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今日もまた、ルルーシュはいつものように総督府内を歩いていた。 それは、縄張りの点検の意味もある。コーネリアやユーフェミアが許している以上、ここは自分の縄張りなのだ、という意識がルルーシュにはあった。 だからといって、気を抜くことはしない。 ここだって、必ずしも安全ではないと、ルルーシュは身をもって知っている。 そんな彼の耳に、軽やかな足音が届いた。 「ルルーシュ! ここにいましたのね?」 一瞬遅れて、華やかな声が周囲に響く。 視線を向ければ、そこには予想通りユーフェミアが立っていた。ルルーシュが彼女の姿を認めたとわかったのだろう。その場に彼女はしゃがみ込む。 「ルルーシュ」 おいで、と彼女は手を差し出す。 彼女のおかげで、自分はスザクと一緒にいることができる。何よりも、彼女は信頼できる人間だ。それはわかっているからこそ、ルルーシュは素直に彼女に従う。 「ちょっとお願いがあるのですが、かまいませんか?」 それに、彼女は自分がただの《猫》だと思っているはずなのに、こうして何かをするときには確認を取ってくれる。 「なっ」 頷くように声を上げれば、ユーフェミアはさらに笑みを深めた。 「これから、ある人とお話をしなければいけないのですが……同席して頂けますか?」 困ったことに、情報だけを仕入れて大騒ぎをしてくれているのだ、と彼女は続ける。だから、ルルーシュの存在を見なければ、こちらに押しかけてきそうなのだ、とも。 おそらく、それをされればユーフェミアだけではなくコーネリアも困るのだろう。それは結果的にスザクが困ると言うことでもある。ならば、それを避けなければ……とルルーシュは判断をした。 「なぁん」 だから、同意をするように鳴き声を上げる。 「よかったですわ」 そうすれば彼女はこういって、ルルーシュを抱き上げた。 一番好きなのはスザクの腕の中だ。それは昔から変わらない。だが、ユーフェミアとコーネリアは女性だけあって柔らかいし、何よりもよい香りがする。それに、自分を抱きしめる仕草にも何の不安を感じさせない。だから、ルルーシュは素直にその腕に身を任せていた。 「大丈夫。スザクのお仕事が終わるまでには解放して差し上げます」 気持ちよさそうに目を閉じているルルーシュにそう囁くと、ユーフェミアは歩き出す。 しかし、この時のことを、ルルーシュはすぐに後悔することになってしまった。 「これがルルーシュですわ、シュナイゼルお兄様」 ルルーシュを腕に抱きしめたまま、ユーフェミアはモニターの向こうにいる人物にこう告げる。 「可愛らしい子でしょう?」 こういいながら頬をすり寄せてくる彼女にルルーシュは甘えるように目を閉じた。 『確かに、綺麗な子だがね……』 「それに、凄く頭のいい子なんです。私だけではなく、コーネリアお姉様も助けてもらいましたのよ?」 ルルーシュの主であるスザクもそうだけれど……とユーフェミアは邪気のない笑みをさらに深めた。 「確かに、シュナイゼルお兄様がおっしゃるとおり、この子には血統書は付いていないかもしれません。でも、それ以上の価値がありますわ」 血統書がないのも、この地が戦火に包まれたからかもしれないでしょう、と彼女はさらに付け加える。 そんなことはないのだが、とルルーシュは心の中で呟いた。自分は、枢木神社の境内に捨てられていたのだという。それをスザクが拾ってくれた。それに関しては文句はない。 しかし、血統書があるのであれば、そのようなことはされないだろうとも思うのだ。 もっとも、血統書があったとしても捨てられるときは捨てられるかもしれない。そんな仲間を、ルルーシュは知らないわけでないのだ。 『血統より中身だと?』 「全てがそうだとは申しません。ですが、人間でも動物でも、中には血統など関係なく優秀な存在が生まれるものではありませんか?」 何よりも、懐いてくれることが嬉しいのだ……とユーフェミアは微笑む。 「それとも、うらやましいから難癖を付けていらっしゃいますの?」 その表情のまま、ユーフェミアは無邪気な口調でこう問いかけた。そうすれば、シュナイゼルはぐっと言葉に詰まっている。と言うことは図星だったのだろう。 「それならば、お兄様はお兄様で努力をなさってくださいな。この子はスザクが大切にしている子ですもの。私もコーネリアお姉様もスザクの主だという事で、この子に触れられるのですわ」 もし、どこかで何か一つでも歯車がずれていれば、そんなことはあり得なかった。だから、どうしてもというのであればそれなりのことをしろ、とユーフェミアは付け加える。 『本当にその子に好かれているのかな、君は』 不意にシュナイゼルがこういってきた。 「もちろんですわ」 でなければ、こんな風に抱っこさせてくれませんもの……とユーフェミアはルルーシュに頬をすり寄せてくる。 『おや。そのくらいならば誰でもできるのではないかね?』 「何をおっしゃりたいのですか、お兄様?」 『キスぐらいはして見せてくれないと、信じられないかもしれないよ』 シュナイゼルにしてみれば苦し紛れに口にした言葉なのだろう。だが、ユーフェミアにしてみれば爆弾だったようだ。 それも当然か、とルルーシュは思う。 今まで、自分は彼女にキスをさせたことはなかった。それは、そのせいで人間の姿になってしまってはとんでもない騒ぎを引き起こすだろうとわかっていたからだ。 だが……とルルーシュは先日のC.C.の言葉を思い出す。 『心配するな。ルルーシュを猫のままにしておくのも、人間の姿にするのも、お前だけの特権だよ、スザク』 婉然と微笑みながら、彼女はさらに言葉を重ねる。 『もちろん、どちらか片方だけの姿に固定することも、な』 どうするかは、自分で決めればいい……と言われて、スザクは思いきり悩んでいたようだ。 『あぁ……供え物はピザとやらでかまわんぞ。なかなかうまいからな、あれは』 自分の言いたいことだけを言うと、彼女はその場から姿を消してしまった。それを、ルルーシュとスザクは呆然と見送っていたことは否定しない。 そして、ルルーシュはスザクの意志に従うとも告げたのだ。自分はどちらの姿でもスザクの側にいられればそれでいいのだから、とも。 ただ、スザクがその瞬間、困ったような表情を作った事だけが気にかかる。 「わかりましたわ」 夕べのことを思い出していたルルーシュの耳に、ユーフェミアの決意を含んだ声が届いた。いったいどうするのだろうか。そう思って、彼女の顔を見上げる。 「ルルーシュ。スザクでなくてごめんなさいね」 そうすれば、彼女が勢いよく唇を近づけてきた。反射的に前足で防ぐ間もない。 次の瞬間、ユーフェミアの唇がルルーシュの鼻先に触れる。 C.C.の言葉を疑うつもりはないが、万が一と言うこともあるし……とルルーシュは覚悟を決める。しかし、幸か不幸か、何の変化も自分の上には起こらなかった。 「どうですの、お兄様?」 ユーフェミアがさらにシュナイゼルに何かを言っている声が聞こえる。しかし、もうここまで来れば最後まで付き合っている必要はないのではないか。彼女の胸は柔らかいし……とルルーシュはさっさと眠りの中に逃げ込むことにした。 その後、この兄妹がどのような応酬をしていたのかをルルーシュは知らない。 終 BACK 07.03.24移動 |