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ぎゅっとしてね

逃走



 いつものように朝の散歩に出た。
「……きょうはシェリーとあえるかな?」
 ここ数日、ジェレミアが忙しいのか。ルルーシュは愛しのシェリーと会えないでいた。
「どうだろうね。ジェレミアさんがお暇になっていればいいんだけど」
 スザクはそう言い返す。
「僕たちと違って遠くでお仕事をすることだってあるだろうしね」
 そう続ければルルーシュは小さく頷いて見せる。
「我慢していればちゃんと会えるよ」
 ルルーシュはいい子だから、とそっと付け加えた。
「スザクさんがそういうなら」
 そうすれば彼はすぐにこう言い返してくる。
「そういうことで、ご飯を食べたら今日は水族館にでも行こうか」
 日曜日だから混んでいるかもしれない。だが、動物園ほどではないと咲世子が言っていた。自分も一緒に行くとも、だ。
 スザク一人では万が一のときに対処が出来ないことがあり得るが、咲世子が一緒なら大丈夫だろう。
 後はルルーシュの気持ち次第だ。
「すいぞくかん? いるかさん、いる?」
「もちろん。ペンギンとアシカもいるって聞いたよ」
 そう教えてやればルルーシュは嬉しそうな表情を作る。
「アシカさん、みたい!」
「じゃ、決まりだね」
 では散歩を終わらせたら朝食。それから準備かな。スザクは心の中でこれからの予定を立てていく。
「でも、まずはお散歩の続きかな。そうしたら咲世子さんの朝食が待っているよ」
「うん!」
 そう言うと、ルルーシュはスザクを引っ張るようにして歩き始める。その様子にスザクは微苦笑を浮かべていた。

 今日ものんびりとした一日が待っていると思っていた。

 いったいどうして、自分達は逃げているのだろう。
 そんなことを考えられるのは、まだ余裕があるからか。
「スザク、さん……」
 腕の中のルルーシュはそうではないらしい。不安そうな声でこう問いかけてくる。
「大丈夫だよ」
 そんな彼に微笑みを向けると、スザクは視線を戻した。そのまま周囲を見回す。
「こちらです」
 それを待っていたかのようにわきから声がかけられる。
「咲世子さん」
 即座に呼びかければ、彼女は小さく頷いて見せた。
「あちらにセーフティルームがあると記憶しております。テロリストも少ないようですし」
「わかりました」
 まずはルルーシュの安全確保が最優先だろう。そう判断をして頷く。
「ルルーシュ。いいと言うまで目を閉じているんだよ」
 腕の中の彼にそうささやけば、彼はすぐに頷いて見せた。まだ小さいのに、こう言う場面に離れているらしい様子が見ていてかわいそうだと思うのは自分が日本人だから、だろうか。
「行くよ」
 言葉とともにまた走り出す。咲世子はそんなスザク達を先導するようにやや前方を走っていた。
「お前ら!」
 そんな彼らに向かって銃口を向けつつ怒鳴りつけてきた男がいる。
 しかし、彼は最後までセリフを口にすることが出来ない。咲世子の一撃であっさりと意識を刈り取られてしまったのだ。
「流石咲世子さん!」
「使用人として当然のことでございます」
 スザクの言葉に彼女はそう言い返してくる。
 それは普通ではないだろうと言う突っ込みはスザクの心の中だけで呟かれた。
「それにしても、こいつら……テロリスト?」
 皇帝のお膝元だろう、とスザクは話題を変える。
「だからこそでございます」
 つまり、そう言うところでテロを実行できるだけの行動力があると見せびらかしたいのか。彼らの多くが使い捨ての駒と言うことなのだろう。
 どんな人間が指導者なのかはわからないが、人の命を道具と同じように考えられる人間とは相容れられないな、とスザクは思う。
「あそこです」
 そんなことを考えている間に目的地へとたどり着いていたらしい。
 同時に、近くでなく子供の声が耳に届く。
「咲世子さん」
「確認いたしました。ルルーシュさまと同年代の女の子のようです……いかがなさいますか?」
 彼女はすぐにスザクの判断を求めてきた。
「保護しよう。万が一のことがあっても、何とかなるだろうし」
 スザクはすぐに言葉を返す。
「それよりも、ルルーシュと同じくらいの子供に何かある方が目覚めが悪そうだ」
 そう付け加えれば、わかったというように彼女は頷く。
「では、少しお時間をいただきます」
 言葉とともに彼女は子供の方へと駆け寄っていった。そのまま軽々と抱き上げるとスザク達に合流する。
「全員が入れるといいんだけど」
 周囲の様子から判断すれば、おそらく中は一条ぐらいだろう。そこに四人は辛いのではないか。
「入れないときには、咲世子さんにお願いします」
「ですが……」
「その方が後々の説明が楽です」
 男の自分よりもメイドの方がそばにいた理由を聞かれときに納得されやすいだろう。
「何よりも、僕は男ですから」
 苦笑とともにそう続ける。
「わかりました」
 どこか渋々と言った様子で咲世子は頷いて見せた。
「スザクさん……だいじょうぶ?」
 約束だから、だろうか。目を開けないままルルーシュが問いかけてくる。
「心配しないで」
 その言葉にルルーシュは小さく首を縦に振って見せた。
 その間にも咲世子さんはセーフティルームの入り口を開けていた。そして、まず自分が抱えていた方の子供を中へと入れる。
「ルルーシュさま、こちらへ」
 そして、そのままスザクへと手を差し伸べてきた。その腕にスザクはルルーシュを預ける。
「いい子で待っていてね」
「うん」
 不安を隠して頷いて見せるルルーシュの頭を、スザクはそっとなでた。

