障子越しに差し込んでくる光が柔らかい。帰ったら、アリエス宮の自分の部屋にもこれをつけて貰おうか……などとぼんやりと考えていたときだ。
「ルルーシュ、朝だよ!」
 いきなり、耳元でこう囁かれる。
「うわっ!」
 その事実に、ルルーシュは慌てて体を起こそうとした。しかし、それはできない。
「……スザク……」
 いったいいつの間に。そういいたくなってしまう。
 いや、それ以前にどうしてこの存在が近づいてきたことに気がつかなかったのか。兄弟達のおかげで、人の気配にだけは聡くなっていたと思っていたのに。
「失態だ……」
 この状態は、とそう呟く。
「どうかしたのか?」
 そんなことを考えていたからだろうか。いつの間にかスザクがしっかりとルルーシュの顔をのぞき込んでいた。その事実にも気がつかなかった、というのが悔しい。
「重い……どけ」
 ともかく、さっさとこの状況から抜け出さなければいけない。そう判断をして、ルルーシュは相手をにらみつける。
 しかし、それを素直に聞き入れてくれる相手ではなかった。
「やっぱ、細いよなぁ……下手したら、女より細いじゃん」
 ルルーシュの体をなで回すようにしながら、スザクは感心したように呟く。
「こんなんで、ケンカに勝てるわけ?」
 だから、どうしてそういうことを言い出すのか。
「ケンカなんて、野蛮な奴がすることだろうが!」
 自慢ではないが、今まで口げんか以外のケンカなんてしたことはない。それも、相手はほとんどユーフェミアだったという、ある意味悲しい事実までルルーシュは思い出してしまった。
「ケンカぐらい、普通だろう?」
 そんなルルーシュの言葉に、スザクは『信じられない』という呟きとともにさらに顔を寄せてくる。
「まぁ、この綺麗な顔が傷つくのはもったいないよな」
 そして、こんなセリフを漏らしてくれた。
「俺の顔がどうなろうと、お前には関係がない!」
 だからどけ! とルルーシュは相手を押しのけようともがく。しかし、体勢の関係か――認めたくはないが、自分が非力なだけか――どうしても、目の前の相手をどかすことができなかった。それどころか、逆に彼の顔が近づいてくる。
「んっ!」
 唇に暖かいものが触れた。
 いったい何がどうなっているのか、すぐに理解をすることができない。
 だがすぐに、スザクに《キス》をされているのだ、とわかってしまう。
「んんっ!」
 流石に、まだシュナイゼルのように舌を絡めてこないだけマシなのだろうか。そんなことを考えてしまう自分が悲しい、とルルーシュは思う。
 ともかく、これ以上はごめんだ、とそう判断をして、ルルーシュは思いきり相手の体を蹴飛ばした。
 流石に、これは予想していなかったのか、スザクはルルーシュの上から転げ落ちる。
「お前! 何をするんだよ!!」
「それはこちらのセリフだ!」
 男にキスされて喜ぶ人間がそうそういるわけがないだろう! とルルーシュは叫ぶ。
「お前は俺の嫁になるんだから、キスぐらいいいじゃないか!」
 減るもんじゃないし、とスザクは即座に怒鳴り返してきた。
「減らないけど、気持ち悪い!」
 お前、下手だし……とついつい余計な一言を口にしてしまう。もっとも、ルルーシュ本人はその事実に気がついていない。だが、スザクは違ったようだ。
「俺が下手? 誰と比べているんだよ、お前は!」
「それこそ、お前に関係ないだろう!」
 相手が異母兄だなんて、それだけは決して口に出してはいけない。その程度の理性はルルーシュにだって残っていた。
「関係大ありだろう! お前は俺のなんだからな」
 しかし、相手が相手なだけに、いつまで失言をせずにすむだろうか。はなはだ疑問だ、とそう思う。
「かってに決めるな!」
 ともかく、これだけは譲れない。
「僕は、母上のように美人でやさしくて強い女性を嫁にするんだ! 男の嫁になるつもりはない」
 それでなければ、ナナリーのような女の子と、とも付け加える。
「うるさい! お前は黙って俺に守られていればいいんだ!!」
 俺の嫁になって、とスザクは負けじと言い返す。

 二人の怒鳴り合いは、話を聞きつけたゲンブが乱入してくるまで続いたのだった。



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07.06.24移動up