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ぎゅっとしてね

真打ち登場



 シャルルが姿を消して半月。そろそろ周囲に疲れが見え始めていた。
 そんなある日のことだ。
「……えっと……」
 反射的にルルーシュを抱き上げたスザクが困ったような声を漏らしている。
「ルルーシュ?」
「うん……へいか」
 あれが、とルルーシュはうなずく。
「まさか直球勝負に出てくるなんて」
 それとも、あちらもしびれを切らしたのか。スザクがそんなつぶやきを漏らしている。
「シュナイゼルあにうえがかわいそう」
 あれこれとフォローしまくっていたのに、とルルーシュもつぶやく。
「だよね。ただでさえお忙し方なのに」
 スザクもそう言ってうなずく。
『……何を話しておるのだ?』
 さすがのブリタニア皇帝でも日本語での会話は聞き取れなかったのか。不満そうに問いかけてくる。
「とりあえず時間を稼ごうか」
 多分、シュナイゼルには既に連絡が行っているはずだ。だから、時間さえ稼いでおけば適切な対処をとってくれるだろう。スザクはそう言う。
「はい」
 確かに、あの異母兄ならばそうするはずだ。
 さらに今ならばシャルルに対する怒りもプラスされる。
 適切以上の対処をとってくれるだろうとルルーシュも思う。
『ルルーシュ! 父の顔を忘れたのか?』
 そんな自分たちの反応にじれたのか。それとも、ルルーシュを抱き上げているスザクに嫉妬したのか。シャルルがそう叫ぶ。
『僕はあなたの息子ではないと、二年前に宣言されました』
 ルルーシュは毅然とした口調でそう言い返す。
『……そういえば、僕もルルーシュからお母さんの話は聞いてもお父さんの話を聞いたことはないね』
 スザクも同意をするようにこう言ってくれる。
 その言葉にシャルルが呆然とした表情を作った。
『第一、本当に父上なら、ここにいらっしゃるはずがないです』
 さらにルルーシュは言葉を重ねた。
『ご自分の仕事を投げ出されるような方じゃないと、母さんが言ってました』
 この言葉にシャルルが凍り付く。
「……あれ?」
 てっきり怒鳴られるものだとばかり思っていたのに、とルルーシュは首をかしげる。
「何か地雷でも踏んだかな?」
 同じことを考えていたのか。スザクが小声でこうつぶやいた。
「じらい?」
 爆発するの? とルルーシュは問いかける。
「なんて言うのかな。触れてほしくないこと、と言う意味でも使うんだよ」
 日本語では、とスザクは教えてくれた。
「まだまだしらないことがたくさん」
「まぁ、そのうちわかるよ。もう少し漢字が読めるようになれば小説とかにもたくさん出てくるし」
 ルルーシュは本を読むのが好きだろう? と言われて首を縦に振ってみせる。
『だから、儂を無視するでない!』
 日本語がわからないのが気に入らないのか。それとも、自分とスザクが親密なのがだめなのか。シャルルがだだをこね出す。
「どうしよう」
 ルルーシュは信じられない父の姿に思考が停止する。
「とりあえず、何か話してあげればいいんじゃないかな。ブリタニア語で」
 ため息と共にスザクがこう教えてくれた。
「僕たちの会話に加われないのが気に入らないんだと思うよ」
 それが本当ならばどう反応すればいいのだろうか。
「いいお年なのに」
 とりあえずため息をついてみる。
『無視してません。対処方法を相談していただけです』
 そしてこう言った。
『ここにおいでになるはずのない方への対処方法は母さんも教えてくれませんでした』
 さらにそう続ける。
『……マリアンヌ……』
 そんなルルーシュの言葉にシャルルはため息と共に母の名を呼んだ。
『スザクさんも、知らないですよね?』
『残念ながら』
 そもそも、誰かしらないし。スザクはとてもイイ笑顔でそう言って見せた。
『貴様』
『ここは日本ですからね。ついでに、僕は日本人だし』
 そっくりさんもいますから、と彼はその笑顔のまま続ける。
『各国首脳のそっくりさんが出てくるテレビ番組は人気ですからね』
『あれ、面白いです』
『だろう? でも、シュナイゼル殿下はともかくコーネリア殿下役のタレントさんは似てないよね』
『似てないです。本物の方が百倍もおきれいです』
 それに関しては仕方がないのだろう。身内びいきも入っているんだろうし、とルルーシュは心の中でつぶやく。
『だから、儂を無視するな!』
 本気で会話に加われないのが気に入らないようだ。
『ルルーシュ様。せっかく会いに来られたのですから、もう少し甘えて差し上げてください』
 いつの間に近づいてきていたのだろう。ビスマルクが声をかけてくる。
『だって、ここにいらっしゃると言うことはお仕事を放り出してこられたと言うことでしょう?』
 即座にルルーシュはそう言い返す。
『シュナイゼル兄上から連絡があったもの。困っていらっしゃるって』
 これは嘘ではない。シュナイゼルが処理しなければならない案件が増えているだけならばまだしも、シャルル以外に処理できない案件の当面の打開策も講じなければいけないのだ。ゆっくりと眠っている暇もないと聞いている。
『それが本当なら、ご自分のわがままでその原因を作った父上は嫌いです』
 そういった瞬間、シャルルが凍り付く。
『母さんも同じことを言うに決まっています』
 さらに続ければ、シャルルがその場に崩れ落ちた。
「クリティカルヒットだね」
 スザクが小声でこうつぶやく。
「すこしはこりればいいんです」
 ルルーシュがこう言えば即座に「そうだね」と同意をしてくれる。
「早くお迎えが来てくれないかなぁ」
 そのままそう続けるスザクにルルーシュも大きくうなずいて見せた。




16.04.10 up
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