|
ブリタニアの皇族は、仲が悪い。そう言う噂があることは知っている。だが、それはあくまでも噂だ。確かにウマが合わない者達もいるし、皇位継承権争いではライバルだと言っていい。 だが、それ以外の場面では仲がいいのだ。 少なくとも、自分たちは……と思いながらギネヴィアは湯船に足を伸ばす。 古代ローマ時代に見られた公衆浴場。 それを模倣して造ったこの浴室は、彼女のお気に入りだった。そして、そこに自分のお気に入りの異母妹たちがいれば文句などない。 そんなことを考えながら、ギネヴィアは視線を移動させる。そこには、今この帝都にいる異母妹たちが楽しげに寄り添っていた。 「……ユフィ……また、胸、大きくなった?」 そう言いながら、ルルーシュが首をかしげる。 「確かに。一回り、大きくなられたような気がします」 その隣で、カリーヌが大きく頷いていた。 「そんなこと、ありませんわ」 気のせいです、とユーフェミアが微苦笑を返している。しかし、確かに彼女の胸は他の二人に比べて豊かだ。もっとも、彼女の同母の姉であるコーネリアもそうだから、血筋ではないか。 いや、と直ぐに思い直す。 父であるシャルルの好みがそうだから、かもしれない。自分も彼女たちに負けていないという自覚はある。 「カリーヌと同じ年齢の頃は、わたくしも大きくありませんでしたし」 そう言い返されて、カリーヌはほっとした表情を作った。どうやら、彼女もそれに関しては気にしているらしい。だが、それ以上にルルーシュの方が気にかかる。 「どうしたの、ルルーシュ」 自分の胸のユーフェミアのそれを見比べながら難しい表情を作っている彼女に、ギネヴィアは呼びかけた。 「……ユフィよりもお姉さんなのに……」 小さいから、と彼女は付け加える。 「そんなこと、気にしなくていいのよ。ルルーシュ」 だが、外見だけを見れば、誰もそう思わない。だが、それが仕方がないことだ。 「そうですわ。ルルーシュはルルーシュですもの」 それに、いつか大きくなるだろう。ユーフェミアはそう言ってルルーシュの頬に触れた。 「お姉様のお話ですと、適度な運動も必要だそうですわ」 ですから、これから毎日、一緒に散歩をしましょう。そう彼女は付け加える。それはよいことだが、とギネヴィアは眉根を寄せた。ルルーシュにとってマイナスにならなければいいが。そう思ったのだ。 「クロヴィスお兄さまが素敵なお庭を作られましたの。迷路もありますのよ?」 そこならば、楽しく散歩できるのではないか。ユーフェミアのその言葉に、ギネヴィアはクロヴィスが自慢をしていたことを思い出す。 「あそこは素敵ですよ、お姉様」 自分も付き合う、とカリーヌも口にする。 「二人が一緒ならば、安心ね」 この二人が揃っていて、ルルーシュを傷つけさせるようなことはないだろう。それに、いざとなれば騎士を一人、つけてやればいいだけのことだ。 「……それもいいけど……シュナイゼル兄上が胸を大きくする方法を知っているっておっしゃってたから、聞いてみます……」 オデュッセウスも同じようなことを言っていたような気がするが。ルルーシュは思い出そうとするかのように首をかしげながら言葉を重ねた。 「……ルルーシュ……」 それに危険なものを感じたのは自分だけではないはず。ギネヴィアは眉根を寄せながら口を開く。 「他に、何か言っていなかった?」 特にシュナイゼルが、と付け加える。 「……シュナイゼル兄上は」 言葉とともに、ルルーシュはくりんと首を反対側へ倒した。こう言うときでなければ、あまりのかわいらしさに抱きしめたいところだ。 「もう少ししたら、法律を変えてあげるから……と。そうしたら、父上に文句を言わせないよっておっしゃっておられました」 意味がわからなかったから無視をしていたが、ひょっとしていけなかったのだろうか。ルルーシュはそう問いかけてくる。 「ルルーシュ」 いいこだから、こちらに来なさい。そう言いながら彼女を手招けば、素直に近づいて来た。その様子は可愛い。