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ぎゅっとしてね

来襲



 幼稚園から帰ってくれば、ドアの前に人影か確認できる。その瞬間、回れ右をしたくなったのは何故だろうか。
 だが、一瞬遅かった。
 正確に言えばスザクだけならば逃げられたのだろう。足を引っ張ったのは自分だと言うことはルルーシュにも理解できていた。
「久しいな」
 女性にしては大股でこちらに歩み寄ってくると、コーネリアはそう言う。
「……あなたもご活躍のようですね」
 スザクはため息と共にそう言い返す。
「とりあえず、ここでは何ですから中にどうぞ」
 皇帝から許可が出ているというのであれば拒む理由はない。そう判断をしてスザクは彼女を室内に招き入れることにした。
「ただし、ブリタニアとは違って狭いですよ。日本では広い方ですが」
 先に釘を刺しておかなければ文句を言われかねない。そう考えて付け加える。
「でも、スザクさんや咲世子さんがどこにいるか、いつでもわかります」
 ルルーシュがそう言って笑う。
「だから、さびしくないです」
 さらに彼が付け加えた言葉にコーネリアは一瞬目を丸くする。
「そうか」
 だが、すぐに彼女はそう言ってうなずく。
「確かに寂しくないのが一番だな」
 ふわりと微笑むと彼女はそう言った。
「だが、そちらはいいのか? 色々とつきあいもあるだろう」
 女性関係のことだろうか、とスザクは首をかしげる。
「残念ながら、浮いた話の一つもないし……友人達はルルーシュの方が可愛いらしくてね。遊びに行くときは『必ず連れてこい』状態ですよ」
 自分の立場上、うかつに恋愛もできない。言外にそう告げる。
「なるほど」
 同じような状況にあるのか。コーネリアはあっさりとうなずいて見せた。
「まぁ、そのうち決まるでしょう」
 父か桐原が自分たちにとって都合の良い相手を探してくるはずだ。もっとも、お互いの利害が一致する相手などなかなかいないだろう。だからまだ当分、そんな相手は見つからないはずだ。
「そうか」
 何かを思いついたような表情をコーネリアは作る。
「だめですよ、あねうえ」
 その表情から何かを察したのだろうか。ルルーシュは彼女に向かってこう言った。
「別になにも考えていないぞ」
 いや、絶対嘘だ。そう断言できる、とスザクは心の中でつぶやく。
「咲世子さん、お茶の支度は?」
 とりあえず雰囲気を変えよう。そう判断をしてスザクはキッチンにいる咲世子へと声をかけた。
「できております」
 言葉と共に彼女が運んできたのは──いつの間に用意をしたのか──ルルーシュが大好きな、大きないちごがのったショートケーキと紅茶のセットだった。
「ケーキ!」
 それを見た瞬間、ルルーシュの目が輝く。
「……見たことがないケーキだが……」
 しかし、コーネリアはそう言って首をかしげる。そういえば、ブリタニアにはショートケーキらしきものはなかったか、とスザクは心の中でつぶやいた。
「あまいクリームといちごがたくさんでおいしいです」
 ルルーシュが元気よくそう言う。
「ルルーシュはいちご大好きだもんな」
「だって、こっちのいちごはすごくあまくておいしいです」
 ブリタニアにいたときのようにミルクと砂糖を使わなくても食べられる。彼はそう続けた。
「ほう」
「種類が違うんだよ。だいたいは日本で品種改良した品種だから」
 手間暇かけて新しい品種を作るその根気は尊敬する。スザクは正直に付け加えた。
「あねうえにもたべていただきたいんだけど」
「後で咲世子さんに買ってきてもらおう。もっとも、コーネリア殿下のご予定次第だけど」
 時間制限があるのであれば難しい。そう付け加えながらスザクは彼女へと視線を移した。
「今日一日はフリーだ。迷惑でなければ夕食までは一緒にいたいが」
「外で食べられますか? それとも咲世子さんの手料理でよろしいならここでもかまいませんけど」
「ルルーシュが普段食べているものでかまわないぞ」
 どうやら外食という線は消えたようだ。そうなれば、後は彼女に頼むしかない。
「では、それも併せて買い物に行ってきてもらいましょう。咲世子さん」
 そう言って咲世子の顔を見つめる。
「承りました」
 お任せください、と微笑む彼女がここまで心強いと思ったのは久々だ。
「その間のことは……」
「僕がやっておくよ。ルルーシュもお手伝いしてくれるだろうし」
「はい。おてつだいします」
 楽しいから、とルルーシュもうなずく。もっとも、彼にお願いするのはお菓子を分けることぐらいなんだけどね。
「お手伝い?」
「数の勉強も含めてお菓子を分けたりすることですよ。小さな子どもが保護者のまねをしたがるのは普通のことですしね」
 危ないことはさせていない。スザクはそう言う。
「学校でも『積極的にお手伝いをしましょう』と教えています。そうしていろいろなことを身につけるんです」
 さらにそう付け加えた。
「……確かに、ルルーシュにはいろいろなことを身につけてほしいと思うが……」
 しかし、とコーネリアはつぶやく。
「ぼくはもうこうぞくではないのです。だから、すきなことをします」
 それに対し、ルルーシュがきっぱりとこう言い返した。
「……そう、だったな」
 深いため息の後、コーネリアはつぶやくように言葉を吐き出す。
「お前にはもう、何のしがらみのなかったのだな」
 それはそれで悲しいことだが、とそう続ける。
「それならばかまわないか。でも、危ないことはするな。姉の頼みだ」
「大丈夫です。ちゃんと見ていますから」
 スザクがそういえば、彼女は小さくうなずいて見せた。

 その後、しっかりと夕食が終わるまでルルーシュをかまってコーネリアは帰って行った。
「……次は誰が来るんだろうね」
 できれば事前に連絡をしてほしい。そう思うのだが、難しいのだろうか。
「……ルルーシュが喜んでいるからいいんだけどね。事前に準備ができないのが辛いかも」
 せめて心構えだけでも作っておきたい。
「ルーベンさんから伝えてもらえないかな?」
 スザクはそうつぶやく。
「旦那様にお願いしておきます」
 咲世子がこう言ってくれる。
「お願いします」
 スザクは素直に頭を下げた。




16.01.30 up
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