INDEX

ぎゅっとしてね

事情聴取


 やはりと言うべきか。最終的にはルルに会うまでの事情を白状させられてしまった。
「つまり、寮を契約していたのに、一方的に破棄されたってこと?」
 ミレイの目が微妙に据わっている。
「ですね。もう、他の人が使っていると言われましたよ」
 スザクは仕方がないというように言葉を返した。
「誰だかわかる? その前に、契約の書類よね。見せて」
 ミレイは矢継ぎ早にそう言ってくる。
「……見てもどうにもならないと思うんだけど……」
 そう言いながら、スザクは鞄の中から今日のために用意していた書類を取り出す。それをテーブルの上に奥と同時に、ミレイの指が取り上げた。
「確かにミスはないわね……って、日本校の女史がそんなミスをする訳ないか」
 事務室の主とも言える女性を思い出したのだろう。ミレイはそう呟く。
「ちょっと貸しておいてね」
 明日までに確認させるわ、と彼女は続けた。
「別にそこまでしてもらわなくても……」
「こっちが困るのよ。今後も同じようなことが続けば、うちの評判が下がるわ」
 海外からの留学生を受け入れているのに、一方的に契約を破棄するのは許されないことだ。彼女はそう続ける。
「第一、ブリタニア人の方がアパートを探しやすいのよ? ならば、優先すべきなのは留学生だわ」
 それがアッシュフォードの方針なのに、とため息をつく。
「他にもいろいろあるかもしれないから、確認しないとね」
 そういうことならば当然の行動なのかもしれない。
「あぁ。それと部屋は用意させるわ。だから、安心してくれていいわよ」
 ふっと思い出したようにミレイはこう言う。
「でも、申し訳ないような……」
 やはり逃げよう。心の中でそう呟きながらスザクは言葉を返す。
「ホテルを取って、実家に連絡するから」
 いざとなれば何とかしてくれるはずだ。
「泊まっていきなさい。いいわね!」
 しかし、ミレイは力一杯そう言ってくれる。
「でなければ、あれこれ恥ずかしい写真が流出すると思いなさいね」
 それは脅迫なのだろうか。
「……それは会長にも言えますよ?」
 自分もミレイのちょっと表に出せない写真を持っているが、と言い返す。
「言われてみればそうよね」
 ちっと彼女は舌打ちをする。
「スザク、かえるの?」
 今まで黙って話を聞いていたルルが不意にこう問いかけてきた。
「ぼくといっしょ、いや?」
 さらに彼はこう続ける。
「そう言うわけじゃないけど……」
 困ったな、と心の中だけで呟く。何か、ものすごくなつかれていないだろうか。
「あら、ルルちゃん。スザク君が気に入ったの?」
 ミレイがこう問いかける。それにルルは小さく頷いて見せた。
「スザク、つよいから……ぼくのそばにいても、しなない、とおもう」
 それに、とルルは続けた。 「いっしょにいると、たのしい」
 何か、一部微妙に不穏なセリフがあったような気がするのは気のせいではないだろう。
 それが自分と同じ年代の人間であればまだ納得できる。どこの国でも己の利益のために他人を踏み台にしようとするものがいる。
 しかし、だ。
 まだ十にもならない子供がこんなことを口にするようになるとは、いったいどのような状況に置かれていたのだろうか。
 そんなことを考えながら、スザクはミレイを見つめる。
「……ミレイさんと一緒でも楽しいんじゃないの?」
 そのままこう告げた。
「ミレイもたのしいけど……つかれる」
 ルルの言葉に納得できてしまうのは、同じような経験をしているからだろう。
「ひどいわ、ルルちゃん」
 わざとらしいくらい大げさにミレイは嘆いてみせる。
「だって、ほんとうだもん」
 だが、ルルも負けてはいない。しかし、スザクの腕に抱きついてくるあたり、自分だけでは勝てないと思っているのだろうか。
「……お子様相手に全力ですか……ルルが疲れても仕方がないでしょう」
 スザクはそう告げる。
「会長の体力は、アスリートのそれです!」
「でも、スザク君には負けるわよ?」
「当たり前です。僕は毎日鍛錬しています」
 そうなれば、男性の方が女性よりも体力的に有利なのは当然だろう。
「……そう言うなら、スザク君がルルちゃんの相手をしてあげてね」
 いいわね、とミレイはスザクの鼻先に指を突きつけてくる。
「あぁ、それと、もう一つ言っておかないと」
「何ですか?」
 まだ言い足りないことがあるのか。そう思いながら聞き返す。
「ルルちゃんは愛称。正式な名前はルルーシュ君だから」
「ルルーシュ?」
 そうなの、と本人に確認する。それに本人は小さく首を縦に振って見せた。 「でも、ルルはルルなの」
 胸を張ってルル――ルルーシュはそう言う。
「小さいからかな?」
 そういえば、小さい子は自分のことを名前で呼ぶし、とスザクは心の中だけで呟く。
「ルルはちいさくないの。もうさんさいだもん」
「もう三歳なのか。すごいな」
 自分が三歳の頃よりも言動がしっかりしている。あんな場面でパニックを起こさなかっただけでも十二分にほめられるべきだと思ってこう言い返す。
「……でも、おにいさんになれなかったの……」
 ふっと思い出したというようにルルーシュはそう告げる。
「じゃ、よろしくね。詳しいことは後で
 後半は自分だけに向けられたものなのだろう。日本語で綴られた言葉に、スザクは渋々頷く。
 そして、そのまま出て行くミレイを黙って見送った。
「これからどうしようか……と言っても、あまり暴れられないけど」
 かといって、トランプのようなカードもなさそうだし……と周囲を見回しながら呟く。
「おはなし」
「ん?」
「おはなし、して? にっぽんの」
 ミレイの話ではわからないことがあるから、とルルーシュは続けた。
「いいよ」
 確かにそうだろうな、とスザクは心の中で呟く。
「まずは何から話そうか」
 この問いかけに、ルルーシュが考え込むように首をかしげた。




14.03.31 up
INDEX
Copyright (c) 2014 All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-