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ぎゅっとしてね

マッド?



 ルーベンに相談の結果、ジェレミアの申し出を受け入れようと言うことになった。そのことを彼に告げれば、わかったというようにうなずいて見せた。
「こちらからも確認しておこう」
 ジェレミアはどこかうれしそうな声音でそう言う。だが、すぐに表情を引き締めた。
「ただ、相手はあきれるほどの変態だ。十分注意してくれ」
 実力だけはあるのだが、と彼は続ける。
「変態ですか?」
「自分の研究のためならば皇族すらも無視する程度のね」
 その言葉にスザクは頭を抱えたくなった。
「大丈夫なんですか、その人」
 だが、ルルーシュのそばでそんなことをするわけにはいかない。そう考えて、こう問いかけるだけにしておく。
「それが、なぜか宰相閣下のお気に入りでな」
 彼のその突拍子もない言動が見ていて楽しいらしい。そう告げるジェレミアの表情はさえない。
「……それって、最凶ですか?」
「周囲の者達にとってな」
 なんかものすごくやばい人なのではないか。ほんとに頼んで大丈夫なのか、と思わなくもない。
「ただ、子供には無体なことはしないだろう。研究成果を少しでも生かせる状況なら喜んで協力してくれるだろうな」
 そういうマッドならば日本にもいた。同じ種類の人間ならば大丈夫なのだが、とスザクはため息をつく。
「万が一の時にはルルーシュを抱えて逃げますよ?」
「もちろんだ。そのときは私も協力しよう」
 今はジェレミアのこの言葉を信じておこう。スザクはそう判断した。

 だが、それはまだまだ甘い考えだった。

 ルルーシュの教育上、この人を近づけてはいけないのではないか。ものすごい勢いであれこれと話をしている相手を見つめながらスザクはそんなことを考えてしまう。
 だが、と小さなため息をつく。
 間違いなく彼は有能な技術者なのだろうと言うことも伝わってくる。
「じゃ、一つは小さなのがいいねぇ」
 それならば、と彼──ロイドは言葉を重ねた。
「小鳥とハムスターとどっちがいいかなぁ?」
 この問いかけにルルーシュはスザクを見上げてくる。
「好きな方選んでいいよ」
 ほほえみとともにそう告げた。それルルーシュは首をかしげる。
「……ハムスターさん」
 少し考えた後で彼はそう言った。
「りょぉかぁい! なら、そっちにはGPSも仕込んでおくよぉ。ルル君がどこにいても見つけられるようにねぇ」
 それと、とロイドは続ける。
「犬の方にはそれに呼応するセンサーとぉ、万が一の時の護身装置かなぁ」
「あまり殺傷能力の高いものはパスで」
「わかってるよぉ。目くらましと煙幕ぐらいにしておくからぁ」
 本当だろうか、とスザクは少しうさんくさげに彼を見つめた。
「代わりにいざというときにはルル君を連れて逃げられるようにしていいよね?」
 確かにそうすれば咲世子ももっと自由に動けるだろう。
「そうですね。それはお願いします」
 だから素直にそう告げる。
「お任されれたよぉ」
 ふふふ、とロイドは笑いを漏らす。
「小さい方は少し待ってねぇ。まずは犬の方から作るから」
 そのまま彼は言葉を綴る。
「普段研究しているのはもっと大きなものだからねぇ。小さいものは苦手なんだよぉ」
 それでも新しいものを作るのは楽しい。だから、任せておけと彼はロイドは胸を張った。
「……あの、費用の方は……」
「大丈夫。ジェレミア君とアッシュフォード伯が折半してくれるって言っていたから」
 それでいいのだろうか。やはり多少なりとも負担すべきではないのか、と思わなくもない。
「第一、君たちからもらったら、僕が作りたいように作れないじゃない」
 それが本音なのだろうか。
 しかし、これ以上何か言ってもロイドのプライドを刺激するだけではないか、とスザクは判断する。
「わかりました。お手数ですがよろしくお願いします」
 だから、こう言って頭を下げた。それを見ていたルルーシュもぺこりと頭を下げる。
「すぐに作るからねぇ。楽しみにしていてねぇ」
 言葉とともに彼はルルーシュの頭をなでてくれた。だけではなくなぜかスザクの頭もなでる。
「できたら連絡するからねぇ」
 そのまま彼は立ち上がると出て行く。
「……なんか、ものすごい人だったね」
 スザクは小さな声でそうつぶやいた。
「でも、いいひと?」
「多分ね。きっと、研究のこと以外はどうでもいいんだどうね、ロイドさん」
 連絡方法などを教えてもらってないんだけど、とため息交じりにスザクはつぶやく。
「ジェレミアさんに報告しておくべきだよね?」
 小さな声でそう付け加えた。
「まぁ、それは後でもいいか」
 明日の朝、今日のことを報告することになっている。そのときに一緒に話せばいいだろう。
「ルルーシュは今度来る子達につける名前を考えておかないとね」
 手伝ってあげるから、とスザクは告げる。
「なまえ……ぼくがつけていいの?」
 ルルーシュはそう問いかけてきた。
「だって、ルルーシュのペットだよ? だから、ルルーシュがつけてあげないとね」
 この言葉に彼は目を丸くする。だが、すぐにうれしそうに笑って見せた。

「あの男にしては大人な反応だな」
 話を聞き終わったジェレミアがこう言い返してくる。
「そうなんですか?」
「あぁ。気に入らなければ話を聞きもせん。だが、君たちにはそれなりに丁寧に対応していたようだ」
 あれで、と思わなくもない。しかし、ジェレミアがそう言うのであればそうなのだろう。
「連絡役は引き受けよう」
 さらにジェレミアはこう言ってくれる。
「すみません」
「何……私としてもあの男が何を作ったのか。それが気になるからな」
 とんでもないものでなければいいのだが。ジェレミアのつぶやきにスザクもうなずいて見せる。
「もうすこししたらシェリーにもあわせてあげるからね」
 そんな彼らの耳にルルーシュのうれしそうな声が届いた。




15.03.07 up
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