「いいなぁ……」
 ぼそっと自分の上司が呟くのが聞こえた。
「……ロイドさん?」
 それがある意味、危険信号だと言うことはわかっている。しかし、ランスロットのコクピットにいては逃げ出すわけにもいかない。
「どうして、スザク君だけあの子に愛されているんだろうねぇ」
 深いため息とともに彼は言葉をはき出す。
「僕だけじゃありませんよ? 総督閣下も副総督閣下もルルは好きですし……」
 セシルや――以外だと言っては申し訳ないのかもしれないが――ダールトンの肩の上に乗っているルルーシュの姿もよく見かけられているらしい。そう考えれば、彼も好かれているのだろう。
「でも……僕が近づくと逃げるんだよねぇ」
 どぉしてかなぁ……と恨みがましく言われても困る。
 それに、自分としてもルルーシュにはできれば彼にだけは近寄って欲しくないし……とも心の中で呟いてしまった。
「っていうかぁ……昔から、動物一般に好かれたことがないんだよねぇ、僕」
 おかげで、いまだに乗馬もできないんだよねぇ……と彼は付け加える。
「本国の屋敷に帰れば帰ったで、警備のために放されいている犬にほえられるし……」
 猫なんて、姿を見ただけで逃げ出すんだよぉ……と彼は泣き真似までして見せた。
「そうなんですか……」
 いったい、他に何のセリフを口にすればいいのか。スザクにはわからない。
 だが、今の彼の姿は、ちょっと同情してもいいのではないか。そう思わせるものだ。
「でも……僕もルル以外の猫には好かれていませんよ?」
 やっぱり逃げられます、と苦笑とともに付け加える。
「ルルは、まだ、へその緒がついている頃に僕が拾ってきて面倒を見てきたので、特別なんですよ」
 それこそ、寝食を忘れて面倒を見た。
 だからこそ、ルルーシュは特別なのだ、とスザクは言い切る。
「それに……そのことを昔ある人に相談したら、こう言われました」
 幼い頃から自分たちを見守ってくれた女性(ひと)に、とスザクはさらに言葉を重ねた。
「猫という生き物は目もいいし、音もよく拾うんだそうです。だから、大げさな身振りをする人や騒々しい人を嫌うとか。それに、独立心が強い生き物だから、かまわれすぎるのもダメだそうです」
 自分とルルーシュの関係のように、それが当然になっていればともかく、見知らぬ相手では嫌われる行動だ、とスザクは付け加える。
「スゥザクくぅん?」
 ロイドの口元に笑みが浮かぶ。だが、眼鏡の下にある彼の瞳はまったく笑っていない。
「何でしょうか?」
 いったい、いつ自分は彼の地雷を踏んでしまったのだろう。スザクはそう考えてしまう。
 だが、すぐに思い当たるものがあった。
 今自分が口にした『猫に嫌われる人間』の条件に、彼はぴったりと当てはまるのだ。
「今日は、部屋に帰れるとは思わないようにねぇ」
 こうなったら、徹底的に君達を邪魔してやる! とロイドが口にする。だが、その瞬間、彼の姿はスザクの前から消えた。
「何、くだらないことを言っているんですか!」
 自分が悪いでしょう! と手にしていたファイルで遠慮なく彼の頭を殴りつけている人間。それは、特派の影の最高責任者、セシルだった。

「……ともかく、ロイドさんには気を付けるんだよ?」
 いいね、と言いながらスザクは人間の姿になったルルーシュを抱きしめる。
「わかった……でも、俺、そのような女性、覚えてないぞ?」
「あのころのルルーシュはまだ目も開いていなかったからね」
 しかたがないよ、と微笑みとともに告げた。
「でも、C.C.は本当に何でも知っていたんだよね」
 さりげなく付け加えた言葉に、ルルーシュが目を丸くする。
「C.C.?」
「そうだよ」
 彼女は……とスザクが付け加えようとした時だ。
「どうやら、ようやく思い出してくれたようだな」
 聞き覚えのある女性にしては硬質な声が耳に届く。同時に、スザクの視界に鮮やかな若緑が広がった。




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07.03.08移動