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ぎゅっとしてね

隠れ家


 それからすぐ、三人が引っ越したのはルーベンが母から相続したという小さな家だった。
「ここはミレイもしらん。多分、大丈夫だろう」
 スザクとルルーシュを案内してくれたルーベンがそう言う。
「前のマンションも、偽装のために残しておこう。手紙や書類は篠崎さんに取りに行ってもらえばいい」
 さらに彼はこう付け加えた。
「申し訳ありません」
 スザクはそう言って頭を下げる。
「君が謝ることではないよ。迷惑をかけているのはこちらの方だ」
 寮のことから始まって、とルーベンは言外に臭わせた。
「それは終わったことですし……ルルーシュはもう家族ですしね」
 そう言いながら、腕の中にいる彼の顔を覗き込む。
「……おこってない?」
 そうすれば、ルルーシュがこう問いかけてくる。
「どうしてルルーシュを怒らなければいけないの?」
 スザクは真顔でそう聞き返す。
「君のお姉さんに対してなら話は別だけど」
 ルルーシュ個人にどのような事情があって彼女達と離れて暮らすことになったのか、実の父親から接触禁止を言い渡されたのかはわからない。そして、それに関してはルルーシュの都合だから聞きたいとも思わない。
 だが、なんの約束もなく人の部屋に押しかけてきて、他人が従うのが当然という態度を取られたのは気に入らない。
「でも、あの人はもう、ルルーシュとは関わり合いのない人、なんでしょう?」
「……そういわれた」
 やはり本人は納得できていないのか。ルルーシュのその態度からスザクはそう判断する。
「大きくなったら状況が変わるかもしれないよ。だから、今は近づかないようにすればいい」
 だから、自分で我慢してね。そう付け加えた。
「……スザクさんとさよこさんがそばにいてくれるなら、それでいい」
 ルルーシュはそう言いながら首に抱きついてくる。
「ルーベンにもあいたい。でも、ミレイはしばらくいい」
 そのまま彼はこう言った。
「確かに。ミレイさんが来るとばれるよね」
 ルルーシュが言いたいのはきっと違うことなのだろう。それがわかっていても、スザクはあえてこう口にした。
「大丈夫。つけられてもちゃんとまいてくるから」
 自分の身体能力なら難しくはない。言外にそうに追わせる。
「そうだね」
 この前の追いかけっこのことを思い出したのか。ルルーシュはこう言って頷く。
「と言うところで、中に入ろう?」
 ね、と声をかけた。
「うん」
 小さいながらもしっかりと返事を返してくれたことに安心して視線をルーベンへと向ける。そうすれば、彼がドアを開けてくれた。
「お待ちしておりました」
 メイドの鏡とも言える咲世子が即座に三人を出迎えてくれる。
「お茶の用意が整っております」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「だって、ルルーシュ。まずはお茶にしよう」
 家の中の探検はその後で、だね。そう続ける。
「プリン、ある?」
 咲世子に視線を向けるとルルーシュはこう問いかけた。
「もちろん、用意させていただいております」
 彼女がこう答えた瞬間、ルルーシュの表情が明るくなる。本当にプリンが大好きなのだ、とその表情から伝わってくる。
「よかったですな、ルルーシュさま」
 ルーベンも明るい声音を作りながら頷いて見せた。
「私の分もあるのかな?」
 さらに彼は咲世子にこう問いかける。
「もちろんです、大旦那様」
 にっこりと微笑むと咲世子は言葉を返してきた。
「スザクさんにはプリンではなくスコーンを用意させていただきました」
「ありがとうございます」
 本当に彼女はスーパーメイドだ。スザクは心の中で呟く。
「ルルーシュ、下りる?」
 そのまま視線を腕の中の子供へと向けた。
「このままがいいなら、それでもいいけど」
 そう続ければ、彼は考えるかのように首をかしげる。
「あるく。でも、てはつないでくれる?」
 そして、こう聞いてきた。
「もちろんだよ」
 そのくらい頼まれればすぐにやるのに。そう思いながらルルーシュをそっと地面に下ろす。そのまま手を差し出せば、彼が小さな手でしっかりと握りかえしてきた。
「本当に仲がいいですな」
 ルーベンがどこか嬉しそうにそう呟く。
「スザクさん、やさしい」
「ルルーシュがいい子ですから」
 お互いにこう言い合った後でスザクは微笑む。
「もうちょっとわがままを言ってくれてもいいかな、と思うときはありますけど」
 ついでにもう少し運動しないと、と付け加えればルルーシュが視線を彷徨わせる。自分がいないときには本ばかり読んでいるらしいと聞いていたが、どうやら本当のようだ。
「まぁ、ここなら今までより庭が広いですから、ボール遊びも出来るんじゃないかな?」
 付き合うから、と付け加えればルルーシュは渋々と言った様子で頷いて見せる。
「体力つけないと、追いかけっこですぐに捕まるよ?」
 ミレイは女性とは思えないくらい体力があるのだ。あの体力で追いかけられては、ルルーシュはすぐに捕まってしまうだろう。
「後は隠れかたかな」
 自分が小さな頃に教わったことを思い出しながらスザクはそう言う。
 もっとも、自分の場合、すぐに反撃方法へとランクアップしたが。
「かくれんぼは楽しいと思うよ」
「スザクさんと?」
「咲世子さんにも付き合ってもらおうか」
「手が空いているときならば、いつでもおつきあいさせていただきます」
 スザクの言葉に咲世子が即座に頷いて見せる。
「そうなると、やっぱり、生徒会の仕事はパスかな」
 ミレイの無茶ぶりからどうやって逃げようか。スザクはそう呟く。
「……すまないな」
 ルーベンがそう声をかけてくる。
「まぁ、ミレイさんですから。最初からあきらめています」
 いろいろと、と付け加えたところでリビングについた。
「……広いですね」
 ダイニングも兼ねているのだろう。ドアの向こうにキッチンも確認できる。
「隠居用の家だからね。最低限の設備でいいと思ったそうだよ」
 親しい人間しか訪ねてこない予定で作られたのだとか。しかし、今はそれがありがたい。
「ここに落ち着けられればいいですね」
 スザクが小さな声でそう呟く。
「それに関しては任せておいてもらおう。今、手を回しているところだ」
 誰からも手出しが出来ないように、とルーベンが言う。
「ただ……ミレイは無理かもしれん」
 しかし、ぼそりと付け加えられた言葉にスザクは頭を抱えたくなる。
 それが一番厄介なのではないか。
「……いつまで逃げ切れるかな」
 真顔でそう呟くしかスザクには出来ない。
「スザクさん、がんばれ」
 ルルーシュの応援に頷くのが精一杯だった。




14.07.26 up
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