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ぎゅっとしてね

喫茶店でもふもふ



 ミレイの粘り勝ち、と言うべきか。
 それとも、たまには飴を与えないといけないと判断されたと言うべきか。
 店借り切りのスイーツ天国――ミレイ命名――は敢行されることになった。
 せめてもの抵抗としてルルーシュのためにもふもふ天国――命名はスザクだ――を提案したら、意外なことにあっさりと採用されてしまった。
「……反対されると思ってたんだけど……」
 何か、さらにミレイのテンションが上がっているような気がするのは錯覚だろうか。
「ルルーシュさまと動物たちの組み合わせは非常にかわいらしいですから」
 咲世子がそう告げる。
「それは否定しないよ。でも、ブリタニアにはキャットカフェもウサギカフェもないよね」
 日本ならば普通とまでは言わなくてもワイドショーの話題になる程度には普及している。だから、知っているものは多いのだが。
 しかし、動物とふれあっているルルーシュは確かに可愛い。
 動物の方もきちんと調教されているのか。いやがる様子も見せずにルルーシュの周囲にいた。
 そんなほのぼのとした空気を壊すのは、当然、ミレイである。
「可愛い!」
 この言葉とともにカメラを構えつつ突進していく。その勢いに恐怖を感じたのか。動物たちがルルーシュの周囲から逃げ出した。
「あぁ〜っ!」
 その瞬間、ルルーシュが声を上げる。そのままミレイへと視線を向けた。
「ミレイのばかぁ!」
 そして、こう叫ぶ。
「ルルちゃん、あのね……」
 流石に『しまった』と思ったのだろう。ミレイは慌ててルルーシュに声をかけている。
「スザクさん、みんな、にげちゃったの〜」
 その声を無視して、ルルーシュが駆け寄ってきた。 「大丈夫だよ。ミレイさんがおとなしくしてくれれば、また来てくれるから」
 彼の小さな体を抱き留めながらスザクはそう言い返す。
「ミレイさんも。写真を撮りたい気持ちは理解できますが、移動は静かに、ゆっくりとしてください」
 少なくとも、普通の人間ならそれで動物が逃げ出すようなことはない。スザクはそう続けた。
 もっとも、自分はその程度では無理だ。
 だから、こうしてここでおとなしく座っているのだが。
「ルルーシュさま。ケーキの準備が出来ているそうです。まずはお好きなものをお選びください」
 さらに咲世子が彼の意識をそらすように声をかけている。
「僕の分も選んできてくれる?」
 この言葉に、ルルーシュは少し考え込むような表情を作った。だが、すぐに小さく首を縦に振ってみせる。
「咲世子さん、お願いします」
「お任せください」
 そう言うと、咲世子はルルーシュの顔を覗き込むように膝を折った。
「ルルーシュさま」
「おてつだいしてくれる」
「もちろんです。スザクさんのお食べになる分もたくさん選びましょう」  彼女の言葉にルルーシュは少しだけ首をかしげる。だが、すぐに微笑みとともに大きく頷いた。 「では、あちらに」
 そのまま咲世子はルルーシュをケーキが並べられているテーブルへと案内して行く。二人が十分離れたところで視線をミレイへと移した。
「これ以上、ルルーシュを困らせるなら、今後は一切妥協しませんからね」
 先制攻撃とばかりにスザクはそう口にする。
「だって……可愛かったんだもの」
 ルルーシュのあんな笑顔は本当に久しぶりに見たのだ。ミレイはそう言いながらにらみ返してきた。
「スザク君がルルちゃんを独占しているのが悪いんじゃない!」
 それだけならばまだしも、とうとう逆ギレまでしてくれる。
「独占って……」
「あの子を守るためだ。仕方があるまい」
 いつ到着したのか。ミレイの背後にルーベンが立っていた。もっとも、近づいてくるのが見えていたから、スザクはさほど驚かない。
「おじいさま!」
 だが、ミレイはそうではなかった。本気で彼の接近に気づいていなかったらしい。
 大きく肩を揺らすと、ゆっくりと声がした方向へと視線を向ける。次の瞬間、彼女は凍り付いた。
「全く……この周囲にあちらの手の者がいたぞ。片付けてもらったが」
 ため息とともにそう言うと、ルーベンは手近な椅子に腰を下ろす。
「そうなんですか?」
