「初めまして。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
 日本語でこう言ってやれば、目の前の大人達が目を丸くしている。どうやら、自分が日本語を話せるとは思ってもいなかったのだろう。
「日本語がおできになるのですか?」
 それでも、流石は年の功と言うべきか。即座に衝撃から立ち直ったらしい大人の一人――確か、彼が日本の首相だったはず――がこう問いかけてくる。
「はい。文化に興味がありましたので、日本語の方も一通りは学習しました」
 まだまだつたないものですが……とルルーシュははにかんだような微笑みを作ってみせる。ブリタニアではバカにされるような態度ではあるが、日本では美徳らしい。その程度の知識も当然入手している。
 やるからには完璧に。
 それがルルーシュの基本的な姿勢だった。
「いやいや。お上手でいらっしゃいます」
 明らかに作り笑いとわかる表情で言葉を返してきたのは、日本の首相である枢木ゲンブだ。同時に、彼の表情に安堵の色が滲んでいることもルルーシュは気付いている。
「ともかく、今日はお疲れでしょう。ホテル、とも考えましたが、日本文化に興味がおありなのでしたら、拙宅にもそれなりのものがあります。殿下さえよろしければ我が家に御滞在いただきたいのですが」
 要するに、ふらふらされては困る。目の前に置いて監視をさせて貰いたいと言いたいのか。ルルーシュは彼の言葉をそう変換をした。
「それはかまいませんが……留学先の学校には通えるのでしょうか」
 本国で既に手続きは済ませてあるのだが、とルルーシュは微笑む。その言葉の裏に、自分は彼等の思惑通りには動かないぞ、という意味を含ませる。もっとも、それに彼等が気付いているだろうかどうかは知らないが。
「もちろんですよ、殿下。それもあって、拙宅に……と申し上げております」
 ふっとゲンブは表情を和らげる。
「愚息が同じ学校に通っております。年齢も殿下と同じですので、きっと仲良くさせて頂けるのではないかと」
 学校内でも、息子にフォローさせますから……と彼は付け加えた。
「その必要はない、と思うが」
 自分が手続きをしたのは、一応、ブリタニア子女のための学校だ。しかも、そこの理事長は自分の母の後見をしてくれている貴族である。だから、最大限の配慮をしてくれていることはわかりきっていた。
「まぁ、それでも、親しくしてくれるというのであれば嬉しい」
 どこまで本気かはわからないがな……とルルーシュは心の中で呟く。父親に言われたから親しくする、と言うような奴はさりげなく遠ざけるだけだ。
「それでは、我が家へご案内しましょう」
 ゲンブはそういって微笑む。ルルーシュもまた、それに頷いてみせた。

 しかし、まさか逃げてきた日本でまでこんな目に遭うなんて。
 ルルーシュは目の前の相手を見つめながらそんなことを考えてしまう。
 ふわふわの茶色の髪に、透明度の高い緑色の瞳。
 それだけを見ればとても綺麗だと思う。しかし、その表情はまったく違っていた。
 ゲンブには悪いが、決して仲良くなんてできそうにない。ルルーシュがそう心の中で呟いたときである。
「……本当に、男?」
 こう言いながら、目の前の少年はいきなりルルーシュの股間に手を押し当ててきた。
「なっ!」
「スザク!」
 あまりのことに硬直をしていると、代わりにゲンブが彼を怒鳴りつけてくれた。
「あ、ついてる」
 しかし、少年――スザクはそれを気にする様子はない。それどころかさらにルルーシュの体を確認するようにあちらこちら触れてくる。
「こんなに美人なのに、男なんだ」
 どうして女じゃないんだろう、と本気で悔しがっている相手に、ルルーシュは怒りを隠せない。
「……わかったなら、放せ!」
 ただでさえ、本国でセクハラもどきをさんざんされてきているのだ。その上、ここでもか! と思えば握りしめた拳が震えてくる。そのまま、それを振り上げると相手をぶん殴ろうとした。
 しかし、それはあっさりとかわされる。だけならばまだしも、腕を掴まれて引き寄せられてしまった。すぐ間近にあるスザクの瞳がルルーシュの姿を映し出している。
「近くで見ても、美人だよな」
 吐息がしっかりとかかる距離でこう言われた。と思った次の瞬間、しっかりと唇を奪われてしまう。
「このバカ息子!」
 ゲンブが引き離してくれていなかったらどうなっていただろうか。
「父さん、これ、お嫁にしてもいい?」
 どうしてこういうセリフを口にしてくれるのか。
 そして、どうしてこんなにがっしりと抱きしめられてしまっているのだろう。しかも、これと同居……
「……逃げてきた意味がないだろうが……」
 思わず、日本に留学してきたことを後悔したくなってしまうルルーシュだった。



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07.05.07移動up