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ぎゅっとしてね

鬼ごっこ


「ルルちゃんも来ているならいいじゃない!」
 ミレイがそう言ってだだをこねる。
「却下です」
 即座にスザクはそう言い返す。
「……おうちにかえるよ?」
 ルルーシュがそう言ってスザクの手を握りしめる。そのまま彼の手を引くようにした。
「ルルーシュもこう言っていますので、帰ります」
 言葉とともにスザクはルルーシュの体を抱き上げる。
「スザクさん?」
「しっかり捕まっていてね」
 ルルーシュに向かってこうささやく。そのままスザクは駆け出した。
「スザク君!」
 ミレイが彼の背中に向かって声を投げつけてくる。
「そう簡単に逃げられると思わないでよ!」
 やはり自分の行動を予想していたのか。もっとも、朝も似たようなことをしていたのだから当然だろう。
「逃げ切って見せます!」
 言葉とともにルルーシュを抱え直す。
「……おりるから……」
 このままでは自分達が不利だと考えたのだろうか。ルルーシュが腕の中からこう言ってくる。
「大丈夫。ルルーシュを抱っこしていても余裕があるから。それよりも口を開くと舌をかむよ」
 実際、日本にいたときにやった鍛錬の方がきつかった。二十キロの荷物を抱えて現役軍人と鬼ごっこだったし、と心の中で呟く。
「とりあえず、敷地内から出れば勝ちかな」
 さすがに公道で大暴れするようなことはないだろう。
「ミレイもそうかんがえてる?」
「多分ね。だから、門はすでに固められている」
 一人ならば強行突破も出来るだろう。しかし、ルルーシュの安全を考えれば、それは選択肢から外すべきだ。
「まぁ、あのくらいの塀なら乗り越えられるし」
 幸いなことに、周囲には木も植えられてる。あれらを足がかりに出来るから問題はない。
「スザクさん、すごひ!」
 どうやら最後に舌をかんだようだ。
「口を閉じておけと言ったでしょう?」
 小さくもだえているルルーシュに向かってスザクはそう言う。
「これからもっと振動が伝わるからね。絶対、口を閉じておくこと。いいね?」
 この言葉にルルーシュは素直に首を縦に振ってみせる。
「じゃ、本気出すか」
 どこの塀を乗り越えるのが一番いいだろうか。
 そう考えながら周囲を見回す。
「……ミレイさん、どれだけの人数を動かしているんだよ」
 視線の先にこちらに向かってくる生徒を確認してスザクはそう呟く。
 制服だけではなくジャージも数種類確認できることから判断して、運動部を全部動員しているらしい。
 日本にいたときの彼女の言動から判断して部費の増額を餌にしているのではないか。
 本気で捕まえに来るだろうな、とスザクは思う。
 でも、と小さな笑みを浮かべる。
「まだ甘いよね」
 あのくらいで自分を止められると思っているあたり、と目の前のメンバーの布陣を確認しながら呟く。
「ちょっとアクロバットするからね。しっかり捕まってて」
 そう言えば、ルルーシュの腕に力がこもる。
 それを確認して、スザクは目の前の木の枝に向かってジャンプした。
 片手で枝に捕まると大車輪の要領で体を半回転させる。
 そのまま枝の上に着地した。
「大丈夫?」
 腕の中のルルーシュにスザクは問いかける。
「うん。すごくおもしろかった」
 しかし、こう返されてはどう反応すればいいのかがわからない。
「そう。よかったね」
 苦笑とともにこういうのが精一杯だ。
「かあさんも、よく、やってくれたの」
 だが、さらに続けられた言葉の衝撃はそれ以上に大きかった。
「……ルルーシュのお母さんって、何者?」
 普通の母親は子連れでこんなことをしないと思うのだが、と心の中だけで呟く。
「まぁ、いいや。詳しいことは後で聞くとして……もう少しアクロバットするからね」
「はい」
 言葉とともにルルーシュはまた首にしがみついて来た。
 視線を下に向ければ、そろそろ運動部と思われる面々が木に登り始めている。
 それを尻目に隣の木の枝へと飛び移った。
 何度かそれを繰り返して塀のそばまで移動する。
「……さて、と……ここから先は両手を使いたいから……どうしようかな」
 ルルーシュを抱えても飛べない距離ではないが、万が一を考えれば安全策を採りたい。
「ルルーシュ。背中に抱きついてくれる?」
 後は制服の上着でしっかりと彼の体を縛り付けておけば大丈夫だろう。そう判断する。
「それでしたら、これをお使いください」
 その時だ。いきなり脇から咲世子さんの声が聞こえてきた。
「咲世子さん?」
 慌てて視線を向ければ、いつものメイド服姿の彼女がいる。
「申し訳ありません。大旦那様と打ち合わせをするために席を外しておりました」
 そう言って咲世子は頭を下げた。
「気にしなくていいよ。普通、ここまでするとは思わないから」
 ミレイが悪のりしすぎなのだ、とスザクは言い返す。
「でも、咲世子さんが来てくれたなら安心かな」
 普通のメイドでは木登りは無理だと思うが、彼女なら出来て当たり前と思えるのは何故だろう。
「と言うことで、ルルーシュ。おんぶね」
 そう言いながらスザクはルルーシュの体を一端下ろす。そのまま背中に抱きついてきた体を動きやすい位置に移動させると、咲世子が渡してくれた紐で結ぶ。
「口はしっかりと閉じているんだよ」
 もう一度注意をするとスザクは軽く膝を曲げる。そして、そのまま枝の先端へと向かって走った。
「ちょっと、なにをしているの!」
 ミレイの声が耳に届く。
 だが、その時にはもう、枝のしなりを利用して壁に向けてジャンプしていた。
 上の部分を両手で捕まると同時に壁を蹴る。
 そのまま壁を乗り越えた。
 アスファルトの上に着地をすると耳元でほっと息が吐き出される。
「スザクさん、すごい!」
 ルルーシュがこう言って笑う。
「出来れば、次はないと嬉しいんだけどね」
 スザクはそう言ってため息をつく。
「大旦那様にお願いをしておきましょう」
 ふわりと着地をした咲世子が何でもないかのようにそう言ってくる。
「お願いします」
 申し訳ないがルーベンに丸投げするのが一番ではないか。スザクもそう判断して頷く。同時に、背中のルルーシュを下ろすために紐をほどき始める。
「でも、たのしかった。かあさんがいきてたときみたい」
「……ルルーシュのお母さんって、本当に何者?」
 彼の言葉にスザクはこう呟くしかなかった。




14.06.27 up
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