ぎゅっとしてね
呼び出し
この時代には珍しくなった紙の手紙。
それを見た瞬間、スザクの眉間にしわが寄った。
「どうしたの?」
何かまずいことでも書かれてあったのだろうか。そんなことを考えながらルルーシュは問いかける。
「招待状だって。ブリタニア大使館から、僕とルルーシュに」
何で来たんだろうね、と彼は首をかしげて見せた。
きっとそれは本国の誰かが自分の様子を知りたがっているからだろう。
しかし、それならばどうして人前に呼び出そうとするのか。
ルーベンを通して内密に連絡をしてくれる方が周囲の迷惑にならないような気がする。
「返事の期限までにまだ時間はあるから、ゆっくりと考えてみようか」
その間に理由がわかるかもしれない。スザクはそう言ってくれる。
「はい」
「なら、この話は終わりだね。後は、来週にあるお泊まり会の話かな」
スザクがスケジュールを書き込んでいるノートを見ながらこう言った。
「いっしょにおとまりしてくれるの?」
「その予定だよ」
「やった!」
いつも一緒だろうと言えあれればそうかもしれない、だが、幼稚園では自慢ができる。それがうれしいと思う。
「たのしみです」
そう続ける彼の頭を、スザクはなでてくれた。
ルルーシュが招待された理由は翌日あっさりとわかった。
「にゅううしょうですか? あれが?」
スザクに手伝ってもらった工作がなぜか入賞したのだという。それも、在日ブリタニア大使館主催のコンテストで、だそうだ。
「すこししかおうぼがなかった?」
だから自分の作品のようなつたないものでも入賞できたのではないか。ルルーシュはそう判断をした。いや、そうあってほしいと思う希望的観測なのだが。
そうでなければまずい。
どこかの誰かが暴走していると言うことになりかねない。そう心の中で付け加える。
その結果、スザクに迷惑をかけることになるのだけはいやだ。今ですらたくさん迷惑をかけているのに。もう少し大きくなればそれも減るのだろうか。
よくわからない。
自分が成長すれば当然彼だって成長をする。
その差はどうしても埋まらないのは仕方がない。だから、せめて彼をさせられるようになりたいのだ。
そのためにはあの人達は障害にしかならない。
自分を先に捨てたのは彼等の方なのに、とそうも思う。もちろん、それが自分の命を守るためだったと言うことはわかっている。それでも『捨てられた』と言う思いは消せないのだ。スザクがいてくれなければ、母から教わったあれこれを使って本国を混乱させていたかもしれない。
そう考えれば、スザクはブリタニアにとっても救世主なのではないだろうか。
ふっとそんなことまで考えてしまう。
「あまり嬉しくなさそうだね」
ルルーシュの表情を見て扇がこう言ってくる。
「あれ、じょうずにできませんでした」
もっと上手にできたのに、とルルーシュは言葉を返す。
「そう言うけどね。あれがいいんだって」
微妙に感覚が違うのではないか。扇は微笑みながらルルーシュの顔をのぞき込む。
「実際、ロロ君やアーニャちゃんの作品はものすごいものだっただろう?」
そして彼はこう付け加えた。
確かに、それは否定できない。
ロロの作品はまだかろうじて『動物である』と言うのが判断できる。しかし、アーニャのそれはどれが足でどれが頭なのか。それすらもわからないのだ。
彼等のそれに比べれば、ルルーシュの作品はそれが『犬である』と言うのが誰の目から見ても理解できる。
色塗りも丁寧にしたつもりだ。
それでもまだまだ記憶の中のシェリーとは似ても似つかぬ姿だったと思う。先日、スザクと一緒に行った道場で会った秋田県の子犬ならばよく似ていると納得できるのだが。しかし、ルルーシュの脳裏にあったのは子犬ではなくあくまでもシェリーの姿だったのだ。
もっとも、それを彼等に説明できないのがもどかしい。
「ルルーシュ君の年齢ならあれでも十分なんだけどね」
苦笑と共に扇は言葉を重ねる。
「今更審査結果は変えられないしね」
それはそうだろうと言うことはルルーシュにもわかった。
「……はい」
しかし、本当に誰の差し金なのか。
「そういうことだからね。これをスザク君に渡してね」
連絡帳に挟んでおくから、と彼はいいながら一通の手紙を見せる。そして、きっちりと連絡帳に挟んだ。
「はい」
彼はまめにチェックをしているから言わなくても大丈夫だろう。
「じゃ、鞄にしまってきてくれるかな?」
そう言われてルルーシュは素直に連絡帳を受け取る。そして通園の際に使っている鞄の中にしまうために扇の元を離れた。
「そうだったんだ」
納得した、とスザクはうなずく。
「咲世子さんに無駄仕事を押しつけちゃったかな」
「お気遣いはご無用です」
咲世子がそう言いながら二人の前に飲み物が入ったカップを差し出す。
「旦那様にご連絡を差し上げただけです」
そしていつものように控えめな口調でそう告げた。
「ルーベンに?」
「はい。こちらにおいでになるのはクロヴィス殿下だそうです」
その言葉にルルーシュは小さなため息をつく。
「おつきとしてジェレミア卿もいらっしゃるとか」
「なら、まだ安心かな?」
スザクは苦笑を浮かべるとそう告げた。
「まぁ、あの方みたいな大騒ぎにはならないだろう」
さらに彼はそう続ける。
「……姉上?」
「そう。あのときみたいに攻撃されないならいいよ、もう」
あれは怖かった、と言うスザクの頭をなでるためにルルーシュは腰を浮かす。
「本当にいい子だね、ルルーシュは」
スザクはこういうと彼の身体を膝の上にのせてくれた。
15.11.21 up