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ぎゅっとしてね

暴風



 コーネリアはまだ理性的な行動をとってくれたのだ。それがわかったのは彼女の同母妹がやってきたときだった。
「ルルーシュ!」
 ふわふわとした服装の少女が言葉と共に駆け寄ってくる。
「……ユフィねえさま?」
 目を丸くしてルルーシュがつぶやく。同時にしっかりと抱きしめられていた。
 それはいい。
 おそらく、本当に久しぶりの再会になるのだろうから。
 ただ、とスザクはため息をつく。
「もう少し周囲を気にしてほしいかな」
 人目を集めすぎ、と続ける。
「……申し訳ない」
 こう言ってきたのは自分より少し年上だろうか。凜々しいという表現がぴったりの女性だった。
「せめて、マンションに戻ってからにしてほしかったな。コーネリアさんのように」
 あそこであればここまで目立たなかっただろう。
「いいのかい?」
 女性がそう問いかけてくる。
「目立って通報されるよりましです」
 それにスザクはきっぱりと言い返した。
「言っておきますが、ここは日本ですからね? あなた方が何者であろうと通報されたら警察に行くことになります」
 そして、とスザクは続ける。
「厄介なことにルルーシュはあの方と何の関係もない家の子ども、と言うことで登録されていますし」
 ユーフェミアがどのような立場で来日しているのか知らないが、説明に本国まで巻き込むことになるのではないか。
 それに比べれば自宅に招くくらい何でもない。
 スザクがそういえば女性は納得したようだ。
「確かにな。君の言うことが正しい」
 彼女はそう言うと二人に近づいていく。
「ユフィ様。ここでは人目がありすぎます。移動しましょう」
「どうしてですか? やっと会えたのに」
「日本には日本の常識があるからです」
 いいから保護者に返せ、と言うと彼女はユフィの腕からルルーシュを取り上げる。そして、スザクへと渡してくれた。
「ノネット!」
「お二人のお宅にお招きいただきましたよ。それと」
 反論するユフィの鼻先に女性──ノネットは指を突きつける。
「私は陛下とコーネリア殿下に命じられています。『クルルギ殿の迷惑になるようならかまわないから首根っこをつかんででもブリタニアに連れ戻せ』と」
 それに従ってもいいのか、とすごみのある笑みで問いかけていた。
「もしそうなれば、次にこの国に来る許可が下りるかは補償いたしませんが?」
 さらにこう続ける彼女の迫力に対抗できる人間がどれだけいるだろうか。
「……仕方がありません……」
 渋々──本当に渋々とユフィはうなずく。
「では、ついてきてください。あぁ、咲世子さんに連絡を入れないと」
 押しかけられたとはいえ、客は客だ。もてなす準備をしてもらわなければいけない。
「お茶菓子は途中で買っていこうか。ルルーシュの好きなプリンも一緒にね」
「はい」
 嬉しそうに微笑むルルーシュに大人達も笑みを返した。

「……ずいぶんと狭いのですね」
 マンションについてまっ先にユフィが口にしたのはこのセリフだ。
「日本人の平均からすれば広いですよ」
 言外に『ブリタニアの常識を当てはめるな』とスザクは言い返す。
「スザクさんとぼくと咲世子さんしかいません。このくらいでじゅうぶんです」
 さらにルルーシュがこう言う。
「どこにいてもふたりがそばにいてくれるからあんしんです」
 さらに続けられた言葉にユーフェミアも反論できないようだ。
「そ、そう」
 本人が満足しているのだ。ここで下手に茶々を入れてすねられると困ると思ったのかもしれない。
「僕たちのような立場の人間があまり広い家に住んでいると目立ちすぎますしね」
 ルルーシュの身柄が完全に安全だとは言い切れないだろう。そう続ければユフィは口をつぐむ。
「確かに。今回だけは彼等の方が正しいな」
 ノネットがそう言ってうなずく。
「第一、コーネリア様も納得しておられるのだろう? ならばなおさらだ」
「……ですが……」
「第一、無関係の人間が口を出すことではないだろう?」
 ノネットのこの言葉にユフィは頬を膨らませる。
「無関係じゃありません。わたくしはルルーシュの姉です」
「だが、今は違う。陛下がそう言われたからね。あの子はスザクくんの養い子だ」
 それが一番安全でルルーシュのためにもいい。ブリタニア皇帝であるシャルルがそう判断したのだろう、と彼女は続けた。
「後見はアッシュフォード伯だ。リ家ではない。しっかりと宰相閣下に釘を刺されたと思ったが?」
 彼女の指摘にユフィはさらに頬を膨らませる。
「……まんまるです」
 ルルーシュが笑いながらそう指摘した。
「もう、ルルーシュまで!」
 言葉と共にユフィは視線をそらす。
「どうせわたくしは何もできませんわ」
 さらにそう続ける。
 めんどくさい、とスザクはそんな彼女を見て思う。神楽耶もかなり面倒な存在だが、別方面で厄介だと本心から認識する。
 だが、これはまだの辱知だった。
「そうですわ。関係がないというなら作ってしまえばいいのです」
 いきなり視線を戻すと彼女はとてもいい笑顔を作る。
「わたくしとそちらの──スザクさんが結婚すればいいのですわ」
 だからどうしてそうなった。そう言いたくなるセリフにスザクは凍り付く。
「いいでしょう?」
 そう言われてもうなずけない。
 いったいどうすればいいのか。本気でそうな悩むスザクだった。




16.02.14 up
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