 結果的に、テロはそれからすぐ突入してきたブリタニア軍により鎮圧された。
 それはいい。
 問題なのは、だ。
「僕はテロリストではありません!」
 何故かスザクまでもが拘束されてしまったことだろう。
「信用できないとおっしゃるのでしたら、アッシュフォード学園に確認してください」
 さらにこう叫んだときだ。
「間違いなく、彼は日本からの留学生だ」
 聞き覚えのある声が耳に届く。
「……ジェレミア卿……」
 視線を向ければ、そこにはシェリーの飼い主が立っていた。
「軍人でいらしたんですね」
 スザクは静かな声でそう言い返す。
「そういうことだ。あぁ、彼の身柄は私が保証する」
「Yes, My Lord」
 それもどうやらかなり高位の軍人らしい。あっさりと解放された。ルルーシュを待たせている今の状況では、それはありがたい。
 しかし、だ。
 そんな人がどうして自分達に声をかけたのだろう。そんな疑問がわき上がってくる。
「スザク君、こちらへ」
 だが、それは今、問いかけない方がいいだろう。だから、と素直に彼の指示に従う。
「また後で話を聞くかもしれないが……」
「それはかまいません」
 彼の立場であれば当然だろう、と頷く。
「それと、ルルーシュ、君は?」
「咲世子さんと一緒ですから心配いりません。お会いになりますか?」
「いや。今はやめておこう」
 スザクの言葉にジェレミアは首を横に振って見せた。
「何。数日すればまた散歩を再開できる。その時に会えるからかまわない」
 彼の立場ではそれは仕方がないのか。だが、それだけではないような気がする。
「わかりました。ルルーシュには内緒にしておきますね」
 この言葉に彼は頷いて見せた。
 やはり彼のこの言動はルルーシュに関係していたのか。しかし、ルルーシュは彼のことを知らなかったらしい。それとも、そう見せているだけなのか。
 本当に謎の多い子供だ、とスザクは思う。
「では、失礼します」
 それでも可愛いと思う気持ちは否定できない。そう考えながら、スザクは彼らと合流するためにその場を後にした。

 ルルーシュたちと合流した後も疑問は消えることはなかった。
 ただ、今は追求しないことにする。
 いつか話してくれればいい。
 スザクは心の中でそう呟いた。




15.01.17 up
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