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ぎゅっとしてね

緊急避難



 流石にここには住めないだろう。
 かといってルーベンのところに戻ればミレイが怖い。
「ホテルも安全とは言い切れないし……」
 どうすればいいのか、と小さな声でつぶやく。
「とりあえず、私の屋敷に来ればいい」
 本当にいつの間に来ていたのだろうか。ジェレミアが声をかけてくれた。
「ですが……」
「心配しなくていい。それよりもまだ成人していないものを見捨てる方が辛い」
 それに、と彼は言葉を重ねる。
「他国の人間に、ブリタニア人のすべてが非道な存在だと思われたくないからな」
 自分たちの都合で申し訳ないが、と告げるジェレミアになんと言い返せばいいものか。
「……僕たちだけでは判断できませんが?」
 ルルーシュの保護者はあくまでもルーベンだ。自分はそんな彼の代わりにそばについている人間でしかない。
 だから、ルーベンの許可がなければ返答できない、とスザクは告げる。
「あぁ。それは当然のことだな」
 確かに、とジェレミアはうなずく。
「逆に言えば、ルーベン殿が許可を出せば我が家に来てもかまわないと言うことかな?」
「そうですね。シェリーがいるなら、ルルーシュの気も紛れるでしょうし」
 もっとも、知らない人間がいたらどうだろうか。それだけが不安だ。
「シェリーは頭がいいからね」
 これも親ばかというのだろうか。スザクはふっとそんなことを考えてしまう。
「お願いします。そろそろ、ルルーシュを救出しに行きたいので……」
「そうだな。あれの悪影響から引き離さなければ」
 いくら咲世子がそばにいても、あれではルルーシュにいらない知識を与えかねない。その前に、とつぶやくと二人は同時に行動を開始した。

 ジェレミアの家はルーベンのそれよりも大きいものだった。
「……やっぱり貴族だったんですね、ジェレミアさん」
 ため息と共にスザクは言葉を吐き出す。
「たまたまだ。それを言うなら、ルーベン殿も返上したとはいえ伯爵だったぞ」
 即座にジェレミアがこう言い返してきた。
「不本意だが、ロイドも伯爵だ」
 さらに付け加えられた言葉に「そうでしたね」としか口に出す言葉を見つけられない。
「もっとも、そのおかげで馬鹿を排除できるわけだが」
 確かに、ここの屋敷の防犯関係はかなりのレベルだ。おそらく普通のテロリストでは太刀打ちできないだろう。
 だが、そんな場所に異分子である自分たちを、こんなに簡単に招き入れていいものだろうか。
 それとも、何か別の理由があるのか。
 こんなことを考えてしまうのは、まだ精神がささくれ立っているからかもしれない。
「それが一番ですね」
 だが、行く場所がないことも事実。だから、その疑念を振り払うように言葉を口にする。
「ルルーシュも疲れているようですし」
 咲世子の腕の中でぼんやりとしている彼はそろそろおねむだろう。一度、ベッドの上でゆっくりと休ませてやりたい。
「君も疲れているようだが?」
「僕は大丈夫です。まずは咲世子さんに休んでもらう予定です」
 いざとなれば学校で眠れる自分と、明日もルルーシュのそばにいてもらわなければいけない彼女ではどちらが優先なのか明白だろう。
「確かに、女性を優先しなければいけないか」
 それに関してはジェレミアも同意をしてくれた。
「では、コーヒーでもどうかな?」
 さらに彼はこう言ってくれる。
「おつきあいさせていただきます」
 そうすれば眠気が紛れるかもしれない。そう思ってスザクはうなずく。
「では、まず部屋に案内しよう。こちらだよ」
 そう言うとジェレミアは自ら案内をしてくれる。
 使用人がいないわけではないらしい。
 気配は感じるが姿を現すことはなかった。それはそう教育されているからだろうか。
 疑えば切りがないのはわかっている。
 自分一人ならば簡単に割り切れるんだが、と思いつつジェレミアの背中を追いかけていく。
「ここだ」
 やがて屋敷の奥まったところにあるドアの前で彼は足を止める。
 そのまま彼はドアを大きく開いた。危険がないと知らせるためか、真っ先に室内に足を踏み入れる。
 だが、何かの気配が伝わってきた。
 咲世子に視線を向けると、スザクは部屋の中に足を踏み入れる。
「……シェリー」
 部屋の真ん中で寝そべっているその姿にスザクは小さくつぶやく。
「どこから入ったんだ、お前は」
 ジェレミアも額を押さえながら問いかけの言葉を口にした。
「シェリーがいる」
 ただ一人ルルーシュだけは何処かうれしそうだ。
「ルルーシュ。シェリーとお昼寝する?」
 ふっと思いついてスザクはそう声をかけてみた。
「いいの?」
「いいですよね、ジェレミアさん」
 ルルーシュの反応に即座にこう問いかける。
「もちろんだ」
 ジェレミアも間髪入れずにうなずいて見せた。
「シェリーならば、何も心配はいらない。任せておいても大丈夫だ」
「咲世子さんもその間に、少しでもいいので休んでいてください」
 スザクはルルーシュを抱き上げている女性に向かってそう声をかける。
 そのセリフに彼女は少し考え込むような表情を作った。
「その後で僕も休ませてもらいますから」
 だが、こう続けたことで納得してくれたらしい。
「かしこまりました。お先に休ませていただきます」
 咲世子はこう言って頭を下げてくる。
「シェリー。ちゃんとそばにいるんだぞ?」
 ジェレミアはジェレミアで愛犬にそう命じていた。このシーンだけを見れば仲のいい親戚が久々に顔を合わせたように見えるかもしれない、とスザクは思う。
「じゃ、いい子で寝ていてね。僕は学校に連絡を入れておかないと」
 ルーベンが手を回していてくれるとは思うが、自分からも連絡をするのが筋だろう。スザクはそう説明をする。
「だから、少し離れるけど、大丈夫だよね?」
 この言葉にルルーシュは何の疑問も抱かなかったようだ。疲れて眠かっただけかもしれないが。
 だが、今はそれでいいと思う。
「電話はこちらだ。必要ならば、私も口を挟もう」
 ジェレミアがこう言ってくれた。
「お願いします」
 それが口実だろうとかまわない。そんなことを考えながらスザクは彼に頭を下げた。




15.05.30 up
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