ロールケーキの作り方


 最近、ルルーシュは『羊毛フェルト』というものを覚えた。これがいい気分転換になっているのは、間違いなく遠慮なくぐさぐさと刺せるからだろう。
 だが、さすがに針を使うせいか、一人でいる時にはさせてもらえない。ナナリーがそばにいるときもだ。
 だから、今、手にしているものも、完成までに結構時間がかかった。
「まぁ、できたからいいとしよう」
 くふふふふふ、とかわいらしい表情だが聞くものが聞けば邪悪と思えるような笑みを漏らす。
「ルル? 何、マリアンヌ様のような笑い方をしているの?」
 そのうちの一人、スザクがこう問いかけてくる。マリアンヌのように、と言ったのは、彼なりの婉曲的な表現なのだろう。
「できたから」
 即座にこう言い返す。
「これ!」
 言葉とともに完成したばかりのそれをスザクに見えるように両手で差し出した。
「この前からルルが作ってたのだよね。できたの?」
 よかったね、と微笑んでくれる彼にルルーシュも微笑み返す。
「でも、何? 丸いけど……クッキーかな?」
 そう言ってスザクは首をかしげる。
「さすがスザク!」
 ルルーシュはそう言って笑みを深めた。
「でも、クッキーじゃない。これはロールケーキだ」
 少しだけ残念、と彼は続ける。
「ロールケーキ?」
 それにしては長さが足りないような、とスザクは首をかしげて見せた。
「この大きさなら、たぶん、父上のあのあなにはまると思うんだ」
 髪のあのくるくるに、と言い切る。
「そうしたら、まちがいなくロールケーキに見えると思う」
 その光景を見てみたい。
 別に、その姿のまま、貴族達の前へ出ろとは考えていないが。そう心の中で付け加える。だからと言って、期待していないわけではないのだ。
 自分がこんな目に遭っている以上、あの父にもそれなりの報復があってもいいのではないか。
「スザク、てつだって?」
 怒られるのは自分がやるから、とルルーシュは言う。
「それはいつでも……と言うより、陛下ならばれない自信はあるけど」
 さりげなくスザクがとんでもないセリフを口にしたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「問題は、陛下のおそばにはヴァルトシュタイン卿がいらっしゃることかな。あの方の目はまだ出し抜けないんだよね」
 マリアンヌの次ぐらいに手強い。スザクはそう付け加える。
「だからね、ルル」
 目線を合わせながらスザクは口を開く。
「マリアンヌ様を巻き込んじゃだめかな?」
 彼は真顔でこう問いかけてきた。
「……母上?」
 何故、と思わず呟いてしまう。
「マリアンヌ様がこういういたずらを放っておくわけがないし、知ったら知ったで、絶対に『参加したい』と言うに決まっているから」
 そして、それを無視する方が怖いから、とスザクは言いきる。
「……いわれてみればそうだな」
 自分の母親の性格を思い出せば、確かにそうかもしれない。ルルーシュはあっさりと納得する。
 それに、と彼は心の中で付け加えた。
 母を味方につければ、スザクの言っていた一番の難関も解決するような気もする。そうすれば、後は実行するだけだ。
 問題があるとすれば、ただ一つ。
「でも、母上はいつ帰ってこられるのか」
 最近、妙に忙しいようだけど、ルルーシュは首をかしげる。
「明日の朝には大丈夫じゃないかな、と思いますが?」
 スザクはすぐにこう言ってくれる。
「なら、いいや。よそうのはんいないだ」
 我慢する、とルルーシュは即座に言い返す。
「そうだね。そうしてくれると準備の時間もとれるし」
 さすがに準備なしであれこれするのは怖いから。スザクのこの言葉にルルーシュも頷く。
「じゃ、これから何をしよう」
 勉強は終わってしまったし、とルルーシュは呟いた。
「ナナリー様のお相手は? ここしばらくルルが一緒に遊んであげていないから、ちょっとご機嫌斜めみたいだって聞いたよ」
 スザクはこう言ってくる。
「……そうだな」
 確かに、かわいい妹を少しないがしろにしていたかもしれない。その事実に気がついて、ルルーシュは少しだけ肩を落とす。
 しかし、だ。
 今の自分ではもう、彼女の体力について行けないのだ。三つも年下の妹を追いかけきれずにダウンするのは、さすがに悔しい。
「ナナリー様はあと一時間もしたらおねむの時間です」
 ルルーシュが何を悩んでいたのか気づいたのだろう。スザクがこう教えてくれる。
「そうか?」
 ならば、本でも読んでやれば喜ぶのだろうか。それとも、と考える。
「ならば、あの子の顔を見てくる」
 とりあえず、と言うようにルルーシュは立ち上がった。


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