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ぎゅっとしてね

不安倍増



 ユーフェミアが本気で行動に出たと知ったのはそれからすぐのことだった。
「……ちょっと待ってください」
 スザクが額に手を当てながら言葉を口にする。
「当然、断ってくれたんですよね?」
 そのまま目の前の人物にそう問いかけた。
「ゲンブがな」
 苦笑と共に桐原がそう言い返してきた。
「あれにしてみれば、お前の嫁はできれば六家の誰か。それが無理ならば国内のそこそこの出自の者、と考えておるはずだからな」
 以前の婚約がつぶれた以上、と彼は続ける。
「中華連邦ではなく?」
 確か、あちらの現在の天子は神楽耶とほぼ同年のはず。そう考えれば縁組みとしてあり得るのではないか。そう思って問いかけた。
「そうすればおぬしはまた逃げ出すだろう? さすがにあれも懲りたようだ」
 桐原がそう言って笑う。
「あの人でも『懲りる』ってことがあるんですね」
 あきれたようにそう言ってみせる。
「実力行使に出られればな」
「あれに関してはごり押ししてきた当人が悪いと思いますが?」
「確かにの」
 苦笑と共に桐原はうなずいて見せた。
「もっとも、そのせいで今は苦労しているようだがな」
「とおっしゃいますと?」
「あきらめておらんと言うことだ。あちらが」
 正確に言えば件の姫が、と桐原は続ける。
「……やはり、ですか」
 想像はしていたがかなりの難物らしい。
「……ごめんなさい……」
 そばでおとなしく聞いていたルルーシュが小さな声でこう言った。
「ルルーシュが悪いわけじゃないよ」
 そう言いながら、彼を膝の上に抱き上げる。
「まさかこんな手段に出てくるとは、普通考えないし」
「確かにの。調べた限り皇女の降嫁は国内か同盟国だけだからなぁ」
 日本はどちらにも当たらない。
 それなのにこんな話をしてくるのは本人が熱望しているからだろう。そして、彼女は今まで誰かに拒絶されたことがないのではないか。
「……やっぱり、シュナイゼルさんあたりに連絡かな」
 ぼそっとそうつぶやく。
「断られたらあきらめてほしいんだけどね」
「全くだな」
 桐原もそれは同じ気持ちだったようだ。しっかりとうなずいている。
「まぁ、なんとかしてもらうしかないんだけど」
 ルルーシュが迷惑をしていると言えば大丈夫なのではないか。そう思いつつスザクは脳裏でメールの文面を組み立てていた。

 だからといって、この状況は予想していなかった。
「まさかご本人がご足労くださるとは……」
 そう言ったのは桐原だ。
「迷惑をかけているのはこちらだからね。当然のことだよ」
 優雅な笑みを浮かべながらシュナイゼルは言葉を返してくる。
「今回のことに関してはコーネリアも頭を抱えていたからね」
 つまり彼女でも手綱を取り切れていないのか。いったいどれだけ暴走しているのか。
「なお悪いことに、陛下が何もおっしゃらない」
 彼が不快感でも表明すれば、さすがのユーフェミアの暴走も止るだろう。だが、別の懸案があるのか。最近は顔も出さないのだと続けられる。
 その言葉に不安を抱いたのはスザクだけではない。
「……スザクさん……」
 ルルーシュが服の裾を引っ張りながら彼の名を呼んだ。
「ひょっとして、陛下も暴走されるかな?」
 スザクは思わずこうつぶやく。
「まさか、の」
 桐原はそう言って笑う。
 しかし、だ。
「そちらの可能性もあったな」
 シュナイゼルが眉根を寄せながらこうつぶやく。
「カノン、悪いが……」
「今すぐ本国に連絡をいたしますわ」
 言葉と共に彼は部屋を出て行った。
「ユーフェミア殿下の行動力は陛下譲りですか?」
 思わずこう問いかけてしまう。
「……どうだろうね。あの子の母君もかなりなものだし……」
 深いため息と共にシュナイゼルは言葉を口にする。
「どちらにしろ、君には迷惑にしかならないね。少しでも被害が減るように頑張ってはみるが……」
「……無理かもしれないと?」
「ユーフェミアなら十分押さえ切れたんだけどね」
 本当に困った方だ。そうつぶやく彼にスザクはなんと声をかけていいものやらわからない。
「でも、一度は懲りていただかないとだめかな?」
 その言葉にルルーシュもしっかりとうなずいてみせる。
「……無理はだめだよ?」
 やりたいことはわかるけど、とスザクは言う。
「だいじょうぶです」
 ルルーシュはそう言って笑った。
 本当なのだろうか。だが、本人がそう言うなら信じるしかないだろう。
「ならいいけど。無理だけはしちゃだめだよ」
 この言葉に彼は小さく首を縦に振って見せた。




16.03.13 up
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