれたのです。 お姫様はその道を使って、男の子やその子ども、そして、そのまた子ども達に会いに来るそうです。 あるいは、今でもこっそりとその姿を見に来ているのかもしれません。 「それって、どこの昔話?」 ベッドに肘だけついてルルーシュの顔をのぞき込みながら、スザクは問いかける。 「さぁ」 知らない、と彼にしては珍しい言葉を口にした。 「母さんが教えてくれた物語だからな。調べてみても、似たような話は見つからなかった」 ひょっとしたら、彼女が作った話かもしれない。彼はそう続ける。 「何故、だ?」 スザクがそんなことに興味を持つなんて珍しい。他の人間が口にすれば失礼と思えるような疑問をルルーシュは口にしてくれた。 「昔、似たような話を聞いたことがあるから」 多分、母だと思うが……とスザクは言い返す。 「でも結末が違うんだ」 自分が知っているものとは、と彼は続ける。 「違う?」 その言葉の裏に様々な感情が見え隠れしていた。本当なのか、という疑問と、自分以外にそれを知っているののがいたのかという安堵、だろうか。 「うん、本当にラストだけ、違うんだよ」 そう前置きをすると、スザクは自分が知っている物語を口にし始める。細かいところは多少変わっていた。それは、ほぼ口伝で伝えられてきたからだろう。しかし、それにしては差違がないと言っていい。 決定的に違うのはやはりラストの部分だった。 「お姫様は、夫と子どもの命と引き替えにその身を差し出したのです。しかし、男達はその約束を守ろうとはしませんでした。その事実に夫は子どもだけは守ろうとしました。信じられるものにお姫様と自分の間に産まれた子供を預けて逃がしたのです。そして、追っ手を惹きつけるように人形を抱きしめながら夫は戦いました。多くの追っ手を切り捨てた夫は気が付いたときには鬼になっていたそうです。そんな己を恥じて夫は山奥へと姿を消しました。己の血をひく者達が危険にさらされたときには助けに来る。そう言い残して」 お姫様がどうなったか、その物語からはわからない。 あるいは、彼女は最後まで二人は無事だったと信じていたのかもしれないな、とスザクは思っていた。 だが、実際にはどうだったのだろう。 昔話の裏なんて考えたことはない。だが、何故か今回だけは気にかかってしまった。ひょっとして、二人とも……と思わずにいられない。 「……きっと、それぞれの視点で結末が決まったのか……あるいは……」 ルルーシュが何かを言いかけて言葉を飲み込む。きっと、自分が考えたのと同じ結末を想像したのではないか。 「だが、別の意味で面白いな。いったい、どこで二つの話が別れたのか」 前半部分は共通だ。つまり、そこはどちらも経験したことなのではないか。だから。この国にブリタニアの姫が逃げてきたのは事実なのだろう。そして、彼女を連れ戻そうとブリタニアの人間が追いかけてきたことも、だ。 「……落としだねの一人や二人、いてもおかしくないわけだ」 その事実をブリタニアの者達が知ったならばどうなるか。ルルーシュはそう言って笑う。 「まぁ、どうでもいいことだがな」 既に、日本はない。 そして、自分たち兄妹もも公的には鬼籍に入っている。 何よりも、もう一度の話を聞こうにも母はこの世にはいないのだ。自分の記憶の中にあるこの昔話も、間違っていないとは限らない。そう彼は続ける。 「君が一度記憶したことを間違えるはずがないでしょう?」 何を言っているのか、とスザクは言い返す。 「だといいがな」 苦笑と共に彼は口にする。忘れたいことだってあるのに、と彼は続けた。 「ルルーシュ……」 いったい、彼は何を忘れたいというのだろうか。 「とりあえず、寝るか」 流石に辛い、と彼は苦笑と共に言ってくる。しかし、それが本心とは思えない。だが、それ以外に出来ることがない、というのも事実だ。 「そうだね」 頷くと、大人しくスザクはシーツにくるまった。そのまま、ルルーシュの体を抱きしめる。 「スザク?」 「たまにはいいよね?」 なんか、そうしなければいけないような気がするのだ。そうでなければ、自分は彼を失ってしまう。その思いを振り切ることが出来ない。 「……勝手にしろ」 そういうと同時に、ルルーシュは目を閉じる。 「うん。勝手にするよ」 彼を抱きしめる腕にさらに力をこめると、スザクもまた目を閉じた。 すぐに二人分の寝息が周囲に広がっていった。 続きは本へ |