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「スザク!」 「スザクさん!!」 向かっていた方角から、銃声の方が音が聞こえた。それに老人は足を止める。 「この先だね?」 これ以上は彼に案内させない方がいいだろう。 「なら、君はここでいいよぉ」 お孫さんの所へお帰り、と付け加えると老人とは逆に走り出した。 「伯爵様!」 そんな彼の背中を老人の声が追いかけてくる。だが、それを気にかけている時間はない。 間違いなく、先ほど聞こえたのはルルーシュとナナリーの声だった。 声が聞こえたと言うことは、まだあの二人は無事なのだろう。 しかし、彼等に悲鳴の方な声を上げさせる『何か』がこの先で繰り広げられているのだ。 せっかく見つけ出したのに、手にする前に壊されてしまっては意味がない。 そう考えて、ロイドはさらに足を速める。 同時に服の上から胸を押さえた。そして、そこに堅い感触があることを確認する。 「射撃は、苦手なんですよぉ」 小さなため息ともにこう呟く。そして、角を曲がる。 次の瞬間、ロイドは眼鏡の下の瞳を丸くした。 「スザクに触れるな!」 周囲を取り囲んでいるのは、ブリタニアの歩兵達だ。しかし、彼等はまだ幼い一人の少年の言葉に圧倒されて動けないでいるらしい。 「さすがはルルーシュ様」 あの最高のDNAをその身に受け継いだ子供だ、と心の中で付け加える。 しかし、どうしてこのような状況になっているのか。それがわからない。どう考えても、重装備をしている兵士達が子供達を威嚇しなければならない理由など内容に思える。 「……このガキ……」 しかも、目の前の者達はルルーシュの本来の身分を知らないのだ。こんな風に年端もいかない子供に気おされるなど認めたくないのだろう。怒りに滲んだ声がどこからか響いてくる。 「本当に、バカばっかりなんだからぁ」 現場の人間は、と口にする。いくらなんでも子供に手を出すのは許されないだろう、と呟きながら、ロイドは強引に割り込んだ。 その気配に気が付いたのだろう。ルルーシュが顔を上げる。次の瞬間、彼の瞳に浮かんだ安堵の色に、ロイドは背筋をぞくりとした感覚が駆け抜けていくのを感じた。しかし、ルルーシュの瞳からはすぐにその色はかき消されてしまう。その代わりに浮かんだのは、明白な警戒の色だ。しかし、それが強引に作った物ではないか、とロイドは判断をする。しかし、それを今問いかけることはできない。 「ダメだよぉ。どんな理由があろうとも、子供に危害を加えちゃぁ」 増して、彼等はシュナイゼル殿下が探していらっしゃる子供達だからねぇ……とロイドは続ける。そうすればルルーシュだけではなくナナリーも体を強ばらせたのがわかった。 「彼等の父親は日本人だったけど、殿下の知己だったんだよ。生きていたら、間違いなくお側に召されただろうね」 本来であればブリタニア侵攻前に家族ごと保護をする予定だったんだけどねぇ、と口から出任せ――その設定は、先ほど老人から聞き出したものだ――のセリフをすらすらと並べ立てる、こう言うときにシュナイゼル相手に鍛えた自分の弁説が自慢に思える。同時にそうすることでルルーシュ達が少しでも安心してくれればいいとも考えたのだ。 「と言うわけでぇ、その子達、引き取らせてくれるかなぁ?」 何をして君達を怒らせたのかはわからないけれど、そうしてくれたら、君達の今回の態度については内密にしておくけどぉ、とも付け加える。 「……アスプルンド伯……」 どうやら、自分の顔を知っているものはいたようだ。取りあえず、自分の方が彼等よりも立場は上だ。それに、シュナイゼルとの繋がりをにおわせている以上、彼等に拒否権があるはずがない。 「怪我人は病院に運びたいから、人出を貸してくれるかなぁ?」 この一言が全てを決定した。 「それと……一応、状況を説明してくれるかなぁ。待っている間だけでいいから」 でないと、子供達の口からあれこれ殿下に言われるかもしれないよぉ、と少し脅しをかけておく。殿下は、彼等が気に入っているからねぇ、とも。 よくよく見れば、ナナリーの顔色も悪い。それだけでも彼等の命を奪うに十分な理由になる。しかし、そんなことをすればクロヴィスに彼等の生存が知られてしまうだろう。それをルルーシュが嫌がっていることは十分推測ができる。 ならば、多少のことには目をつぶって、彼女ともう一人の少年をさっさと病院に運んだ方がいい。細かいことは、不本意だが権力で押し切ってしまえ、とそう考えることにした。 どうやら、ルルーシュも二人を病院に運ぶことには異存はないらしい。黙ってロイドの言動を観察している。それは彼の本意を謀っているようでもあった。 昔のように、無条件に信頼してはもらえないのだな、とロイドは心の中で呟く。それでも、彼がすぐ傍にいてくれるのであれば構わない。時間さえあれば、きっと……とそうも付け加えていた。 「……俺たちをどうするつもりだ?」 自分の大切な皇子様は、離れていた間にずいぶんとがさつになられたらしい。 ロイドと二人きりになった瞬間、ルルーシュはこう問いかけてくる。その警戒ぶりに、彼が今までどれだけ世界に裏切られてきたのかが想像できた。 