総督府内では好き勝手をすることを許されているルルーシュだが、彼にも苦手なものはある。いや、苦手な存在があると言うべきだろうか。
 その一つがスザクの上司であるロイドだ。
 と言っても、彼が猫嫌いだとかルルーシュを迫害しているとか言うわけではない。どちらかと言えば猫好きの方なのだろう。
 しかし、人間の方で猫が好きでも猫もそうだとは言えない。
 彼の場合、うるさいのと構い過ぎることで、ルルーシュの不興を買っているのだ。
 同じ行動を取っているのがスザクであれば話は別だが、それは彼がルルーシュにとって唯一の存在だからだと言っていい。
 それでも、彼はまだましかもしれない。
 人間である以上、仕事があるのだ。だから、彼が仕事に行った頃を見計らってでかければ、取りあえず、被害は最小限に抑えられる。それをルルーシュは既に学習していた。
 しかし、問題はもう一つの存在だと言っていい。
 それはルルーシュと同じ《猫》だ。いや、そう見える……と言うべきか。
 いや、存在そのものが違うと言うべきかもしれない――もっとも、それは自分も同じだとルルーシュは思っている――それは名前を『マオ』と名乗っている。
 いったいマオは、この厳重な警備の総督府にどうやって侵入してくるのだろうか。
 ルルーシュですら、この建物内を自由に歩くために発信器を付けられているのに――もっとも、これがあるおかげでどこでもフリーパスなのだから妥協してもいいのかもしれないが――野良であるらしいマオはそんなものがあるはずがない。そして、ここの者達は、たとえ猫とはいえうかつに侵入させないはずなのだ。
 もっとも、人間の目をかすめることぐらいであれば猫には簡単なことではある。しかし、それでもこれだけの人数の目を完全にかすめることは難しいのではないか。
 そんなことを考えていたのがいけなかったのかもしれない。
「こんな所にいたんだぁ、ルルゥ」
 遊びに来たよぉ、と言うセリフとともにマオが飛び降りてくる。
 それを確認するよりも早く、ルルーシュはその場から逃げ出そうとした。
「やめといた方がいいよ、ルルゥ。その先には、君の嫌いなロイドがいるよぉ」
 しかし、そんな彼の動きをマオのこの言葉が制止する。
「いいのかなぁ? 彼、今いらついているからルルが行ったら何をされるかわからないよ?」
 嫌と言うくらい撫でられるだけならばともかく、下手をしたら実験の対象にされるかもねぇ……とマオはさらにルルーシュを追いつめるようなセリフを口にしてくれた。
「マオ、貴様……」
「本当だよぉ。あの男は君を使って君のご主人様をからかいたいっていつも思ってるんだからぁ」
 今だって、ルルーシュを捕まえたら、取りあえず逃げ出さないように袋に詰めようと考えているよ、とマオは口にする。
 ひょっとして、こいつは他の者達の考えがわかるのか? とルルーシュは心の中で呟く。
「だ〜いせいかい」
 さすがはルル、とマオは人間で言えば拍手をするように尻尾で床を叩いた。
「……お前にほめられても嬉しくはない」
 ルルーシュは即座にこう言い返す。同時に、脳裏の中ではどうしてマオがそんなことをできるようになったのか、を考えていた。
 ふっと思いついたのは、あの時自分を撫でてくれた《手》の持ち主のことだ。
 あの手の持ち主が自分に力を与えてくれたように、マオにも力を与えたのだろうか。
「それも、正解」
 即座にマオがこう言ってくる。
「C.C.が、僕らに力をくれたんだよぉ」
 この言葉に、ルルーシュは眉をしかめた。
「C.C.?」
 何者だ、と思わず呟いてしまう。
「僕らの神様だよぉ」
 君のご主人様ならよく知っているかもしれないねぇ……とマオは口にする。
「スザク?」
 なぜ、彼なら知っているのだろうか。ともかく、後で聞いてみよう……とルルーシュが思ったときだ。
「ともかく、僕たちは二人ともC.C.から力をもらった存在。そんな僕たちがつがいになるのは当然だと思わないかなぁ?」
 だから、どうしてそういう結論になるのか。
「お前だってオスじゃないか!」
 メスならばともかく、とルルーシュはそう言い返す。
「そんなの、些細な問題だよぉ。ルルがご主人に抱いている気持ちの方が問題じゃなぁい?」
「……俺はただ、スザクと一緒にいたいだけだ」
 それのどこが問題なのか、とマオをにらみつける。
「ご主人も問題だけどねぇ」
 くすり、とマオが笑う。
 そんな彼の上に、どこからか花瓶が飛んできた。
「……何で?」
 しかし、今がチャンスだろう。そう考えてルルーシュは脱兎のごとく逃げ出す。そのまま彼は、取りあえず安全と思える場所に飛び込んだ。

 しかし、あれは誰の仕業だったのだろう。
 本気で悩んでしまうルルーシュだった。




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07.02.19移動