ぎゅっとしてね
上目遣い
朝から元気に食事をしているルルーシュは微笑ましい。だが、そんな彼の様子をミレイ達は驚いたような表情で見つめている。
「……どうかしたのですか?」
何かまずいことでもしてしまったのだろうか。そう思いながらスザクは問いかける。
「ルルちゃんが朝ご飯を食べてる」
それは驚くことなのだろうか。
「誰だって、朝ご飯ぐらいは食べるでしょう?」
それともこの子なりの特別な事情が絡んでいるのだろうか。そう思いながら問いかける。
「……ルルちゃん、食が細いから」
ミレイが微妙な声音でそう言う。おそらく、それだだケではないのだろう、とスザクは判断した。
しかし、それを本人の前では聞くことは出来ない。
「運動しなかったから、あまりおなかがすかなかったんじゃないかと思いますよ。今朝は一緒にラジオ体操したし」
ね、とスザクはルルーシュに声をかける。そうすれば、彼は小さく首を縦に振って見せた。
「朝、起きてすぐは食欲がわからないものでしょう?」
さらにそう付け加える。
「あぁ、その可能性はあるわね。ルルちゃん、ねぼすけだから」
納得、とミレイは頷く。
「少し早めに起きて体を動かせば、ご飯も食べられるようになりますよ」
多分、とスザクは続ける。
「と言っても、起こす人間が必要かもしれませんが」
今日は自分が起きたからルルーシュも起きたようだし、と付け加えた。
「それが問題なのよね」
苦笑を浮かべながらミレイはルルーシュの隣に座る。
「ルルちゃん、警戒心が強いのよ」
そして、ため息とともにそう告げた。
「誰かと一緒に寝るなんて無理だし」
「そうなんですか?」
その言葉にスザクが驚いたように言い返す。
「夕べ、一緒に寝ましたよ?」
さらにそう続けた。
「嘘!」
ミレイは目を丸くするとそう言う。
「本当ですよ。ね」
ルルーシュに確認を求めれば彼は小さく首を縦に振って見せた。
「ルルちゃん、大丈夫だったの?」
信じられないという口調でミレイはさらに問いかけの言葉を口にした。
「ぐっすりねられた」
そうすれば、ルルーシュは口の中のものを飲み込んでから言葉を返している。やっぱりきちんとしつけられているんだ、とスザクは思う。
「スザクさんは、ぜったいにぼくをきずつけないとおもう」
ルルーシュはそう言いきった。
「それに……スザクさんはかあさんとおなじできしだから」
ただ、この言葉の意味がわからない。
「騎士って……僕はただの学生だけど?」
「多分、基本的にスザク君は『守る』と言う約束は守ってくれるという意味だと思うけど……」
ミレイはそう言う。
「自分よりも弱いものを守るのは当然でしょう?」
ブリタニアでは違うのだろうか。そう考えながらスザクは聞き返す。
「……ルルちゃんの場合、特別だから」
ため息混じりにミレイは言葉を口にする。
「僕は知らない方がいいことですね、それは」
スザクはそう告げた。
「いつかは話せるようになると思うけどね」
「……ごめんなさい」
ミレイの後にルルーシュがそう続ける。
「気にしなくていいよ。ブリタニアなりの事情もあるだろうし」
そのあたりのことは自分にはわからない。だから、とスザクは微笑む。
それに、と心の中で付け加える。
ルルーシュと一緒にいるのはここ数日だけだろう。それ以降は別の場所に引っ越すことになるはずだ。
その間になにをしてあげられるかはわからない。多分、そばにいることぐらいしか出来ないだろうが。
「……スザクさん?」
黙ってしまったスザクの顔を覗き込みながらルルーシュが問いかけてきた。
「ごめん。ちょっと考え事」
即座にそう言い返す。
「寮がだめならどこに住もうかなって。ここだと、あれこれと言われそうだしね」
ごまかすようにそう続けた。
「それよ、それ!」
むかつくわ、とミレイがいきなり沸騰する。
「あのバカ、勝手に書類改ざんしたり廃棄していたらしいのよ。今、おじいさまがぶち切れているわ」
よくて自主退職。いいわけ次第では懲戒免職になるだろう。彼女はそう続けた。
「スザク君の留学に関しては、最高レベルの応対をすることになっていたのよ。書類にもしっかりとそう書かれていたわ」
アッシュフォード学園の本校が成績優秀者を呼び寄せる枠に入っていたのだ。彼女はそう続けた。
「でも、寮の部屋は開けられそうにないのよ」
あちらの学生はすでに入寮している。それを追い出すわけにはいかないのだろう。
「……仕方がないですね。やはり、自力でアパートでも探すしかないわけですか」
出費が痛いな、と心の中だけで付け加える。
「そのことなんだけどね。条件付きで寮の費用レベルでうちの別宅というかマンションの一室を貸してもいいんだけど」
ミレイが不意にこんなことを言ってきた。
「ミレイさん?」
「掃除洗濯に関しては、うちからメイドを通わせるし」
さらに彼女はそう付け加える。
「そこまでしてもらわなくても……」
部屋さえあれば、身の回りのことは自分で出来るだろう。むしろ、自分の部屋に他人に入り込まれる方が辛い。
それに、とスザクは彼女を見つめた。
「会長の出す『条件』はいつも厄介ですから」
「ひどいわね。そんなことはないわよ」
即座に彼女はそう言い返してくる。
「……スザクさんがただしい」
しかし、応援は予想外の所から飛んできた。
「ルルちゃん、ひどいわ! せっかく、スザク君にルルちゃんと暮らして欲しいって頼もうと思っていたのに」
「ちょっと! 何でそういうことに……」
予想外のセリフにスザクは慌てて問いかける。
「ルルちゃんがなついているから。昼間はちゃんとうちで面倒を見るから」
お願い、とミレイは微笑む。
「……でも……僕、子供の世話なんてしたことがないですよ?」
「だから、うちから専門家を行かせるわ。ルルちゃんもその方がいいでしょう?」
ミレイがルルーシュを味方にしようと問いかけている。それにルルーシュも頷いて見せたから問題だ。
「だめ?」
その上、上目遣いで見つめてくるのだ、彼は。
まるで捨て猫がすがりついてくるようなその表情にいつまで対抗できるだろうか。スザクは冷や汗を流しながらそんなことを考えていた。
スザクが白旗を揚げるまで三十分とかからなかった。
14.05.15 up