ぎゅっとしてね
お休みなさい〜おはようございます
自分がこんなに好かれているのはどうしてなのか。
「まさか、お風呂まで一緒に入りたがるとは……」
それはかまわない。だが、あれこれと大変だったのも否定できない事実だ。
そんな彼も、今は疲れてスザクのベッドで眠っている。
「よっぽど寂しかったのかな?」
この屋敷にいる人は多い。だが、ミレイやルルーシュの面倒を見てくれているのは女性だけなのだ。
小さくても男の子であるルルーシュにしてみれば、そばにいてくれる男性が珍しいのだろう。
「……そう言えば、ルルーシュのご両親って、ミレイさんの知り合いなんだよね?」
ただ一人、ここに預けられていると言うことは、何か複雑な理由があるのではないか。
「まぁ、僕よりもあほな理由はないと思うけど」
日本を出る原因になったことを思い出しながらそう呟く。
本当なら、あのまま日本で進級していただろう。そうしていれば、こんな厄介な状況にならなかったはずだ。
今から通学しやすくて安い部屋が見つかるだろうか。
「家にメールしておかないと」
あの父が読むとは限らないが、とスザクは心の中だけで付け加えた。だが、父の秘書か家令かが読むだろう。そして、必要な手配をしてくれるはずだ。
「ついでに桐原のじいさんかな」
自分の父よりもこういうときには頼りになる老人――というよりはただの古狸か――にも連絡をしておこう、と付け加えた。
「でも、全部明日でいいかな?」
今日はいろいろありすぎて疲れた、とため息をつく。
ここであることに気づいた。
「そういえば、僕はどこで寝ればいいんだ?」
今更ながら、その事実に気づく。
「ルルーシュはお子様だし、小さいから一緒に寝てもいいんだけどね」
問題はベッドに潜り込むときに起こさないかどうかだ。
「その時はその時だよね」
きっとルルーシュの部屋は他にあるのだろう。だから、起きたらそっちに連れて行けばいいのではないか。
うん、そうしよう。そう決めるとスザクはさっさと布団の中に潜り込む。もちろん、極力ルルーシュを起こさないように気を付けて、だ。
よほど深く眠っているのか。スザクが眠る体勢を整えてもルルーシュは起きる気配がない。
その事実にほっとしながらスザクは目を閉じた。
だが、すぐにそれは開かれる。
「いつの間に……」
拳二つ分は空いていたはずの距離はすでになく、腕にルルーシュが抱きついていたのだ。
「やっぱり寂しかったのかな?」
それならばそれでいいけど、と呟く。そして今度こそ目を閉じた。
どんな時間に眠ろうとも、朝5時には必ず目が覚める。
それは十数年かけて身についた習慣だろう。
しかし、それを今日ほど感謝したことはなかった。
「ほら、ルルーシュ! トイレだよ」
言葉とともに抱えていた小さな体を下ろす。もちろん、すでにパジャマと下着は脱がせてある。
次の瞬間、水音が耳に届く。どうやら、本当に限界だったらしい、とスザクは心の中で呟く。
その後に、ルルーシュが男の子でよかった。小さいけれど付いている、と続けた。
それだけで罪悪感が減るのはどうしてだろうか。
「でたの」
だが、こう言われると何故かどきっとしてしまう。
「よかったね、間に合って」
「……ごめんなさい」
「謝ることないよ。ちゃんと教えてくれたからね」
言葉とともにひょいっと彼の体を持ち上げる。そのままベッドまでの距離を大股で進んだ。
「と言うことで、パンツとズボンをはいて、もう一回寝る?」
それとも起きるか、と問いかける。
「スザク、さんは?」
「僕は起きるよ。鍛錬をしておかないといけないから」
ルルーシュの問いかけにスザクはそう言い返す。
「みててもいい?」
やはり男の子だからだろうか。彼は即座にこう言ってきた。
「いいけど、あまりおもしろくないと思うよ」
最初はストレッチぐらいだ。派手な動きはないと言っていい。
「でも、みたい」
もう一度ルルーシュは訴えてくる。
「じゃ、眠くなったら遠慮なく寝るんだよ?」
スザクの言葉にルルーシュは小さく頷いて見せた。
後は本人次第だろう。
そう判断すると、スザクはテーブルや椅子を壁の方に寄せる。ある程度の広さが確保できたところでストレッチを開始した。
飛行機での移動で二日ほどまともに動いていないせいか、微妙に体が硬いような気がする。
これは徐々に戻していくしかないんだろうな。
スザクがそう考えながら体を起こしたときだ。
「ルルーシュ?」
彼の視線を受けたお子様がそこで凍り付いていたのだ。
「どうかしたの?」
そう問いかけるも、彼は小さく首を横に振っている。しかし、だ。どう見ても何かをしようとしていたとしか思えない。
「ひょっとして、やってみたい?」
ふっと思いついて、スザクは問いかけてみた。
「むずかしくない?」
おずおずとルルーシュが聞き返してくる。
「ストレッチ事態は難しくないよ。ただ、続けないと効果がないだけ」
ついでに言えば、これで体力が付くわけではない。
「……うんどうにがてでも、できる?」
しかし、この質問は予想していなかった。
「出来るよ。これは準備運動だから」
とりあえず事実だけを口にする。
「おしえて?」
それでもいいから、とルルーシュは訴えてきた。
「じゃ、簡単なのからね」
これだけではなく、いっそラジオ体操も教えてみようか。あれならば、音楽があれば一人でも出来るだろう。そして、自分はそれを持っているし。
でも、それはミレイと相談してからにしよう。
「じゃ。僕のまねをしてね」
そう言いながら、スザクはストレッチを再開した。
14.04.18 up