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ぎゅっとしてね

ランスロット



 その日はジェレミアだけではなく咲世子も同行していた。
「と言うわけで、僕の上から二番目の傑作だよぉ」
 なぜ二番目なのか。スザクは思わずそう突っ込みそうになる。
「と言うわけでぇ、まずはこの子の名前を登録しないとねぇ」
 名前をつけることで個体を識別し、ついでに主人の音声を登録するのだ。ロイドはそう説明をしてくれた。
「優先順位順に登録するから、まずはルル君で……次は誰かなぁ」
「スザクさん!」
 間髪入れずにルルーシュが言葉を返す。
「そっかぁ」
 それに笑みを返すロイドは悪い人ではないのだろう。しかし、その笑みが別の者に見えるのは何でなのだろうか。
「で、さよこさん」
 それに気づいていないのだろう。ルルーシュはさらに言葉を重ねる。
「その三人でいいのかな?」
「普段一緒にいるのはそれだけですから」
 視線を向けられてスザクはそう言い返す。
「はい、は〜い。じゃ、その順番で優先順位をつけるね」
 明るい声音でそう言うと、ロイドは脇から機材を引っ張り出す。そしてマイクと犬のようなロボットをケーブルでつなぐ。さらにもう一本のケーブルをロボットからパソコンへと引っ張っていく。
「準備完了〜! と言うことで、ルル君。マイクに向かってその子の名前を呼んであげて」
 ロイドの言葉にルルーシュは少し考え込む。
「ランスロット?」
 そしてこう口にした。
「ランスロット? どうしてその名前にしたのかなぁ」
 ロイドがそう問いかけてくる。
「かあさんが、よく、いってたから」
 それにルルーシュはそう言い返す。
「そうなんだぁ。いい名前だよねぇ」
 ロイドはルルーシュに言葉を返しながらも作業を続けている。
「うん。かあさんがほめてた」
 ルルーシュの言葉にロイドは少しだけうれしそうだ。と言うよりも明らかに機嫌がいい。キーボードを打つ指の速度が上がっている。
「作業終了。ルル君の声紋は登録完了だよ。でも、これからもたくさん声をかけてあげてねぇ」
 ロイドの言葉にルルーシュは首を大きく縦に振って見せた。
「じゃ、次はスザク君だねぇ」
 言葉とともに彼は視線を向けてくる。
「何を話せばいいのですか?」
「何でもいいよぉ」
 声がわかればいいのだから、とロイドはすぐに言い返してきた。
 そう言われても、と思いながらスザクはランスロットのそばに近づく。
「こんにちは、ランスロット。よろしくね」
 そして、こう声をかける。
 次の瞬間、ランスロットの瞳が光ったような気がした。だが、改めて確認してもそこはまだ沈黙しているだけだ。
 気のせいだったのだろうか。そう思いながらスザクは立ち上がる。
「これでいいですか?」
「十分だよぉ」
 ロイドはそう言うと、先ほどと同じようにキーボードを操作していた。ならば、後は咲世子だけか。そう思いながらルルーシュのそばまで戻る。
「あとは咲世子さんだけ?」
「そうだね」
「おわったら、ランスロットはうちのこ?」
「連れて行っていいと思うけど」
 そのあたりは確認しなければいけないだろう、と心の中だけでつぶやく。
「はいはーい。じゃ、ラストの登録をしようかぁ」
 その視線の先でロイドが咲世子へと声をかけている。
「まぁ、少なくとも持ってきた首輪はつけてあげられるんじゃないかな?」
 咲世子が流れるような動きでマイクの前へと移動していくのを見つめながらさらにそう付け加える。
「篠崎咲世子と申します」
 彼女らしい挨拶を口にしているのが聞こえた。
「はーい。ご苦労さまぁ。後もう少し待ってねぇ。最終調整するから」
 その間はお茶でも飲んでいるといいよ、とロイドは続ける。
「時間がかかるのか?」
 今まで黙ってみていたジェレミアが問いかけの言葉を投げつけた。
「三十分ぐらいかぁ……」
 何処か他人事のような口調でロイドが言い返してくる。だが、ジェレミアは気にした様子がない。
「返事が返ってきただけましだな」
 深いため息とともに彼はそう告げる。
「そうなんですか?」
「あぁ。ひどいときには周囲で戦闘が始まろうと気にしない」
 それは『ひどい』の一言ですむのか。
「お茶の支度ができております」
 スザクがそう突っ込みを入れる前に咲世子が声をかけてきた。
「……そうだね。まずはゆっくりと落ち着こうか」
 ため息をついた後でスザクはルルーシュに声をかける。
「はい」
 うれしそうにうなずくとルルーシュはスザクに手を差し出してきた。それをしっかりと握りしめる。その手を引いてスザクは咲世子達が待つテーブルへと移動していった。

 ランスロットはとても頭のいいロボットだった。
 ルルーシュの護衛もこれならば十分務まるだろう。スザクですらそう思う。
 何よりも、朝の散歩の時にルルーシュがとても楽しそうだ。それが一番だろうな、と思う。
 しかし、だ。
「この子達はどう判断すればいいのかな」
 小さなため息とともに肩の方へと視線を向ける。そこには一見ハムスターに見える小さなロボットがちょこんと乗っていた。
「ルルーシュの分だけじゃなかったの?」
 まさか自分と咲世子の分まであるとは思わなかった。それがスザクの本音だ。
 しかし、機能を聞いてしまえば無碍において歩くわけにもいかない。
「まぁ、いいけどね」
 それもブリタニアにいる間だけだ。自分にそう言い聞かせる。
「ルルーシュを守れる手段は多い方がいいからね」
 そうつぶやくとスザクはルルーシュとランスロットの後を追いかけた。




15.03.21 up
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