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ぎゅっとしてね

ご褒美



 表彰式に行かないという選択肢がない以上、それなりの服を用意しなければいけない。と言うことで、皇系列の店でスーツを仕立てたのが先日のこと。
「間に合って良かった」
 切羽詰まっていたから無理かと思った、とスザクが言うくらい、期日がなかった。
「だからといって、つるしの服をルルーシュに着せたくないしね」
 苦笑と共に彼はそう続ける。
「どうして?」
「似合わないから」
 きっぱりと言い切る彼にルルーシュは目を丸くした。
「不本意だけど神楽耶も同じ気持ちだったらしいね」
 普段は優秀なんだよな、普段は……と小声で付け加えているのが耳に届く。それなのに、どうして個人的に顔を合わせるとああなるのか。さらにそう続けると彼はため息をついた。
「まぁ、それはどうでもいいけど」
 しかし、彼はすぐにそう言って話題を変える。
「咲世子さん、迎えが来るのはいつだって?」
「後30分ほどです」
「なら着替えをしても大丈夫だね」
「はい」
 スザクの言葉に咲世子がうなずいて見せた。
「では、お願いします」
 お願いされていることがなんなのか。確認しなくてもわかる。
「ルルーシュ様。お手伝いをさせていただきますので、お着替えを」
 咲世子の言葉にうなずき返す。
「可愛くしてもらってきなよ」
 スザクがそんなセリフを口にする。
「ぼく、おとこのこだよ?」
 反射的にルルーシュはそう言い返す。
「幼年学校に上がるまでは可愛くていいんだよ」
 しかし、スザクは笑って言葉を口にする。その上、咲世子も賛同しているとなればルルーシュに勝ち目はなかった。

 日本だというのに大使館は予想以上に広い敷地──もちろん、ブリタニアの基準で考えれば裕福な平民程度ではあるが──を持っていた。
「……こんな時でもなければ来ないところだけどな」
 苦笑を浮かべつつスザクがそうつぶやく。
「ここだけブリタニアです」
 ルルーシュも目を丸くしながらそう言い返した。
「そうだね」
 ある意味見慣れた調度ではある。しかし、日本の落ち着いた室内の様子になれたルルーシュにはちょっと目にうるさいと思える。
「あぁ、あちらのようだね。人が集まっている」
 周囲を見回していたのだろう。スザクがこう言ってきた。
「行こう」
 そのまま彼が手を差し出してくる。その手自分のそれを重ねた。
「はい」
 そうすればスザクはふっと笑ってくれる。同時に握っている指に力がこもった。
 手をつないだまま歩いて行けば、あちらから係員らしい人間が駆け寄ってくる。その人間が自分の顔を見て驚いたような表情をしたのはどうしてだろうか。
 だが、何も言わずに自分たちを案内していく。
 それはここの職員として正しい行動なのだろう。ルルーシュはそう判断する。
「式典は何時からになりますか?」
 そんな職員の背中に向かってルルーシュが問いかける。
「あと三十分ほどでしょうか。その間、皆様には控え室でお過ごしいただくよう、指示を受けております」
 どうしてそんなことを聞くのだろうか。ルルーシュは首をかしげる。
「じゃ、先にトイレに行っておこうか」
 そんな彼にかまわずにスザクはこう言う。
「トイレ?」
「そう。念のためにだけど。緊張すると、何故か行きたくなるんだよね」
 ルルーシュの問いかけにスザクはこう説明をしてくれた。そんな経験はないからわからないが彼がそう言うならそうだろう。素直に信じられる。
「もちろん、無駄になるかもしれないけど」
 どうする、と彼は問いかけてきた。
「いく」
 間髪入れずにそう言い返す。
「いいですよね?」
 それを確認してスザクは視線を職員へと向けた。
「もちろんです。こちらです」
 言葉と共に職員は目的地を変える。と言っても、さすがに大使館と言うべきか。さほど離れていない場所にそれはあった。
「しばらく離れますが、私が戻ってくるまではここでお待ちください」
 ドアの前で職員はそう言うと足早に離れていく。
「忙しいみたいだね」
 苦笑と共にスザクがそう言う。
「まぁ、一組につき一人職員を配置できないだろうし。当然かな」
 とりあえずソファーもあるし、待っているのは苦ではないか。スザクの言葉にルルーシュも同意をする。
「と言うことで、まずは用を済ませないとね」
 そう言われてルルーシュは即座にドアを押し開けた。

「……あれ?」
 出てきた瞬間、自分の目に映った光景がルルーシュには信じられなかった。
「どうして?」
 思わずこうつぶやく。
「陛下のご許可が出たからだよ、ルルーシュ。こちらで内密にあうのはかまわないとね」
 ご褒美のようなものだ、と言い返したのはクロヴィスだ。
「もっとも、今日は顔を見るだけだと思っていたのだが、彼の機転のおかげで話もできたよ」
 良かった、と微笑みながらクロヴィスはルルーシュを抱き上げる。
「大きくなったね」
「これからもっとおおきくなります」
「そうだね。楽しみにしているよ」
 本当に彼は嬉しそうだ。そんな彼を見ているとルルーシュも嬉しくなる。
「スザクさん、ありがとうございます」
 それもこれも彼がお膳立てをしてくれたからだ。そう思ってルルーシュはそう言う。
「当然のことだから、気にしなくていいよ」
 さらりとそう言える彼はかっこいい。ルルーシュは素直に尊敬の念を抱いた。

 数日後、コーネリアが来襲してくるとはこのときはまだ誰も知らなかった。




15.12.26 up
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