しかし、少し過保護にしすぎただろうか、とギネヴィアは心の中で呟く。この子はきょうだいたちを疑うと言うことを知らないのだ。 「あなたは何も間違っていません。悪いのは、そんなあなたをからかおうと考えている兄上やシュナイゼルです」 そう口にしながら、ギネヴィアは己の豊満な胸にルルーシュの細い体を引き寄せた。 「からかわれていたのですか?」 ルルーシュが哀しげに問いかけてくる。 「兄上もシュナイゼルも、父上の悪いところを受け継いでしまったと言うことでしょう」 気に入った相手ほどいじめたいという、とため息とともに言葉を返す。 「大丈夫。わたくしとコーネリアとでしっかりとおしおきしておきます」 ついでに、ビスマルクを巻き込めば完璧ではないか。 「ユーフェミア」 そう考えながら、ギネヴィアはルルーシュの後を付いてきた異母妹の一人に声をかける。 「お姉様でしたら、明後日のお茶の時間には間に合うと思いますわ」 天然で人のよい面しか知らないこの異母妹も、流石に異母兄達の思惑には不審を感じていたのか。即座にこう言い返してくる。 「でも、直ぐにサクラダイトの分配会議に出席されるために、お出かけになられるはずですけど」 本当は、直接向かった方が楽なのだ。しかし、僅かでもいもうと達の顔を見るために本国へと戻ってくるのだろう。 「構いません」 相談をする時間さえあれば。そう言ってギネヴィアは微笑む。 「今日は泊まっていきなさい」 色々と教えて上げます。言外にそう付け加える。 「いいのですか?」 ルルーシュが嬉しそうに聞き返してきた。 「もちろんです。この姉が嘘を言ったことがありましたか?」 この問いかけに、ルルーシュは静かに首を横に振る。 「でも、ギネヴィア姉上もお忙しいのでしょう?」 だから、と彼女は付け加えた。 「大丈夫です。わたくしがしなければならないことは、全て終わらせてあります」 でなければ、あなた達とゆっくりと過ごせないでしょう? と微笑みながら続けた。 「明日の午前中まではフリーですよ」 本当は、一日フリーにしたい。しかし、明日の午後は自分が指示をして造らせた医療施設の視察がある。 「あなたもそれに同行するのですから、それならば一緒に行った方が楽でしょう?」 ならば、ここに泊まっても同じ事だ。 「明日は、わたくしが選んだドレスを着て、一緒に行きましょう」 髪もアクセサリーも全部選んであげる。そう付け加えれば、とりあえずルルーシュは納得したようだ。 「姉上がそうおっしゃってくださるなら」 にっこりと微笑みながら言葉を返してくる。 「もちろんです。あぁ、おそろいにしてもいいかもしれないわね」 そうなるように作ったドレスもあることだし。そう言って満足そうな笑みをギネヴィアは浮かべた。 「ギネヴィアお姉様だけずるいです!」 自分だって、ルルーシュとおそろいのドレスを着たい! と騒ぎ出したのはカリーヌだ。 「カリーヌ。そういうものは自分で用意をして置いて、それからルルーシュを巻き込むものよ」 そんな彼女に、ユーフェミアがそう声をかけている。 「ルルーシュ。明後日は、わたくしが選んだドレスを着てくださいね」 その方がコーネリアが喜ぶ。ルルーシュへと視線を向けながら、ユーフェミアがそう言ってきた。 「……考えておく」 ユフィの選ぶドレスは動きにくいからあまり好きではないけれど、コーネリアが喜ぶなら、着た方がいいのだろうか。ルルーシュはこっそりとこう付け加えている。 「まぁ、それはその時に考えなさい。皇帝陛下があれこれ指図されるかもしれませんしね」 それよりも、そろそろあがりましょう。そう言いながら、ギネヴィアは――少し名残惜しかったが――ルルーシュの体を解放する。 「お茶の用意が出来ているはずだわ」 何よりも、湯あたりをしては意味がない。そう言って彼女は笑った。 「あぁ。ついでに、新しいケア用品を使ってみてくれる?」 自信作だと言って持ってきたものがあるから、と告げるギネヴィアに、異母妹たちは揃って頷いて見せた。 以下、発行予定の本へと続く。 |