|
前門の虎後門の狼……と言うのはこういう事なのだろうか。 ルルーシュは総督府の中を全力疾走しながらそう考えてしまう。 ついでに、どうしてこう言うときに限ってコーネリアやユーフェミアと言った自分にとって安心できる存在の姿がないのだろうか。 こうなったら、スザクの所に逃げ込むしかない。 あそこにはロイドがいるが、見知らぬ連中に掴まるよりはマシだ。ルルーシュはそう考える。 その気持ちのまま、進行方向を変えた。 窓から木の枝へと飛び移る。 そのまま、建物の縁を駆け抜けて最短距離で目的地へと向かう。 本当は、彼がいる場所に一番近いところの窓でも開いていてくれればよかったのに。そう思いながら、ルルーシュは少しだけ開いているドアの隙間から中に飛び込んだ。 「あら、ルルーシュちゃん」 どうしたの? 珍しいわね……と問いかけてきたのは、スザクの上司の一人だ。 それはあのロイドの副官、ということでもある。 だが、彼女に関してはルルーシュは嫌ってはいない。時々とんでもないものを食べさせられることをのぞけば、セシルは優しいと言っていい。だが、問題はその食べ物だから、無条件で好きだとは言えないのだ。 それでも、ロイドにちょっかいを出されたときには彼女の側以上に安全な場所がないと言うことも否定できない。それは今も当てはまるのだろうか、とルルーシュが考えたときだ。 「ルルがどうしたんですか?」 どうやら彼女と何かを話していたらしいスザクがひょっこりと顔を出す。 「にゃぁ!」 その姿を確認した瞬間、ルルーシュは彼に飛びつく。それだけでは安心できなくて、その制服の胸元に滑り込もうとした。 「ルル? どうしたの、本当に」 しかたがないな、と呟きながらそんな彼のためにスザクは少しだけ制服のベルトをゆるめてくれる。そうすれば、ルルーシュは何とかその中に全身を押し込むことができた。 「……本当にどうしたのかな。こんなこと、初めてかも」 拾ってすぐの頃はよくこうしてお腹の中に入れて歩きましたけど……とスザクは苦笑とともに付け加える。でも、その時のルルーシュは本当に小さかったから、と口にする彼も、まだ少年だったよな……とルルーシュは思い出す。 「何か恐い目にあったのかしら」 セシルがこう呟く。そのまま彼女は周囲に視線を彷徨わせ始めた。 「そういえば、ロイドさんは?」 今日はまだ顔を見ていませんけど……とスザクが呟くように付け加える。 「何か、誰かから呼び出されて出て行ったけど」 それとルルーシュの怖がりようが関係あるのだろうか。二人はそれぞれ首をかしげ始めた。 そのころ、コーネリアの執務室はある意味異様な雰囲気に包まれていた。 できれば、今すぐ逃げ出したい。 こんなことを考えていたのはロイドだけではないだろう。はっきり言って、この部屋の中にいる者達の中では高位の存在だといっていいユーフェミアがあまりのことに瞳を潤ませているほどだ。 「……シュナイゼル兄上」 その事実に気付いた、もう治療の方法もないほど重度のシスコンであるコーネリアが大人しくしているはずがない。剣呑なものを言葉に含めながら彼に呼びかけている。 「何かな?」 しかし、そんなものが通用する相手でないことは自分がよく知っている。というよりも、彼女のシスコンぶりでも勝てないくらい厄介な存在がシュナイゼル・エル・ブリタニアという男なのだ。 その言動はあくまでも誠実そのもの。 執政者としての資質も十二分以上にある。 ただ問題なのは、その性格が奇妙にひねくれていることだろうか。もっとも、そんなことをセシルあたりの前で言えば間違いなく「類は友を呼ぶんですね」の一言ぐらいは言ってくれるだろう。ロイドとしてみれば、自分よりもシュナイゼルの方が絶対やばいんだ、とそういいたい。 「宰相ともあろうお方が、いったい何用でこの地に?」 しかも、わざわざグランストンナイツまで引きつれて……とコーネリアはきりりと目尻を切り上げながら問いかける。 「あぁ、それは簡単だよ」 一分の隙もないロイヤルスマイルでシュナイゼルは言い返す。 「ユーフェミアご自慢の騎士候補とその飼い猫に会いに来ただけだが」 本当にそれだけなのか、とロイドは頭痛を覚える。それだけのためにわざわざアヴァロンで乗り付けてきたのか、この男は。 「……枢木とルルーシュ?」 それ以上の衝撃を受けたのはコーネリアだっただしい。 「それだけのために、わざわざ本国から押しかけてこられたのですか、兄上!」 あぁ、誰もあえていわなかったことを……とそんな風に直球勝負で口にされるのか。彼女の言葉にロイドは本気でのこの場を逃げ出したくなる。 確かにルルーシュは可愛い。 自分はあまり好かれてはいないようだが、それでも最近はスザクと一緒の時であれば撫でさせてくれるようになった。その他にも声の大きさや動作などを気を付けているせいか、少なくとも姿をみせただけでは逃げ出さないようになってくれた。 地道とも言える努力の結果、ようやくそういう関係になれたのに――実のところ、スザクが「仕事に支障が出るから、少しでいいから妥協してくれないかな?」とルルーシュに頼んでいたのだが、それはロイドのあずかり知らぬ事実だ――それを脇から出てきてかっさらわれては困る、とそう考えてしまう。 「第一、ルルーシュは猫ですよ! 私ですら初対面では馴れてもらえなかったのに、いきなり顔を出した兄上がそう簡単に触れさせてもらえると思っているのですか!」 ルルーシュは賢く誇り高い猫だ! そうだからこそ、自分も彼の存在を認めているのだ、とコーネリアはさらに付け加える。 「そうですわ」 さらにユーフェミアも口を開いた。 「ルルーシュは何度も私の危機を救ってくれました。私も、そんな彼には敬意を持っていますわ。だからこそ、私に抱っこをさせてくれるのです」 だから、シュナイゼルには無理だ! と彼女にしては珍しい口調で告げる。 「そんなもの。実際に見てみないとわからないだろう?」 多分、自分の部下がルルーシュを捕まえてきてくれるだろうからね……とシュナイゼルは笑う。 「兄上!」 「ルルーシュを追いかけ回させているのですか!」 その言葉を耳にした瞬間、皇女二人の表情が般若のそれへと変わった。コーネリアはともかく、ユーフェミアのそれは初めて目にするものだけに恐い。 「……ユーフェミア?」 それは流石のシュナイゼルも例外ではなかったようだ。その笑みが強ばっている。 「しっかりとお話をさせて頂きましょう、お兄様」 にっこりと微笑みながらユーフェミアはそんな彼に詰め寄っていく。 「そうですね。よりにもよって、私が皇帝陛下から任せて頂いているこの地で、勝手な行動を取ってくださったいいわけを、しっかりと聞かせて頂きましょう」 さらにコーネリアがその後に続いた。 「……殿下も、本当に……」 そんな彼を見て、ロイドがこう呟く。幸か不幸か、それは本人の耳には届かなかったようだ。 「ルル、重いよ」 こう言いながらも、スザクは少しも嫌そうではない。それを確認して、ルルーシュは大きなあくびを漏らす。 「あらあら。安心したら眠くなったのね」 それを見て、セシルが微笑む。 そんな二人の背後でシュナイゼル直属の部下達が精根尽き果てたという様子で倒れている。 彼等がどうしてそのような状態にあるのか。それを問いかけたいと思うものは、特派にはいなかった。 終 BACK 07.05.07移動 |