「ルルーシュ様」 それでも、彼が真っ直ぐに自分を見つめてくれることが嬉しいと思う。 「どうもしません。ただ、ここにいてくださればいいのです」 シュナイゼルにだけは連絡を取るが、それ以外の者達に生存を知られたくないというのであれば、そうしよう。必要であれば、嘘の戸籍の一つや二つ、用意してみせるから、とも付け加えた。 「ロイド?」 きっと、すぐに連れ戻されると思っていたのか。ルルーシュは信じられないという表情でロイドを見つめてくる。 「枢木スザクのことも心配はいりませんよぉ。僕がちゃんと面倒を見ますから」 退院した後は、ちゃんとここに連れてきますよ、とロイドは笑ってみせた。 「もっとも、ルルーシュ様が彼を『いらない』とおっしゃるなら、話は別ですけどぉ」 「誰が『いらない』なんていうか!」 ロイドの言葉に、ルルーシュは即座にこう怒鳴り返してくる。そんな彼の態度に、少しだけ嫉妬心を覚えてしまったとしてもしかたがないことだよな、とロイドは思う。本当は、自分がそうなりたかったのだから。あの日、無理矢理彼から引き離されなければ、だ。 「スザクがいてくれたから、俺は初めて《友達》とはどのようなものか、知ったんだ!」 ブリタニアにいた頃は、友達なんて作ることはできなかった。そんなことをすれば、その相手にも被害が及ぶ可能性があった。マリアンヌが極力自分たちを守ってはくれていたが、彼女にも限界はある。だから、友達なんて望む事はできないと、そうもわかっていた。 でも、スザクは違った。 彼は真っ直ぐに自分たちにぶつかってきた。そんな存在に初めてあった。 最初は反発ばかりしていたと思う。でも、すぐに別の感情が自分たちの間で育ち始めたのだ。そして、それが心地よいものだと初めてわかった。 だから、手放せなくなった。 いや、それ以上にどうしたら自分たちの傍にいてくれるだろうか、とそう考えて積極的に働きかけもした。 何よりも彼がいてくれたからこそ、自分はナナリーを守ることができたのだ。 ルルーシュは叫ぶようにこういった。 あまりに大声を出し過ぎたせいだろうか。その細い肩が大きく上下している。それよりも、うっすらと上気したそのはだが艶めいていると感じられてならない。そんな自分の気持ちをロイドは即座に押し殺した。 「わかってますよぉ」 そして、その代わりに善良そうな微笑みを口元に刻む。 「だから、ちゃんと治療をさせていますしぃ」 本人が希望するなら、ちゃんとした学習環境も整えてやりますからぁ……とロイドはルルーシュの肩にそっと手を置く。振り払われるかと覚悟していたのだが、ルルーシュは黙ったまま受け入れている。 「ともかく、今日はお疲れになったでしょう? 部屋を整えさせましたから、おやすみください。明日には、ナナリー様達の所にお連れしますからぁ」 ね、と付け加えれば、ルルーシュは小さく頷いてくれた。どうやら、一人になってあれこれ考えたいとそう思っているらしい。 もっとも、自分にしてもそれは同じだ。 彼が部屋で休んでいる間に、シュナイゼルに連絡を取らなければいけないだろう。そして、ルルーシュのために最良の環境を整えなければいけないだろう。 「……俺に、お前を信じろ、と?」 ルルーシュが小さな声でこう問いかけてきた。 「ルルーシュ様ぁ」 そんな悲しいことを言わないでくださいよぉ、とロイドはため息をつく。いや、それだけではなく、思わずその場に崩れ落ちてしまった。 まさか、自分がここまで彼に拒まれるとは思ってもいなかったのだ。 「本当にルルーシュ様の嫌がることは何もしません。命をかけてもいいです」 ですから、信じてください……と顔を上げるとルルーシュの瞳をのぞき込む。 「……俺が信じられるのは、ナナリーとスザクだけだ……」 他の人間は、みんな自分のことを裏切っただろう……と彼は小さな声で言い返してくる。 そういわれてもしかたがないのだろうか。でも、自分がそれを認めるわけにはいかない。 「お願いします」 必死の表情でなおも食い下がった。それが功を奏したのだろうか――それとも、面倒になっただけかもしれない――彼は小さなため息をつく。 「わかった……今は、信用しておく」 そして、その唇からこんなセリフがこぼれ降りた。渋々とも思えるそれでも、ロイドにとっては嬉しいものだ。 「ありがとうございます!」 言葉とともに、ルルーシュの小さな体を力一杯抱きしめた。 「放せ!」 苦しかったのだろうか。ロイその腕から逃れようとするようにルルーシュは暴れ出す。しかし、どうしたって子供の力で大人に勝てるわけがない。その上、ルルーシュはここしばらくろくに栄養を摂取できていなかったのだろう。体力も続かないようだ。気が付けば、ロイドの腕にもたれるようにして荒い息をついている。 「お部屋にご案内しますねぇ」 それをいいことに、ロイドは彼の体を抱き上げる。 「ロイド!」 ルルーシュが即座に抗議の声を上げた。しかし、それに耳を貸す予定はない。 「明日の朝食はスクランブルエッグとサラダでいいですかぁ?」 おやつはプリンですよねぇ、当然……と笑いながら、ロイドは歩き出した。 以下、発行予定の本へと続く。 現在、通販の予定はありません。 |