ぎゅっとしてね
ピクニック―当日編―
「やっぱり来ましたか……」
目の前で仁王立ちしている相手に向かってスザクはそう言う。
「当たり前でしょう! みんなでルルちゃんを隠して……」
即座にミレイが言い返して来る。
「隠してませんよ。ルルーシュの安全を最優先にしただけです」
スザクは極力冷静な声音でそう言い返す。
「ルーベンさんもそう判断したからこそ、協力してくれていたと思いますが?」
言葉とともにスザクはミレイの斜め後ろにいる相手へと視線を移した。
「そういうことだ、ミレイ」
そうすればルーベンは静かに同意の言葉を口にしてくれる。
「お前が彼らの現在の家について何も言わないと言うからつれて来たが……そう言う態度なら帰りなさい」
さらに厳しい声音で彼はこう続けた。
「おじいさま……」
「ルーベン」
それにミレイだけではなくルルーシュもショックを受けたらしい。
「あの方々が動いている。お前の後を気づかれずにつけさせるぐらい簡単だろう」
だが、ルーベンのこの言葉を耳にした瞬間、ルルーシュがスザクの足に抱きついてきた。
「大丈夫だよ。僕がここにいるでしょう?」
そう言いながらスザクは彼の体を抱き上げる。
「……こういうことだ。お前の言動があの方々の目をひくことはわかっているだろう」
ここまで言われればミレイも引き下がらざるを得なかったらしい。
「……今回は、あきらめます……」
それでもこう言ってくるあたり、まだまだあきらめていないと言うことか。要注意だな、とスザクは心の中だけで付け加える。
「じゃ、とりあえずシートを敷こうか」
しかし、それについては後で考えればいい。今はそれよりもルルーシュを喜ばせる方が先決だ。そう判断をしてスザクは言葉を口にする。
「お弁当も食べないとね」
そう続ければ、ルルーシュは小さく頷く。
「たこさんウィンナー」
だが、この単語が今、彼の唇から出るとは思わなかった。
「たこさんウインナァ?」
ミレイが微妙な表情とともに聞き返してくる。
「ちゃんと咲世子さんが作ってくれているよ」
「はい。他にもチューリップやかにも用意させていただいております」
スザクの言葉を裏付けるかのように咲世子も口を開く。
「だからがんばろうか」
そう言えば、ルルーシュが頷いて見せる。
「下ろすよ」
言葉とともにスザクはルルーシュの体を再び地面の上へと立たせた。
「で、どこにシートを敷くのがいいと思う?」
選択権を与えられたルルーシュが周囲を見回す。そして芝生の端の方に植えられている木の根元を指さした。
「あそこ?」
スザクが確認するように問いかければ、ルルーシュは小さく頷いて見せる。
「じゃ、そうしよう。いいですよね?」
ミレイ達に視線を向けた。
「いいんじゃない?」
「十分だろう」
二人も賛成してくれたのを確認して、スザクはルルーシュに手を差し出す。手をつなぐと、二人は並んで歩き出した。
お昼にはまだ早い。ミレイがそう言うと同時にルルーシュを追いかけ回し始める。
「……ミレイさん、本気だよ」
ルルーシュの体力を考えていないのではないか。そんな不安がわき上がってくる。
「あのままだとルルーシュさまが倒れかねません」
咲世子も不安そうに口を開いた。
「すまないが、今のあれは止められん」
ルーベンがこう言ってため息をつく。
「仕方がないですね」
言葉とともにスザクは立ち上がる。そして、足早にルルーシュへと歩み寄った。
「スザクさん……」
泣きそうな表情でルルーシュがすがりついてくる。その体をスザクは軽々と抱き上げた。
「ちょっと、スザク君!」
「ルルーシュの体力が限界です」
ミレイの言葉をこう言って遮る。
「水分補給させないと、倒れますよ?」
さらに言葉を重ねたことで、ミレイはようやくルルーシュの様子に気づいたらしい。
「……ルルちゃん不足にさせられたのが悪いのよ」
それでも彼女は謝らなかった。代わりにこう言ってくる。
「ミレイさん……ルルーシュはおもちゃじゃないですからね?」
ため息とともに言葉を投げ返す。
「わかっているけど……困り顔が可愛いんだもの」
そう言えば、ミレイはそう言うところがあった。その被害を現在一身に受けているのはリヴァルらしい。
それに関しては個人の好みだからどうこう言えない。
でも、お子様相手には自重して欲しかったと思う。
「ルルーシュは笑っている顔が一番可愛いですよ」
そう言うと体の向きを変える。そして、咲世子達が待っている場所へと歩き始めた。
「……ミレイとあそぶと、すごくねむくなるの。つぎのひ、からだもいたいし」
その間にルルーシュがこう教えてくれる。
「そういったら、咲世子さんがたすけてくれるようになったんだよ」
さすがは咲世子さん、としか言いようがない。同時にミレイにはあきれたくなる。
「たのしいけど、はんぶんでいいとおもう」
いや、三分の一でもいいのではないか。そう思いながら視線をミレイに向けた。
「だそうですよ」
そう言えば、彼女は初めてばつの悪そうな表情を浮かべる。
「その点を気を付けていただけるなら、また、ルルーシュとお出かけできる機会を作りますけど?」
さりげなく付け加えたセリフにミレイが食いつかないはずがない。
「わかったわ。妥協しましょう」
即座に彼女はそう言ってくる。
「あぁ。僕らの隙を突いて、と言うのは無理ですからね?」
「……もちろん、わかっているわよ」
その間は何なのか。そう言いたくなったのは自分だけではないだろうとスザクは思う。
仕方がない。咲世子の負担を増やすかもしれないがミレイに暴走されるよりもマシだろう。
「ルルーシュさま。まずは手をおふきになってください」
咲世子も同じ結論に至ったのか。さりげなく話題を変えてくる。
「お弁当を食べましょう」
さらにルーベンもだ。
「たこさんが待っているよ」
スザクがそう言えば、
「たこさんウィンナー!」
ルルーシュはこう言って笑う。
「楽しみだね」
スザクもそう言って笑い返した。
遊び疲れたのか。ルルーシュはスザクの背中で寝息を立てている。
「咲世子さん」
それを確認しながらスザクは咲世子に声をかけた。
「十人ほどでしょうか」
それに彼女はこんな言葉を返してくる。
「まける?」
「お任せくだい」
誰の手のものかはわからない。だが、自分達の平穏な生活を壊そうとしている者がいるのであれば容赦しない。
そんなことを考えながら、スザクは地面を蹴った。
14.09.27 up