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ぎゅっとしてね

会長合流


「スザク君、これは何?」
 目立たないように放置しておいた男二人を、ミレイはしっかりと見つけてしまった。
「……不審者?」
 とりあえず、スザクはそう言い返す。
「ぼくをねらってきたの」
 さらにルルが口を開いた。
「ルル?」
「ルルちゃん、本当なの?」
 二人の呼び換えにルルは小さく頷いて見せた。
「じゃ、おじいさまに連絡しないと……スザク君、悪いけどもう少し付き合ってね」
「それはかまわないけど……その前に、ホテル探さないと今晩、泊まるところがない」
 ぼそっとそう告げれば、ミレイがあきれたような表情を作る。
「安心しなさい。うちに泊まってもらえばいいだけだし……それについても話を聞かないとだめなようね」
 そもそも、何故、ここにいるのか。それから聞かなければいけないだろう。
 そう言って笑うミレイにスザクは腰が引けてくる。
「別に、それは僕の事情だし……ミレイさんに迷惑をかけるわけには……」
 何とかそう言い返したときだ。服の裾が引かれる。
「ルル?」
「いっしょにかえろ?」
 まっすぐにスザクを見上げると、彼はそう言ってきた。
「……でも、ね」
 確かに、最初は頼ろうかと思っていたけどな。でも、やっぱり顔を見たらやめておいた方が良さそうだ。だから、逃げようと思ったのに、と心の中だけで付け加える。
「うちの事情もあるわけだし……」
 さらに断りの言葉を重ねようとしたときだ。
「……スザク君」
 ミレイが低い声で彼の名を呼ぶ。
「いつまでもだだをこねると実力行使に出るわよ?」
「実力行使?」
「そうね……たとえば、カレンを召喚するとか、街中に指名手配写真を貼るとか……」
 指を折りながら、彼女は思いついたアイディアを口にしていく。
「……おとなしくついていきます」
 今日だけお邪魔すればミレイの好奇心は満足するのではないか。
 自分の新しい部屋は、その後で探せばいい。
 不本意だが、桐原のつてを頼ることになるだろうが。今回のことは桐原のじいさんもかかわっているからかまわないだろう。スザクはそう考える。
「そうそう。ごまかそうとしても無駄だからね」
 にっこりと微笑みながら告げるミレイが怖い。
「ミレイ……」
 ルルの声にミレイは視線を移動する。同時に、その笑みが優しいものになった。
「大丈夫よ、ルルちゃん。ルルちゃんの希望が最優先だから」
 と言うわけで、とミレイは視線をスザクに戻す。
「さっさとこいつらを引き渡しましょう。話はそれからね」
 言葉とともに彼女は鞄から形態を取りだした。そのままどこか――おそらく警察だろう――へと連絡している。
「スザク……さん」
 どんな話をするのだろうか。そう思っていれば、ミレイの声を遮るかのようにルルが呼びかけてくる。
「何?」
「たすけてくれて、ありがとう」
 そう言いながら、ルルはふわりと微笑む。
「当然のことをしただけだから、気にしなくていい」
 ブリタニアの習慣は知らない。だが、自分の常識では正当な理由で困っている子供を助けるのは当然なことである。
「これからは迷子にならないように気を付けろよ」
 その場にしゃがむとこう告げた。
「はい」
 少しはにかんだような笑みとともにルルは頷いて見せる。
「こいつらのことはおじいさまが責任を持ってくれるそうよ。だから、帰りましょう」
 どうやら通話を終えたらしいミレイが口を挟んできた。
「今、車を回してもらうわ」
 その言葉にルルは頷く。
「僕としては、このまま解散してくれた方が嬉しいんですけどね」
 無駄とは思いつつ、スザクはそう言ってみる。
「だぁめ」
「ですよね」
 ため息混じりに言葉を返す。
「じゃ、行くわよ」
 その言葉にタイミングを合わせたかのように一台の車が近づいてきた。
「ほら、乗りなさい」
 ミレイにそう命じられる。その言葉にスザクは渋々と従う。
「スザクもいっしょ」
 しかし、ルルは嬉しいらしい。
「あら。ルルちゃんもスザク君が気に入ったの?」
 ミレイの問いかけに、ルルは頷いて見せる。
「ずっといっしょ?」
 さらに彼はスザクの顔を見上げながら問いかけてきた。
「……それは……」
「これからの話し合い次第だわね」
 ミレイがそう言って笑う。
「大丈夫。ミレイさんに任せておきなさい。絶対に『うん』と言わせてみせるわ」
 それはまずい。
 はっきり言ってまずい。
 最後は実力行使に出るに決まっている。
「……ミレイ会長……僕は遊びに来たわけじゃないんですけど」
 とりあえずそう言っておく。
「一応、アッシュフォード学園に留学と言うことですから、入学式ぐらいは出席させてください」
 スザクはそう付け加える。
「なら、ますます好都合ね」
 ふふふふふ、とミレイは笑いを漏らす。
「楽しみだわ」
 蛇ににらまれた蛙というのはこんな状況のことをいうのだろうか。
 それよりも、どうして自分の周囲にはこんなあくの強い女性が多いのか。
 やはり、女難の相が出ているのかもしれない。そう考えて、小さなため息をついた。




14.03.21 up
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