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ぎゅっとしてね

不審者注意


 とりあえず、と二人で塀のそばに移動する。そして、キャリーバッグの上にルルを座らせた。
「……ぼく、たってますよ?」
 ルルがそう言ってくる。
「いいから」
 そう言うと、スザクは彼の体を抱き上げた。そして、そのままキャリーバッグの上に座らせる。
「これは疲れたときの椅子代わりに座れるようになっているから。ついでに、僕はまだ疲れていないし」
 それに、とスザクは苦笑を浮かべた。
「君に何かあると、絶対ミレイさんに怒られる」
 無理難題をふっかけられるのはごめんだ、と力一杯主張してみた。
「ひがいしゃ?」
「まぁ、そういうことになる、かな?」
 自分だけはないけど、と苦笑とともに付け加える。
 彼女が日本のアッシュフォード学園にいたときはすごかった。生徒会長として周囲を巻き込みつつあれこれとやってくれた。
 その中でも、自分の巻き込まれ率が妙に高かったのはどうしてなのか。
「そのせいで、会長――じゃなくて、ミレイさんがブリタニアに帰ってから静かすぎると先生達までが口にしていたのは笑ったけど」
 それでも、遅れていた授業が追いついたのは事実だ。外部受験組が喜んでいたことも覚えている。
「……どこでも、ミレイはミレイなんだ」
 あきれているのか、感心しているのか。微妙な声音でルルはそう呟く。
「あの人をおとなしくさせられる人って、いるのか?」
 それにスザクは真顔で言い返す。
「……しらない」
 少し考えた後でルルがこう口にした。
「だよね」
 さすがはミレイ、と言うべきか。スザクはそう言うと同時に小さなため息をつく。
 これからいったいどのような騒動が待っているのか。考えるのも怖いのだ。
 だから、ミレイに連絡を取るのだけは避けていたのに、と思う。先ほど呼び出そうとしていた相手からばれるにしても、まだ余裕があるだろうと考えていた。
 それなのに、と再びため息をつく。
「ごめんなさい」
 スザクのそんな態度をどう受け止めたのか。彼はいきなりこう言ってくる。
「別に謝られることはないと思うけど……」
 こんな小さな子に気を遣わせてどうする、と思いながらスザクは言い返す。
「ミレイがかえってきたの、ぼくのせい」
 それに彼はこんな言葉を口にした。
「違うよ。本当にいやならミレイさんは誰が何と言おうと自分の意思を通すから。素直に返ったのは、君が大切だからだよ」
 こんなに小さいのに、どうしてここまで他人に気を遣うのだろうか。自分がルルと同じくらいの年はもっと唯我独尊だったような気がする。
「だから、僕に謝る必要はない。謝るならミレイさんにだね」
 ところで、と話題を変えた。
「あそこで僕たちを見ているのは、君の知り合い?」
 それとも、敵? と問いかける。
「たぶん、ぼくをころしたいひと」
 ぼそっとルルが口にした。
「ルル?」
 今のは聞き間違いだろうか。そう思いながら彼の名を呼ぶ。
「ぼくがいきているのがきにいらないんだって」
 だが、ルルの言葉はスザクの希望をあっさりと打ち砕いてくれた。
 同時に怒りがわいてくる。
 こんな小さな子供に何を言っているのか。
 何よりも、どんな子供だって生まれてきた以上、必要のない存在などではない。生きていてくれるだけでもいいという人間がいるのに、勝手にその命を不要なもの扱いするな。
「そう言うバカなんだ」
 それならばと、スザクは続ける。
「多少けがをしてもらってもいいよね?」
 この言葉にルルは目を丸くした。
「でも……」
「大丈夫。何もしなければ手は出さないよ」
 街中で銃を撃つほどバカではないだろう。だから、襲ってくるとすればナイフかなにかのはずだ。
「それに、こう見えても僕は強いから」
 日本ではの話だが。
「そのあたりはミレイさんに聞いてくれると嬉しいな」
 そのせいであれこれとやばいことにも首をつっこまされたのだ。しかも、本人の意志とは関係なく、彼女の都合で、と付け加える。
「……そうなんだ……」
 ルルはそう言ってため息をつく。
「でも、ミレイならやる……かあさんのわるいところだけみならわなくてもいいのに」
 つまり、ミレイのあの性格はルルのお母さんのそれの影響を受けていると言うことか。
 逆に言えば、それだけ近しい間柄だったのだろう。
「それでも、ミレイさんはルルのお母さんが大好きだったんだよね?」
 その性格をまねたくなるほどに、とスザクは呟く。
「ミレイはかあさんをすきだった」
 ルルはそう言って頷く。
「そのぶん、まわりがこまっている」
「そうだろうね」
 日本にいたときのミレイの様子だけで十分推測できる。
「そういうことだから、いい子で動かないでいてくれるかな?」
 かすり傷でもつけたら絶対100倍返しと言われるに決まっているのだ。ミレイのそれは考えたくない。
「わかった」
 自分が足手まといだとわかっているのだろう。ルルは素直に首を縦に振ってみせる。
 それに微笑み返すと、スザクはさりげなく足元の小石を拾った。
 次の瞬間、それを指ではじく。
 まっすぐに飛んでいったそれは狙いを違わずにこちらに向かってきていた男達に当たる。連中がただの通行人でないことは、手にナイフを持っていたことでもわかった。
「貴様!」
「ナイフを持って近づいてくるなんて、どう考えても友好的だとは思えないからね」
 先手必勝、とスザクは笑う。
「と言うことで、まずは僕と遊んでくれるよね?」
 叔父さん、と付け加えれば、男の一人がむっとしたような表情を作る。
「俺はまだ二十代だ!」
 どうやら、こいつはプロではないらしい。それとも、今回が初仕事なのか。
「バカ!」
 年かさの方がこう言って男をいさめている。
「……まぁ、どうでもいいけど」
 面倒だから、とっとと片付けますか。そう呟くと、スザクは行動を開始した。




14.03.14 up
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