End Of The World新たな一手を探るかのように、チェスの駒を動かしていたときだ。 「何故、あの男にギアスを使わない?」 C.Cが不意にこう問いかけてくる。 「ギアスは、一人の相手に一度しか使えない……だから、だ」 自分がスザクに望むことはただ一つ。 だから、その時まで使うわけにはいかない。そう言い返す。 「そうか」 それ以上のことを問いかけるわけでもなく、C.Cは興味をなくしたというように視線をそらした。もっとも、聞かれても本心を答えることはできなかっただろう。 いや、答えるつもりがなかった、と言うべきか。 自分の望みは、ブリタニアをぶち壊すこと。 だが、その望みが叶った後、自分がどうするか。それを彼女に告げるつもりはない。 そして、彼女も聞かないだろう。 もっとも、そのせいで彼女との誓約を違えることになるかもしれない可能性も否定はしない。 だからどうだというのか、と心の中で呟く。 それよりも先に考えることがある。 「……さて……これからどうするか……」 自分の力となる者達は手に入れた。 そして、そのための道具も、だ。 しかし、そんな自分たちを邪魔しようとするものも多い。 「取りあえずは、あちらをどうするか、だな」 こう呟きながら、ルルーシュはチェス盤へと視線を戻す。既にその脳裏からは先ほどの会話はかき消されていた。 それなのに、不意にそれを思い出す羽目になってしまった。 「……ルル……」 どうして、とスザクが呆然とした表情で呟いている。 「どうして、君が……ゼロ、なんだよ!」 次の瞬間、彼は悲鳴のようにこう叫んだ。 「決まっているだろう」 そんな彼に向かって、ルルーシュは冷静な口調を作って言葉を返す。 「ブリタニアを壊すためだ」 きれいな方法では、それは不可能だ。そう思ったのだ、と彼に言い返す。 「でも、ルル!」 「……自分自身が撃たれる覚悟がなければ、何事もなす事ができない。特に、相手がブリタニアであれば、な」 悔しいが、自分が持っていたのは、この身とC.Cに与えられたギアスだけだった。だが、今は違う。黒の騎士団をはじめとした力を貸してくれるものもいる。 それでも……いや、それだからこそ、自分は前線に立たなければいけない。そして、自分から率先してブリタニアを撃たなければいけないのだ。 それが、コーネリアと同じ行動だと言うことに気付いたのは、つい最近のことだ。だからといって、彼女に対する気持ちを変えるわけではない。それでも、やはり姉弟だったのか、と改めて認識するきっかけにはなったかもしれないが。 「でも、ルル!」 「もう、遅い。既に賽は投げられている」 自分が進むべき道は一つしかない。そして、その果てに待っているであろう最期も、だ。 「お前は、お前の道を行け」 そして、最後は……と言いながら、彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。 「ルル……」 一瞬のためらいの後、ルルーシュはギアスを発動させた。 「お前が俺を殺せ……そして、俺のことは忘れろ」 ナナリーのことだけは、幸せにしてやってくれ、とさりげなく付け加える。 「……お前とナナリーさえ幸せに過ごせるなら、どうでもいいんだ」 きれいになった世界で、二人が幸せに暮らしてくれるなら、それでいい。それだけが、自分の望みなのだから、とルルーシュははき出す。 「だから、もう……」 自分のことは忘れろ。そう言えればいいのだろう。 だが、と心の中で呟く。 せめて、自分が生きている間だけでも彼に覚えていてもらいたい。 そう思うのはワガママなのだろうか。 「もう、行け……スザク」 飲み込んだ言葉の代わりに、ルルーシュはこう命じる。 ギアスが解除されていないスザクは、ただ静かにその言葉に従った。 「……次に会うのは、全てが終わったときだ……」 彼の背中を見送りながら、ルルーシュはこう呟く。 その日、全ては終わるだろう。それでいいのだ、とも。 きっと、自分は幸せだから、と微笑んでいた。 そして、その日、全てが終わった。 目の前で、彼の体がゆっくりと崩れ落ちていく。 「あ……あぁっ……」 まだ硝煙が立ち上っている銃を放り投げると、スザクは彼に駆け寄った。 「ルルーシュ!」 心の中で、何かが彼との思い出をもぎ取ろうとしている。しかし、スザクはそれを必死に振り払おうとした。 自分に残された、たった一つのやさしい思い出。 それは全て、目の前で崩れ落ちている相手がくれた物だ。 どうして、それを忘れられるというのか。 「ルル……」 たとえ、それが彼の願いだったとしても受け入れるわけにはいかない。 「僕が、どうしてブリタニア軍に入ったと思っているんだ……」 全てはルルーシュのためだったのに。彼と彼の妹が、安心して暮らせる世界を作りたかった。ただそれだけだった。 それなのに、とどうしてこうなってしまったのか。 いったい、どこで自分たちは間違えてしまったのだろう。 「……ルルーシュ……」 力を失った体をスザクは抱き起こす。 心臓の上に開いた弾痕さえなければ、ただ眠っているだけのようにしか見えない。それはこれが彼の望んだ結末だから、だろう。 そして、自分が彼のことを忘れることも、だ。 「君を忘れることは……死ぬことと変わらないのに、ね」 それでも、と彼は願ったのだろう。 自分が生きることを。 「馬鹿だよ、君は」 どうして、もっと早く――できればあの時に――話してくれなかったのだろうか。もし、自分が彼の正体にもっと早く気づいていれば、あるいは……と思わなくもない。 しかし、既に起こってしまった事態をなかったことにはできないのだ。 死んでしまった人間をよみがえらせることも、また不可能だと言っていい。 「……君は、よく、僕を『馬鹿だ』と言ってくれたけど、今の君以上に馬鹿なことをしてこなかった自覚はあるよ」 小さな笑いとともにスザクはそっとルルーシュの頬をなでる。 「ナナリーのことは、きっと、ユフィ様が面倒を見てくれる」 あの方は優しいからと微笑むとスザクはゆっくりと手の位置を変えた。 指先に冷たい感触が伝わってくる。それを彼はそっと握りしめる。 「また僕のことを『馬鹿』というのかもしれないね、君は」 それでも、自分は……と思いながら、ゆっくりと手を挙げた。冷たい感触が額に押し当てられる。 「僕は、君と一緒にいたいんだよ、ルル」 自分が彼を忘れるためには死ぬしかない。だが、それは彼とともに歩いていくと言うことだ。 それが自分にとっては一番の幸せだから。 心の中でそう呟くと、スザクはためらうことなく引き金を引いた。 「……本当に、人の心はわからないな……」 折り重なるように倒れ込んでいるルルーシュとスザクを見つめながら、C.Cはこう呟く。 「私が人間だったのは、もうかなり昔のことだからな。何を考えていたのか、もう忘れてしまった」 それでも、と彼女は呟く。 「ギアスを無にするほどの強い願い。それが欲しいと思うよ、私は」 それを手に入れれば、自分は《死ぬ》ことができるのだろうか。その答えを、彼女は持っていなかった。 ただ、風が彼女の髪を吹き散らす。 しかし、その姿はかき消されるかのようにその場から消えた…… 終 |