ぎゅっとしてね
襲撃
ポケットに入れておいたハムロボ──カリストが不意に動き出した。授業中は決して鳴きもしなければ動かないはずのそれにスザクはかすかに眉根を寄せる。
カリストが動くとすればどういうときか。それを思い出すと同時に背筋が凍り付く。
「先生!」
すくっと立ち上がるとスザクは教壇にいる教師を見つめる。
「急用ができましたので早退します」
そう告げると荷物をまとめることもせずに財布と携帯だけをポケットにねじ込んできびすを返す。
「クルルギ?」
何を、と教師は問いかけてくる。だが、それに答える間も惜しいとそのまま廊下に出た。
「……ルルーシュに何があった?」
ポケットからカリストを取り出しながらこう問いかける。そうすれば、彼の目がある一定のパターンで瞬きをする。
「襲撃?」
どこからばれたのか。
確かに、最近、よく出かけていたが……とスザクは眉根を寄せた。
「ともかく急いで戻らないと」
ここから全力で走って戻っても十分はかかる。だが、その後でルルーシュを抱えて逃亡しなければならないことを考えれば体力は温存しておきたい。
「自転車ぐらい用意しておくべきだったね」
そうすれば走るよりも早く着いて体力も温存できたのに、と思う。
しかし、ないものは仕方がない。
後は自分の体力を信じるしかないな、とつぶやくとスザクは廊下の窓枠に足をかけた。そのまま外へと飛び出す。
「ここ、三階!」
そんな声が聞こえてきたが、今更止まれるはずっがない。第一、三階ぐらいでけがをするわけがないから、と心の中だけでつぶやく。
膝のバネで衝撃を逃すと、そのまま地面を蹴る。
校門へと向かうスザクの背を教師の声が追いかけてきた。だが、それもすぐに聞こえなくなる。
「約束したから」
守るって、と続けながらスザクは走る速度を速めた。
少しでも早く帰るためにあちらこちらショートカットをしたおかげか。さほど体力を消耗することなく家までついた。
だが、そこはすでに戦場だった。
「ルルーシュ! 咲世子さん!!」
二人の名を呼びながらスザクは屋内へと飛び込んでいく。その途中で攻撃を仕掛けようとしてきた犯人は遠慮なくたたきのめした。骨の一本や二本、正当防衛の範囲内だろう。
しかし、とスザクは相手から奪った剣を振るいながら考える。
銃を使われないだけいいのだろう。
それに、と続ける。犯人がここまで焦っていると言うことはまだ二人は生きていると言うことだ。
だから、焦らなくていい。
それよりも確実に敵を減らしていくべきなのだ、と自分に言い聞かせる。
「やっぱり、直刀は使いにくいな」
襲撃犯の剣をたたき折りながらスザクはそうぼやく。
「刀なら、もっとコントロールができるのに」
そうすればもっと楽に相手を行動不能にできる。無駄な殺生をしなくてすむはずだ。
「部屋まで行ければいいんだけど」
そうすれば日本から持ってきた自分の愛刀がある。あれを手にしていれば負けるわけがない。その自信がある。
負けなければ、ルルーシュを傷付けることもないはずだ。
ルルーシュ達の無事も気になるが、まずはそちらを優先しよう。
スザクはとっさにそう判断をすると二階への階段へと進路を変える。もちろん、部屋にたどり着くまでの間も適当に襲撃犯の意識を刈っていく。
「いったい何人でおそってきているんだ?」
二桁とは言わないが、少なくとも片手の指の数を超える程度の犯人は倒しているはず。
「……めちゃくちゃ回復力が高いとか……」
それはあり得ないだろう。すぐにそう思い直す。
自分は命は取っていない。
だが、その四肢は最低でも骨が折れているはずだ。普通の痛覚を持っている人間なら動けるはずがない。
つまり襲撃犯の親玉はあきれるくらいの人員を送り込んできたと言うことだ。
それもルルーシュの存在を消したいからだろう。
