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ぎゅっとしてね

ミレイ再び



「ルルちゃんに会いたい!」
 ため息とともにミレイがこう呟いている。
 そのままスザクへ視線を向けた。そう認識した瞬間、鼻先に指を突きつけられる。
「何とかしなさい」
 この言葉にスザクは苦笑を浮かべた。
「何とかと言われても……」
 こればかりはなぁ、と心の中ではき出す。
「ミレイさんがあれこれ企画を立てるから、土日も暇がないんでしょうが」
 言外に『自業自得だろう』と告げた。
「それはそれ、これはこれでしょう!」
 しかし、ミレイはあきらめる様子を見せない。
「同じです! 僕だって、朝だけしかルルーシュと話しができないんですよ? 全部ミレイさんのせいだと言ってありますからね」
 そのうち、ルルーシュが『ミレイなんて嫌い』と言い出しかねないな。そう心の中だけで付け加えたつもりだった。だが、しっかりと口に出ていたらしい。
「それは却下!」
 間髪入れずにミレイは言い返して来る。
「でも、このままだと危ないですよ?」
 負けじとスザクは言い返す。
「僕が遅いのはミレイさんに振り回されているせいだとルルーシュも知っていますからね」
 さらに言葉を重ねる。
「何でそんなことを言うのよ!」
「僕じゃなくて、この前、ルルーシュの顔を見に来たルーベンさんが教えたそうです」
「おじいさまが……」
 声は予想外だったのか。ミレイが小さな声で呟いている。
「そう言うわけですから。ミレイさんがどれかをあきらめない限りは無理ですね。出かける準備が出来ません」
 このセリフにリヴァル達が興味津々といった様子で視線を向けて来た。彼らが何を期待しているのか、わからない人間は一人を除いてここにはいない。
「なら、貴方たちの家に……」
「それは出来ません、と前にも言いましたよね?」
 絶対だめです、と続ける。
「何でよ!」
「場所を教えたら入り浸るでしょう? そうなれば、他の方々にもばれます」
 言外にコーネリアのことを臭わせれば、ミレイは悔しげに唇をかむ。
「ミレイちゃんは猪突猛進だから」
 ニーナがぼそっとそう呟く。
「……ニーナ……」
 ミレイが不満そうに彼女の名を呼んだ。
「でも、確かに今回はキャパオーバーですよ、会長」
 シャーリーがため息とともに口を開く。
「リヴァルは既に死にかけています」
 さらに彼女はそう続けた。
「使いっ走りさせられてるからねぇ」
「しかも、喜んで」
「まぁ、リヴァルだし」
 思わず話題の主を除いた同級生組で納得し合う。
「ミレイちゃんもわかっててやってるし」
 ニーナがあきれたような視線をミレイへと向けた。
「問題はそれを受け入れるリヴァルかもね」
 困ったものだ、とスザクは呟く。
 おそらく、全てはルルーシュに会えない鬱憤なのだろう。ならば、正攻法でルーベンを攻略すればいいのだ。そうすれば、少なくとも彼の立ち会いの下で顔を会わせることが可能だろう。
 だが、ミレイはそれを不満だと思っているらしい。スザクに直接ぶつかってくるのもそのせいだとわかっている。
 しかし、それを受け入れるわけにはいかない。
 他の者達は気づいていないかもしれないが、ここ最近になって、また、学園の周りで不審者を見かけるようになった。そして、その中の数人はスザクの後をつけてきている。
 間違いなく、ルルーシュの居場所をつかもうとしているのだろう。
 それをこの場で口にしていいものかどうか。説明すれば早いとはわかっていても第三者がいる場ではためらわれる。
「リヴァルって下僕体質よね」
「……シャーリー……」
 流石にこれは聞き流せなかったのか。リヴァルが泣きそうな瞳を向けてくる。
「それに関しては誰も否定してくれないと思うよ」
 スザクもそう言って頷く。
「ミレイちゃんの言葉に喜々として従っている姿を見ているから」
 その上、ニーナが追い打ちをかけた。
「だから女性から無視されているんだ」
 そう言う意味で、とスザクは頷く。
「でも、ミレイちゃんにも相手にされていないよね、リヴァル君」
 今日はずいぶん毒をはくなぁ、と目の前のニーナを見つめながらスザクは心の中で呟いた。
「ニーナってば……そんなにリヴァルにおやつを取られたのが悔しかったの?」
 その理由をシャーリーが教えてくれる。
「だって、あそこは並んでも滅多に買えないんだよ?」
 それは確かに毒の一つや二つ、はき出したくなるだろう。
「食べ物の恨みは怖いよ?」
 スザクはそうリヴァルに言う。
「でも、そう言うお店のお菓子なら、ルルーシュにも食べさせてやりたいな」
 何気なくこう付け加える。
「それよ、それ!」
 しかし、それがミレイの中のスイッチを押してしまったらしい。
「貸し切りなら、ルルちゃんも気兼ねしなくてもすむわよね。おじいさまも反対しないだろうし」
 何か、とんでもなく話が大きくなってきているような気がするのは錯覚だろうか。
「……本気ですか?」
 冗談ですよね、と言外に問いかける。
 人気店を貸し切るなんてことをすれば絶対噂になるだろう。そうすれば余計な人にまで知られることになる。
「もちろん本気よ!」
 スザクの一縷の望みを彼女はあっさりと否定してくれた。
「どうせなら、みんなで行きたいわよね」
 それどころか、さらにハードルをあげてくれる。
「楽しみだわ」
 これは止めようがない。出来るとすれば、敵前逃亡だけだ。
 そう判断すると、スザクはこっそりと自分の荷物を引き寄せる。シャーリーとニーナも同じような行動を取り始めた。
「そういうことだから……」
 ミレイが何かを言いかける。だが、それを最後まで聞くことなく、彼らは逃げ出した。

 ルーベンさんに根回しをしておかないとな。
 全速力で追っ手――もちろんミレイを含む。ちなみに、リヴァルは既に脱落した――を振り切りながらスザクはそんなことを考えていた。
 もちろん、それが成功するとは限らないが、何もしないよりはマシだ。そう考えていた。




14.11.15 up
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