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ぎゅっとしてね

鬼胎



 シャルルの居場所が掴めない。戻ってきたカノンがそう報告する。
「……やはりね」
 小さなため息と共にシュナイゼルがそうつぶやく。
「ひょっとしなくても、間違いなく日本においでだろうね」
 すでに、と彼は続けた。
「ヴァレンシュタイン卿だけではなくクルシェフスキー卿も本国においでにならないとのことですわ」
 さらにカノンが補足するように言葉を口にする。スザクにはよくわからないだろうが、その二人がシャルルが国外に出るときには同行することが多い。ビスマルクは確実に、だ。
「ラウンズが二人か。間違いないね」
 困った方だ、とシュナイゼルは続けた。
「と言うことは、ここに姿をお見せになるだろうね」
「ルルーシュの顔を見に、ですか?」
 スザクが確認するように問いかける。
「だろうね。私たちの報告を聞かれて我慢できなくなったのだろう」
 全く、と彼は吐き捨てた。
「……めいわく」
 自分は既に父の子どもではないはずだ。それなのに、どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか。
「あにうえもあねうえたちもすきだけど、ぼくはしずかにくらしたいです。スザクさんにめいわくをかけるあねうえたちはきらいだ」
 迷惑をかけないならば会いに来てくれてもかまわない。コーネリアやクロヴィスのようならば歓迎できる。シュナイゼルももちろんだ。
 しかし、ユーフェミアのような行動に出るような人間が増えればスザクに嫌われるかもしれない。
 それが一番嫌だ。
 スザクに嫌われるくらいなら兄姉に会えなくてもかまわない。
 だが、それを目の前の兄に伝えてもいいものかどうか。ルルーシュには判断ができない。
「安心しなさい、ルルーシュ。今回のことを盾にスザクくんの自由を勝ち取ってあげよう」
そんな気持ちもシュナイゼルにはお見通しだったようだ。自信満々にそう言ってみせる。
「あぁ、明日からは普通に幼稚園とやらに行きなさい」
「……へいかがおしかけていらっしゃるのでは?」
 ヴィレッタならば彼の顔を知っていてもおかしくはない。そう思ってルルーシュはそう言う。
「幼稚園の方には僕か咲世子さん以外にはルルーシュを渡さないようにお願いしておくよ。たとえブリタニア皇帝でもね」
 この国では他国の皇帝とはいえども無理は通せないはずだ。スザクはそう続ける。
「私の方からも連絡を入れておこう」
 シュナイゼルも口を開いた。
「そうだね。陛下が家出をされたことで仕事が増えた面々ならば無条件で協力してくれるだろう」
 後始末をしなければいけない大使館員とか、と彼は人の悪い笑みを浮かべた。
「あれは陛下の影武者だとでも言っておこう」
 やはりこの二番目の異母兄だけは敵に回してはいけない。スザクのためにも自分のためにもだ。ルルーシュは心の中でそうつぶやいていた。

 翌日から緊張しながらも幼稚園へ通っていた。
 しかし、だ。一週間近く経ってもシャルルが現れることはない。
「ひょっとして杞憂だったのかな?」
 スザクがこんなつぶやきを漏らす。
「それとも、これも計画の一環?」
 どう思う、と彼はルルーシュに問いかけてくる。
 こんな風に子ども扱いしないでくれるところも嬉しいとルルーシュは思う。
 もちろん、自分にできないことはまだまだ多いのだが、と付け加えた。
 それは自分の身体がまだ小さくて指先などが思うとおりに動かないからなのだと言うこともわかっている。それはそのうちなくなるだろう。
「へいかは『さそいこむのがじょうず』だって、かあさんがいってた」
 それよりも、と思いながらルルーシュはこう言った。
「誘い込み……」
「かあさんは『うってでるほうがはやい』のにって」
「なるほど。そう言う方々だったんだ」
 スザクはそう言ってうなずく。
「なら、こちらが気を抜くのを待っているのかもしれないね」
 それだけシュナイゼルの負担が増えるのではないか。ルルーシュはいまもあちらこちらを飛び回っている異母兄を思い出しながらそう考える。
「シュナイゼル殿下が本気で報復されそうだね」
 別の意味で怖い、とスザクもつぶやいた。
「でも、皇帝陛下に一番有効な報復方法って何だろう」
 彼はそう言って首をかしげる。
「なんだろう」
 確かにそれは気になる、とルルーシュもつぶやく。
「ルルーシュに『大っ嫌い』と言われることとか?」
 まさかね、と笑いながらスザクが言葉を口にした。
「いくら何でもそれはないか」
 さらにそう続ける。
「自分が言われて嫌だからと言って、他の人もそうだと限らないし」
「スザクさんはぼくに『きらい』っていわれるのがいやなの?」
 自分の聞き間違いだろうか。そう思いながらルルーシュは聞き返す。
「一緒に暮らしている子にそう言われるとショックだよ」
 ずっと一緒にいたいしね。そう付け加えられた言葉も嬉しい。
「いてもいいのですか?」
「当然だよ」
 ルルーシュの問いかけに彼は即座にそう言い返してくれる。
「ルルーシュがいてくれるって言ってくれるうちは一緒にいような」
「はい」
 彼の言葉にルルーシュは大きくうなずいて見せた。

 そのためにもまずはシャルルをなんとかしなければいけない。
 ルルーシュは心の中でそうつぶやいていた。




16.03.27 up
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