「スーザクく〜ん」
 いくらルルーシュとはいえ、ランスロットのコクピットに猫を入れられては困るんだけどぉ……とロイドが通信機越しに声をかけてくる。
 それに関してはある意味、予測していたことだと言っていい。だからといって『はい、わかりました』とルルーシュを外に出すわけにはいかないのだ。
「……すみませんが、ユーフェミア殿下がお戻りになられるか、ロイドさんの後ろに見え隠れしている方々がいなくなるまではルルーシュを目の届かないところに行かせる予定はありません」
 同じように通信機越しにこう言い返す。
「それに、今はきちんとケージの中です」
 本人はあまりその中にいることが好きではない。それでも、彼等に掴まるよりはマシだ、とわかっているのだろう。ルルーシュは猫の姿に戻ると同時に、素直にその中に潜り込んだのだ。だが、そのしなやかな尻尾が奏でるリズムは、彼の機嫌が最悪だと伝えてきている。後で何かご機嫌を取らないといけないだろう。スザクは心の中でそう付け加える。
「まぁ、それはそうなんだけどねぇ」
 でもやっぱりぃ、とロイドはなおも食い下がってきた。
「僕が責任を持つからぁ、と言っても、ダメなんだよねぇ?」
「残念ですが。シュナイゼル殿下のご命令に、ロイドさんが逆らえるとは思っていませんから」
 気がついたときには、ルルーシュがアヴァロンの中で、しかもブリタニアに向かっていたなどと言うことになったら泣くに泣けない、とスザクは付け加える。
「そんなことになったら、僕、使い物にならなくなるかもしれないです」
 そうなれば、自分以外のデヴァイサーがない以上、ランスロットのテストもできませんよね……とスザクは笑う。
「ス〜ザクくぅん……」
 それは、ひょっとして脅迫ぅ? とロイドは嘆くような表情を作った。
「何とでも。僕はもう二度と、ルルーシュと離れたくないんですよ」
 彼を失ったと信じていた日々、自分の心の中にはぽっかりと大きな穴が空いていたように思う。それは、自分を信頼して引き立ててくれたユーフェミアの存在をもっても埋めることができなかった。
 だが、この小さな体――というには微妙だが――が自分の腕の中に戻ってきた瞬間、その穴はあっさりとふさがった。それどころか、もっと違う何かを彼に与えてくれる。
 だから、もう二度と、何があろうとも失えない。
 このぬくもりから引き離されたら、間違いなく自分の心は死んでしまうだろう。
 スザクにはそれがわかっていた。
「だから、どうしてもルルーシュをランスロットのコクピットから追い出したければ、僕ごと追い出してくださいね」
 言葉とともに微笑みを作る。しかし、自分の瞳は笑っていない。その事実をスザクはわかっていた。

 目の前では、自分の上司兼悪友が優雅にお茶を飲んでいる。
「もぉ、お願いですから、僕の可愛い部下を追いつめないでくださいよぉ」
 そんな彼に向かって、ロイドはこう告げた。
「でないと、本気で軍を辞めて出奔されちゃいます」
 やっと見つけた大事なパーツなのに……とわざとらしいため息を付け加える。その上、あの可愛い生き物まで手の届かないところまで持って行かれては、何を楽しみにすればいいのか、とそうまで思う。
「それは、少しだけ困るかな?」
 そんな彼に対して、シュナイゼルはこう言い返してくる。しかし、それが口先だけの言葉だ、と言うことをロイドはよく知っていた。
「そんなことを言いながら、もっと事態を混乱させて楽しもうって思っているんでしょぉ」
 本当に性悪なんだから……とロイドはこっそりと口にした。
「何か言ったかね?」
「確認しないとわからないんですかぁ?」
 宰相閣下ともあろう方が、もう、ぼけているのですかぁ……とロイドは学生時代のように毒舌を相手にぶつける。はっきり言って、彼の所行で迷惑を被っているのはスザクだけではないのだ。しかも、スザクと違って自分は相手に多少の報復をしたとしてもかまわない立場にあるし……と心の中で付け加える。
「おやおや。いつの間にか皇族に対する態度を忘れてしまったのかな、君は」
 そういう君こそ健忘症かい? と綺麗な笑みとともにシュナイゼルは言い返してきた。
「相手がきちんと尊敬できる方であれば、どんなときでも礼儀を忘れたりはしませんよぉ」
 自分が今していることは、尊敬に値するのか。そう言い返す。
「グランストンナイツを使って、可愛い黒猫さんを追いかけ回している上司なんて尊敬できると思いますぅ?」
 さらに付け加えられた言葉に、シュナイゼルのマユがあがった。
「そういえば知っていますかぁ? 猫好きの人間ほど、猫に嫌われるんだそうですよぉ」
 自分も、それを教えられたからこそ、悪いところを直すように努力したのだ。シュナイゼルも同じくらい努力をすればいいんだ。そんなことを考えてしまうロイドだった。

 そのころ、ルルーシュはべったりとスザクに抱きついていた。
「ルル。それじゃ、ご飯、食べられないよ?」
 ここは大丈夫だから、ね? と言いながら、そうっと彼の黒髪を撫でる。
「スザク……」
 そんな彼の胸に顔を埋めたまま、ルルーシュがゆっくりと口を開く。
「枢木神社に、帰りたい。スザクと、二人だけでずっといたい……」
 無理だとはわかっているけど……と彼は続ける。それでも、シュナイゼルがいない場所でのんびりとしたいのだ、とも。
「そうだね……」
 いっそ、彼が帰るまで休暇を申請してしまおうか。そのまま、しばらくルルーシュとあちらこちらをふらふらしてもいいのではないだろうか。そんな気持ちにスザクもなってきた。
「……後で、ロイドさんかセシルさんに相談してみよう」
 小さな声、でそう呟いてみる。
「スザク」
「休暇を取って、久々に神社に行ってみようか」
 あの方もいるかもしれないから、ピザを持っていった方がいいだろうね。この言葉に、ルルーシュも頷いてくれた。




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07.06.25移動