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ぎゅっとしてね

散歩2



 シェリーに会えばあれこれと考えることはやめるらしい。今のルルーシュは楽しげにその毛に顔を埋めている。
「やっぱり、ペットは必要なのかな」
 その光景を見ながらスザクはそう呟く。
「飼うのは難しいのか?」
 そのつぶやきを耳にしたのだろう。ジェレミアがこう問いかけてくる。
「すぐに引っ越しをするかもしれないので……」
 とりあえずこれだけ言い返す。
「僕もずっとこちらにいられるわけではありませんから」
 いずれは日本に帰らなければいけないだろう。そうでなかったとしても、ルルーシュが自分から離れていく日が必ず来るはずだ。
 そのときにペットまで連れて行くことができるかどうか、それはわからない。
 いざとなれば自分が日本に連れて行けばいいのかもしれないが、それはそれでかわいそうだ。
「そうか」
「難しい問題です。ロボットならいいのかもしれませんけどね」
 苦笑とともにスザクはそう続ける。
「……なるほど……」
 ジェレミアは小さな声でつぶやく。
「そういうことが得意な人間がいる。声をかけてみよう」
 すぐに顔を上げると、彼はこう言ってきた。
「ジェレミアさん?」
「安心していい。私個人の依頼ということで頼んでおけばいい」
「……ですが」
 ジェレミアを信じていないわけではない。だが、万が一の可能性がある以上、うかつに頷けない。
「ルルーシュの保護者の意向も聞かないといけませんから」
 ルーベンがジェレミアのことを知っているようだ。だから、そちらから調べてもらってからの方がいいだろう。スザクはそう判断をした。
「確かに保護者の方の意向は重要だね」
 ジェレミアもそう言ってうなずく。
「こちらは急がないから、安心してくれていい」
 さらに彼はこう続けた。
「すみません」
「君が謝ることではないよ。私が先走っただけだからね」
 頭を下げるスザクにジェレミアは苦笑とともに言葉を綴る。
「ただ、はっきりと答えが出るまではルルーシュ、くんには教えない方がいいだろうね」
 彼の言葉にスザクはうなずく。同時に、どうして彼はいつも同じところで引っかかるのだろうか、と考えてしまう。
 まるで、ほかの呼びかけ方が身についているようだ。
 しかし、ルルーシュは彼のことを知らないらしい。いや、覚えていなかっただけだろうか。
 その可能性はあるな、と冷静に考える。
 ルルーシュの記憶力が優れているとはいえ、まだ三歳だ。自分の生活範囲以外のことをすべて把握できていたとは思えない。
 つまり、ジェレミアはかつてのルルーシュの顔を見られる立場にいた。しかし、それはルルーシュが生活していた場所からは少し離れた立ち位置だったのだろう。
 それはいったいどのような立場なのか。
 いくつか思い当たるものがある。しかし、それはどう考えてもやっかいごとを運んできそうだ。
 それに、とスザクは心の中でつぶやく。
 ルルーシュ本人が言いたがらないことを自分が勝手に推測をして決めつけてどうなるというのか。
 ジェレミアにも言ったように、自分がいつまでも彼のそばにいられるわけではない。
 ならば、知らないことは知らないままで終わらせてもいいのかもしれない。
 もちろん、それだからと言って無責任な行動をとるつもりはないが。
「近いうちにご返事できると思います。当分は散歩に来られると言うことでいいのですね?」
 思考を切り替えようとこう問いかけた。
「あぁ。この前のような馬鹿が出なければ、の話だがね」
 先日のテロ未遂のようなことがなければ、彼は比較的規則正しい生活を送っているらしい。そういうところは日本の軍人とも変わらない。
「わかりました。ルルーシュが喜びます」
 シェリーと会えて、と言外に告げた。
「シェリーも喜んでいるから一緒か」
 相思相愛だな、とジェレミアは笑う。
 それに気がついたのだろうか。
「どうしたの?」
 シェリーの首に抱きついたままルルーシュが視線を向けてきた。
「ルルーシュとシェリーがとっても仲がいいね、と話していただけ」
「あぁ。身内以外でシェリーがそんなになつく人間は珍しい」
 スザクの言葉にジェレミアもそう言って微笑んでみせる。
「シェリー、いいこだもん」
 だから、好き。ルルーシュは全身でそう告げていた。その様子は本当にかわいらしい。
「ルルーシュもいい子だしね」
 スザクはそう言って笑い返す。
「でも、そろそろ時間かな?」
 戻らないと咲世子が心配するだろう。スザクはそう続けた。
「……うん」
 渋々といった様子でルルーシュはうなずいてみせる。
「大丈夫だ。明日も会える」
 ジェレミアが静かな声でそう告げた。
「ほんとう?」
「本当だとも。万が一、私がだめでもシェリーだけはよこす」
 彼はそう言って微笑んだ。
「頼める相手もいる。もっとも、できればあれには頼みたくない」
 ジェレミアの表情から推測して、相当いやなのだろう。それでもつきあっていられるのは、少なからずよいところを知っているからではないか。
 自分の友人たちもそうなんだろうな、と心の中だけでつぶやく。
「まぁ、大丈夫だろう」
 ジェレミアは頭を振ると言葉を口にした。
「ルルーシュ。ジェレミアさんにご挨拶しないとね」
 それを合図にスザクはそう告げる。ルルーシュはその言葉に少し考えるような表情をした後でシェリーの首からでを放す。
「ジェレミアさん、きょうもシェリーにさわらせてくれて、ありがとございます」
 そして、言葉とともに頭を下げた。
「私も楽しみでしているのだ。気にすることはない」
 そう言うとジェレミアはいつものようにシェリーを呼び寄せる。
「では、また明日」
 そのまま彼は立ち去っていく。
「かっこいいねぇ」
 彼の後ろ姿を見送りながらルルーシュがこうつぶやく。
「ぼくもおおきくなったらジェレミアさんみたいになれるかな?」
 スザクを見上げると彼はこう問いかけてきた。
「大丈夫じゃないかな?」
 ジェレミアのような偉丈夫にはなれないかもしれない。それでも誰もが振り返るような弾性にはなれるだろう。
「というところで、僕たちも帰ろうか?」
 言葉とともに手を差し出す。
「うん」
 即座にうなずくと、ルルーシュがしっかりと手を握り返してくれた。




15.02.20 up
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