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もう、自分は死ぬのだろうか。 二度と、あのやさしい手が自分を抱き上げてくれることはないのだろうか。 詣でるものがいなくなったせいで次第に朽ち始めた社殿の下で丸まりながら、ルルーシュはそんなことを考えていた。 もう一度会いたかったのに、とか細い声で訴える。 しかし、もう立ち上がる力もない。 「なぁ……」 自分がいなくなったら、彼は悲しんでくれるだろうか。 そう問いかけても、誰も答えを返してくれない。それもわかっていたはずなのに、小さな声でまた誰かに呼びかけた。 「……お前……」 なのに、耳に声が届く。 誰かが近づいてくる足音なんて耳に届いていないのに。 そう思いながら、ルルーシュは気怠げに視線を向ける。そうすれば、そこに見たこともない少女が立っていた。 そっと少女が手を伸ばしてくる。 しかし、ルルーシュはその手から逃れようと身もだえた。相手が《人間》ではない、と彼にはわかったのだ。 だが、弱った体ではそれは難しい。 「そんなに警戒するな。私は、お前に害をもたらす気はない」 ふわりと抱き上げると少女は優しく微笑む。 「今の私でも、お前を生かしてやることは可能だ」 せめて、あいつが帰ってくるまでな……とそう付け加える。 「そのくらいのことしかしてやれないが……な」 苦い笑いとともに彼女は笑いを漏らす。そのまま、そっと少女の唇がルルーシュのそれに触れた。 次の瞬間、何かが流れ込んでくる。 圧倒的なそれに、ルルーシュは意識を失った。 久々に目にする我が家は荒れ果てていた。 その事実に、スザクは微かに眉を寄せる。 「……スザク」 「何でもありません、殿下」 そっと呼びかけられた言葉に、スザクは慌てて微笑みを作った。 「無理をしなくてもかまいません。ここが、貴方のお育ちになった場所なのでしょう?」 「……予想していましたので」 誰一人住むものもいなくなったこの場が《神社》と呼ばれる場所だったとはいえ、荒れ果てているだろうとはわかっていることだった。 「ただ……昔飼っていた猫をここに置いていきましたので……」 かわいがっていたあの子が生きてはいないか、淡い期待を抱いていたのだ、とスザクは口にする。 しかし、この様子では難しいのではないか。 「……そうでしたの……」 もっと早く――スザクが連れてこられた当初に――その事実を知っていれば、保護するように命じたものを……と主――ユフィは呟く。 「そのお気持ちだけで……」 十分です、とスザクは続けようとした。だが、その言葉は最後まで口に出されない。 「殿下!」 自分の背後へ……とスザクは口にする。そして、そのまま腰の銃へと手を伸ばした。 「……スザク……」 彼女にしても、自分の立場をわかっているのだろう。素直にスザクの指示に従う。それは、スザクのことを信頼してくれているからかもしれない。そう思えば、余計に背筋が伸びる。 ルルーシュは守れなかった。 あのころの自分には力がなかったからだ。 だが今は、と心の中で呟いたときだ。 「うぎゃぁ!」 訳のわからない悲鳴が周囲に響く。 「……?」 何が起こったのか。そう思いながら、スザクは声がした方向に視線を向ける。 「あら、猫ちゃん」 凄いですわね、とユフィが感心したように呟く。 そこでは、彼女を襲おうとしたらしい犯人が、頭の上に飛び降りてきたらしい猫に顔をひっかかれている姿があったのだ。 しかし、スザクにはその姿よりももっと気になるものがある。 あの美しい黒い毛並みと、珍しい紫の瞳は、自分の記憶の中にあるものと変わらない。 「……ルル……」 まさか、と思いつつスザクはこう呼びかける。 「なぁん」 その瞬間、甘えたようにクロネコが言葉を返してきた。そして、満足したのか倒れ伏した男の上から飛び降りる。そのまま優雅な仕草でスザクの元へと歩み寄ってきた。 ごろごろとのどを鳴らしながら彼の足に体をすりつけてくる。 「ルル! 生きていてくれたんだね!!」 反射的に、スザクはその体を抱き上げた。そのまま、頬をすり寄せる。 「まぁ。スザクのことを覚えていたのですわね」 賢い猫ちゃんだこと……とユフィは微笑む。 「私の命の恩人でもありますし……連れて行きましょう」 また側に置いて上げてくださいね。そういってくれる彼女に、スザクは何度も頷いて見せた。 ユフィの命を救った、という事実があるからだろう――犯人の顔にくっきりと刻まれた爪痕を見ては、誰も否定できなかったらしい――ルルーシュは無事にスザクの元にいることができるようになった。 それもこれも、あの時訳のわからない力を押しつけてくれた相手のおかげだ……と心の中で呟きながら、ルルーシュは身繕いを繰り返す。 「ルル。ごめんね」 シャンプー、嫌いだったんだよね……と微笑みながら、スザクがそっとルルーシュの側に腰を下ろしてくる。 「でも、我慢して。ここはお偉い人の宮殿だから……きれいにしないと、ね」 普通でもルルはきれいなんだけどね、と口にしながら、スザクはそっと手を伸ばしてきた。それが何を意味する行動なのか、ルルーシュは覚えている。 身繕いをやめると彼の手に頬をすり寄せた。そうすれば、ご褒美、と言うように抱き上げてくれる。 「君をこうして抱きしめられて、嬉しいよ」 もう二度と触れられないと思っていたから……と彼は口にした。 それはルルーシュも同じ事だ。 一度は、全てを諦めたのだから。 そう思いながら、そっとその頬に自分の額をすりつける。 「うん、わかっているよ、ルル」 微笑みを浮かべると、スザクは彼の顔を自分の正面へと移動させた。 「今、君がここにいる奇跡に感謝しないとね」 こう言いながら、そっとキスを贈ってくれる。 その瞬間、ルルーシュは自分の体があちらこちらに引き延ばされたり縮められたりするような感覚に襲われた。痛みがなかったことだけが救いかもしれない。 「……誰?」 しかし、こんな風になるとは思わなかった。 スザクの瞳の中に映し出されている自分の姿にルルーシュは思う。 「……なぁ……」 しかし、うまく説明をすることができない。 仕方がなく、こう一声漏らす。 「……ひょっとして、ルル?」 それ以外に考えられないだろう……とルルーシュは心の中で呟く。 沈黙だけが、周囲に流れていった。 そんな二人の様子を楽しげに見つめている視線があることに、彼等は気付かない。 「……まぁ、いいのかな。ルルがルルなのには代わりがないし」 大きくなってくれた方が抱きしめやすいしね……とスザクは笑う。 「なぁ……」 彼の言葉の意味はわかっても、うまく言葉を返せない。それが少しだけもどかしいとは思う。 「……取りあえず、服を何とかしないといけないね」 それとも、元の姿に戻る方法があるのかな? と首をかしげるスザクに、ルルーシュはそっと頬をすり寄せる。 「ルル……」 その仕草に、スザクは少し困ったように呼びかけてきた。それはどうしてなのだろうか……とルルーシュは首をかしげる。 それもいつかはわかるのだろうか。 「いいけどね」 問題は、僕の理性が持つかどうかだよな……とさらに付け加えられた言葉を聞きながら、ルルーシュはそんなことを考えていた。 終 07.01.15up |