「あの子が何をしたって言うんだ?」
ようやく部屋にたどり着いたところでクローゼットの中からか愛刀を取り出す。
「まぁ、どうでもいいか。全滅させればいいだけだし」
殺さなきゃいいよね、とそうつぶやく。
そのまま鯉口を切る。
次の瞬間、室内にみしらぬ相手が飛び込んできた。その相手の腕をためらうことなく切り飛ばす。
その体を蹴飛ばすようにして乗り越えると、廊下へと飛び出す。
「ルルーシュ達がいるとすればいつもの場所かな?」
カリストへとそう問いかけた。そうすれば、答えるかのように小さな音を返してくる。
「了解」
なら、無駄に時間を使うことはない。そう判断をして階下へと飛び降りる。そのついでとばかりに犯人を足場にしても誰も怒らないだろう。
そんなことを考えつつ、家の奥へと向かう。
向かえば向かうほど、襲撃犯の数が増えていく。
こんな狭い場所にこれだけ人がいれば身動きとりにくいだろうに、と思わずにられない。
もっとも、そうなることを期待してこの先にパニックルームを作ったのだが。
「咲世子さん!」
それよりも相打ちは避けたい。そう思って億へと声をかける。
「確認しました。極力、攻撃しないようにしますが……」
「わかっている。こっちでも避けるから」
盾はたくさんあるし、と笑いながら言い返す。
「お願いします」
言葉と共に奥の方で男のうめき声が上がる。会話の間にも襲ってきている馬鹿を駆除していたようだ。
ならば自分も負けてはいられない。
こんなことで対抗心を燃やしてしまうのは、きっと自分がまだ未熟なせいだろう。それでも、と思いながら行く手をふさいでいる相手をたたきのめしていく。
それは通報を受けた警察が来るまで続けられた。
「スザクさん!」
言葉と共にルルーシュがぎゅっと抱きついてくる。
「大丈夫だよ。悪いのは向こうだしね」
即座にそう言い返す。
「もみ消そうにも、僕の立場が立場だから無理じゃないかな」
仮にも日本の首相の息子を狙ったのだ。大使館に連絡をすれば抗議が行くだろう。何よりも、ブリタニア嫌いのあの父がこれ幸いと騒ぎ立ててくれるはずだ。なかったことになどできないはず。
もっとも、その前にルーベンが適切な対処をとってくれるのではないか。
咲世子からの連絡で飛んできたらしい彼の姿が確認できる。そのまま警察へと声をかけていた。
「とりあえず、ここから移動しようか」
何処がいいのだろうか。そんなことを考えていた時だ。ルーベンの後を追いかけるようにして姿を見せた人物がいる。そして、彼は自分たちの姿を確認すると手招きをしてくれた。
「……ロイドさん……」
無視をするにはちょっとやっかいな相手だ。しかし、積極的にお近づきになりたいとも思えない。
さて、どうしよう。
スザクは一瞬ためらうような表情を作る。それに気がついたのだろうか。
「ロイドさん?」
ルルーシュが首をかしげている。
「ちょっと、今はあのテンションにつきあえないかなぁ」
それでも無視をするわけにはいかないか。何よりも、ルルーシュを外に連れ出したい。
「……仕方がないかな」
こうつぶやくと、スザクは歩き出す。
「スザクさん?」
「心配してきてくれたのなら、挨拶ぐらいはしないとね。お茶を出すのは無理そうだけど」
咲世子が警察対策に追われている以上、とスザクは口にする。
「でも、ロイドさんなら気にしないかな」
ぽんぽんとルルーシュの背中をたたきながらそう続けた。
「……ランスロットがもういってる!」
ルルーシュの言葉に視線を向ければ、ランスロットがロイドの足下に座っている。そして、何か作業をされていた。
「じゃ、行こうか」
それがルルーシュにとって不利にならないならそれでいい。そう思いながらスザクは歩き出した。
15.05.17 up