 いったいどこからばれたのだろうか。ここには自分達しかいない。ついでに言えば、午後からはアッシュフォード学園の生徒に開放される予定なのだ。それで十分に目くらましになると思っていたのは間違いだったのだろうか。
「ミレイが大騒ぎしていたのが原因だ」
 ルーベンがそう教えてくれる。
「私は、外では言っていません!」
 ミレイがそう反論をする。
「下働きの者達の中に紛れていたのだよ。その可能性があると前に何度か伝えただろう?」
 それに、と彼は続けた。
「お前の両親は信用できん。あの子の身柄を使って取り入ろうとしている」
 困ったものだ、とルーベンは呟く。
「あの二人ならそうでしょうね。私にもあれこれ、見合い話を持ってきているもの」
 全く、と続ける。
「それもこれも、全部スザク君が悪いんだからね」
 しかしどうしてそう続くのか。
「何で僕……責任転嫁、しないでください」
 即座にそう言い返す。
「僕はちゃんと、ルーベンさんに報告しています」
 それで十分だろう。そこから先はアッシュフォード家内部の話ではないか。スザクは言外にそう続けた。
「それじゃ、生ルルちゃんを堪能できないでしょう? 私にはルルちゃんが必須なの」
 拳を握りしめて力説されても困る。
「……なら、ミレイさんがルルーシュを守れるようにならないとだめですね」
 イヤミ半分、そう告げた。
「それが出来ないから困っているんでしょう!」
 ミレイが即座にかみついてくる。
「スザク君みたいな身体能力の持ち主がそういるはずがないじゃない。私は普通の女学生なの!」
「……身体能力じゃなくても情報戦とか何かもありますよ? どうやって情報を隠すか。それが出来ればいいだけです」
 神楽耶のように、とスザクは心の中だけで付け加えた。彼女は情報を操って自分の望む状況に持ち込むのが得意なのだ。そう言った意味では、自分は全く太刀打ちできない。
「ミレイさんが騒ぎまくるからばれるんですし」
 学校でも平気でルルーシュの話題を出して来るではないか。そう続けた瞬間、ルーベンが素早くミレイの手をつかむ。そのせいで彼女は逃げ出すことが出来なかったようだ。
「ミレイ。少し話をした方が良さそうだの」
 お説教決定かな、とスザクが心の中で呟いた時だ。
「ルーベンもきたの?」
 そう言いながらルルーシュが帰ってくる。その手にはシュークリームやマカロンをのせたお皿が握られている。パイやムース、オペラなどは咲世子が持つお盆にひとまとめにされていた。その心遣いは流石だと思う。
「……屋敷に戻ったら覚悟しておくがよい」
 低い声でルーベンがそう言った。
「逃げ出したら一年小遣いをストップするからの」
 こう言われてはミレイが逃げ出せるはずもない。
「……はい……」
 しゅんとした彼女の様子に、ルルーシュが首をかしげている。
「気にしなくていいよ。ちょっとミレイさんが暴走したのをルーベンさんにしかられただけだから」
 だが、スザクのこの言葉であっさりと納得するあたり、ミレイの暴走はいつものことなのだろう。
「それよりも、僕にはどれを選んできてくれたの?」
 ルルーシュの興味を移すためにそう問いかける。
「これとこれ!」
 彼が選んできてくれたのはシュークリームとチーズケーキだ。その事実にほっとする。チョコレートケーキも嫌いではないが、数はあるときはパスしたい。午後も参加しなければいけないとなればなおさらだ。
「ありがとう。食べ終わる頃には、動物たちも落ち着いていると思うよ」
 こう付け加えれば、ルルーシュの表情が輝く。
「ほんとう?」
「きっと、ね。でも、急いで食べちゃだめだよ」
「うん」
 言葉とともにルルーシュは自分の分のケーキへと手を伸ばす。他の者達もだ。そんな彼らの前に咲世子がお茶の入ったカップを置いてくれる。
 ルルーシュが楽しんでいるのはいいことか。
 そんなことを考えながらスザクはまず、シュークリームへと手を伸ばした。

 その後、時間いっぱいまでミレイがカメラを構えて動いていたのは言うまでもないことだろう。
「やっぱり、何かペットを用意した方がいいかな……ロボットみたいなのがあればそれはそれでいいんだけど」
 小さな声でそう呟く。
「……探しておこう」
 スザクのつぶやきにルーベンが言葉を返してくる。
「お願いします」
 スザクは即座にこう言った。




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