分裂?

 もし、一つだけ願いが叶うとしたら、何を望むか。
 いきなりそんなことを言われても困る、とルルーシュは心の中で呟く。しかも、今にも眠ろうとしていたときに、だ。
 いや、既に眠りの中に落ちているのかもしれない。
 だとするのであれば、どこまでも尊大な態度の女だ……と自分のことを棚に上げながら考える。
「……どうした?」
 珍しく、気分がいいならな。多少のことなら叶えてやれるぞ……と付け加えてくるのは、間違いなく夢の中の彼女だからだ。でなければ、こんな風に言うはずがない。確かに、時には優しいこともあるが。
 夢ならば、何を言っても誰も文句は言わないだろう。
「……クロヴィス兄さんと、ユフィに会いたい……」
 だから、ルルーシュは呟くようにこう口にした。
「お前が殺した二人に、か?」
 からかうように返される言葉に、やはり優しいように見えても魔女は魔女だ、とルルーシュは心の中で呟く。
「悪いのか?」
 自分が殺したという事実と合いたいという気持ちは別の次元だ、と言い返す。
「悪くはないさ」
 それがお前の望みならば、な。C.C.はこう言って笑う。
「ともかく、眠れ」
 その表情のまま、彼女はこう言ってくる。
「……眠ろうとした俺を邪魔したのは、お前だろうが……」
 夢の中なのに、変なことを言う奴だ。そんなことを考えながら、ルルーシュはまぶたを閉じる。今度こそ眠ってやる、と付け加えるものの、夢の中でまた眠ったらどうなるのだろうか。そんな疑問を感じてしまう。
 もちろん、そんなことを考えれば疲れが取れないと言うこともわかっていた。  だから、無理矢理に幸せだった頃の思い出の中に逃げ込むことにする。
 夢の中であれば、それこそ許されるだろう。
 そう、信じていた。

 しかし、今日の夢は妙にリアルだった。
 クロヴィスがいてユーフェミアがいる。しかし、何故かナナリーはいない。それはきっと、先ほどの夢の中での会話が関係しているのだろう。ルルーシュはそう判断をした。
「久しぶりだねぇ、ルルーシュ。またあえて嬉しいよ」
 にこやかな表情でクロヴィスがこう言ってくる。
「……クロヴィス、兄さん……」
 やはり、これは夢なのだ。ルルーシュは心の中でそう呟く。でなければ、自分がこの手で殺してしまった彼が、こんな風に優しい微笑みを見せてくれるはずがない。
「あぁ、そんな顔をするんじゃない。君には君の理由があった。それでも、私を殺したことを後悔してくれただろう?」
 だから、いいのだ……と彼は続ける。
「そうですわ、ルルーシュ」
 さらにユーフェミアまでもが口を挟んできた。
「他の誰かに命じることも出来たのに、ルルーシュは自分の手でわたくしたちを止めてくれました。しかも、苦しまないように一発で」
 それは、ルルーシュが自分たちを愛してくれていたからではないのか。彼女は微笑みと共に言葉を重ねる。
「そうだね。私たちが――それがブリタニアの国是とは言え――してきたことを考えれば、もっと苦しむような状況だったとしてもおかしくはない」
 もっとも、それがわかったのは死んだ後だったが……とクロヴィスは微笑む。
「確かに。自分の立場を全て失ってみなければわからなかったことも多いわ」
 だから、自分たちは決してルルーシュを恨んではいない。
 この言葉をどう受け止めればいいのだろうか。ルルーシュは悩む。
「本当……私たちが君を手助けできればいいのだろうがね」
「そうすれば、寂しくありませんわよね、ルルーシュ」
 だが、これも夢だ。
 夢の中ぐらいであれば、少しはワガママを言っても構わないだろう。
「そうだな……ユフィの言うとおりだ」
 しかし、誰もが自分の側から離れていく。側にいる者達も、自分を利用しようとしている者達ばかりだと言っていいのではないか。だが、それも自分の選んだ道だと言うこともわかっている。
 それでも、と心の中で呟く。
 ナナリーとスザクにだけは側にいて欲しかった。
 いや、誰もが幸せになれる世界が欲しかった。
 そう言って、ルルーシュは笑う。
「大丈夫だよ、ルルーシュ」
「わたくしたちは、あなたが何をしようとも許すわ。そして、側にいる」
 やはり、これは幸せな夢だ。
 彼等が自分を許してくれるはずがないのだから。
「ありがとう」
 それでも、今だけはそれに浸っていたい。そう考えてしまうルルーシュだった。

 そう。
 全部夢だったはずだった。
 しかし、そうではない。
「……もう、朝、か?」
 こう呟きながら、ルルーシュは枕元に置かれた時計に手を伸ばそうとする。しかし、目の前の光景に違和感を感じて、動きを止めた。
 何かがおかしい……だが、何が? とそう考える。
 このベッドに眠っていたのは、自分だけだったはず。だが、両脇から人の寝息が聞こえてくるような気がする。
 何よりも、自分の視線の先にある《手》は何なのか。
 どう見ても、夕べまでの自分のそれではない。記憶の中にある、もっと幼かった頃のそれではないのか。
 そんなことを考えながら、ルルーシュは飛び起きた。
 次の瞬間、自分の隣で眠っている者達の姿が確認できる。それは、記憶の中に――と言っても、一人は実際にその時の姿を目にしたことはないが――あるきょうだいたちのそれだった。
「何で、俺が小さくなっている?」
 だけならばまだしも、どうして、この二人が側にいるのか。
 ルルーシュは思わず本気で悩んでしまう。
 確かに、夢の中で合うことは出来た。だが、それだけだったはず。そもそも、あの夢自体、自分の弱さがみせたものではなかったのか。
 いくら考えても、この状況を説明できる理由を見つけられない。
「お前の望みだったのだろう?」
 そんな彼の耳に、C.C.の声が届いた。
「私が聞いたら、そう言い返してきたではないか」
 何を望む、と言えばその二人ともう一度やり直したい。そういうから、呼び戻してやったのだ。彼女はそう言って唇の端を持ち上げた。
「ただ、二人とも体を失っていたからな。その分は、お前から貰っただけだ」
 十八の体を三で割ったから……だいたい、三人とも六歳か? さらにこう言われる。
「C.C.!」
 寝ぼけている相手に何を問いかけているのか。そして、それを実行するな!
 ルルーシュの叫びはむなしく室内に響いた。



BACK





08.07.21up