アリエス宮襲撃事件で足にケガをしたのはナナリーではなくルルーシュという設定になっています。それでも大丈夫な方だけはこちらからお進みください。飛ばないときにはスクロールしてくださいませ。



















































保護者

 今までに何度、彼の前に跪いただろうか。そう思いながら、ビスマルクはいつものようにシャルルの前へと進み出る。
「ご苦労」
 そんな彼にかけられるシャルルの声もどこか親しげに感じられた。
「いえ。私は陛下の剣ですから」
 以前は、己の隣にもう一人、彼の件と呼べる存在がいた。しかし、それは失われて久しい。だからこそ、自分はこの地位にあり続けなければいけないのではないか。
「ところで、お呼びと聞きましたが?」
 いったいなに用だろうか。
 少なくとも、現在、彼が、気にかけなければならないような案件はなかったはず。そう思いながら問いかける。
「ルルーシュはどうしておる?」
 そうすれば、予想もしていなかった言葉が返ってきた。
「……お元気でいらっしゃいます」
 もっとも、とビスマルクは付け加える。あの日から、彼の足は動くことはない。しかし、彼の中ではその事実よりも妹姫が無事だったことの方が重要らしいが。
「たまに、チェスのお相手をさせて頂いておりますが……かなりの実力でいらっしゃいます。気を抜けば、一度も勝てぬ事もあるほどです」
 その程度のことであれば、彼は当然知っているのではないか。
 皇帝という立場にあるためか、彼が目をかけている子供達に関して、直接動くことは少ない。しかし、その動向と安全に関しては人一倍気を遣っていることをビスマルクは知っていた。
「……あれを戦場に連れ出して、役に立つと思うか?」
 さらに重ねられた問いかけに、一瞬目を見開く。
「参謀としてなら、いずれ、私など足元にも及ばない才能を発揮されるでしょう」
 そちら方面に関しては、シャルルとマリアンヌのよい面だけを受け継いでいる。だから、じっくりと育てていけば必ず帝国を支える重要な柱となれるはずだ。
「ただ、今すぐというのはどうでしょうか」
 足の問題もあってルルーシュは、滅多に与えられた離宮から外に出ることはない。そして、彼の元に訪れる者も少ない。
 そのためか、多少人見知りをする傾向にある。
 何よりも、彼には経験が足りないのだ。
「せめて、何度か、信頼できる指揮官と共に実戦を経験して頂いた方がよいかと」
 兵士の運用や、イレギュラーな状態での対応など、実際に経験しないとわからないこともある。そして、その後は経験豊富な副官と共に実戦を重ねていくしかないだろう。そうも続ける。
「そうか」
 ビスマルクの言葉にシャルルが何かを考え込むような表情を作った。
「いきなり、どうなさいましたか?」
 自分たちの間であれば、この程度のことは許されるのではないか。そう思いながらビスマルクは問いかける。
「コーネリアが、あれを欲しいといいおった」
 副官として、と続けた。
「……そう、ですか」
 いよいよ、その時が来たか。心の中でそう呟きながら、頷いてみせる。
「それだけではない。シュナイゼルも、似たようなことを言っておったわ」
 おそらく、誰かが動き出すのを、みな、手ぐすね引いて待っていたのではないか。シャルルはさらに言葉を重ねた。
「ルルーシュ殿下は、己が皇位に付こうと考えておられません。お体のことを考えればそれが当然なのでしょうが……」
 彼の優秀さが彼が望んでいるように静かに暮らす事を阻んでいる。誰でも、自らの皇位継承権をあげるために優秀な手駒は欲しいのだ。
 しかし、それが彼の幸せに繋がるかと言えば難しいとしか言いようがない。
 生死を共にしたマリアンヌの遺児であることは当然だが、ルルーシュという存在そのものに好意を抱いているビスマルクとしては、憂慮すべき問題だと言っていい。
 ただ、救いがあるとすれば、シュナイゼルもコーネリアも、ルルーシュを可愛がっていることだろうか。他の皇族達に比べれば彼を使い捨ての道具にしようと考える確率はないに等しい。
 しかし、彼を守りきれるかと言えば難しいとしか言いようがないのではないか。
 それくらいであれば……とビスマルクは意を決する。
「陛下」
 そのまま、彼は口を開いた。
「恐れながら申し上げます」
「何だ?」
「ルルーシュ殿下の教育係を、是非とも私目にお任せ頂けますでしょうか」
 少なくとも、自分とその部下であれば彼を守りきれる。その間に、少しでも彼を他の者達に認めさせておけば、誰かの手に預けるとしても安全ではないか。そう思っての言葉だ。
「お前、直々に?」
「はい。その方がルルーシュ殿下のためにもよろしいかと」
 少なくとも、彼が気を遣わないだろうから。言外にそう付け加える。
 ルルーシュの体のことを考えれば、余計なストレスを与えない方がいい。戦場に連れ出すと言うことだけで彼にとっては重荷を負わされたことと等しいのではないか。
 しかし、既に彼を連れ出さないという選択肢はない。
 ならば、とそうも考える。
 もちろん、シャルルにもそれがわかっているのだろう。何かを考え込むように目を閉じた。
「……よかろう」
 しばらく後、彼は静かな口調でシャルルは口を開く。
「あれのことはお前に任せる」
 その言葉に、ビスマルクは頭を下げる。
「承りましてございます」
 こう告げれば、シャルルは満足そうに頷いてみせた。
 これで、少なくともルルーシュを直接、悪意の中に放り出さずにすむ。その事実が、二人の心を少しだけ軽くしていた。

 アリエス宮での悲劇があったからだろう。行動が制限されてしまうルルーシュの私室へは厳重な警備を抜けなければたどり着けない。それは、皇族だとしても同じ事だ。
 もちろん、例外はある。
 皇帝であるシャルル、それに実妹であるナナリー。そして、彼の後見となっているビスマルクだ。
 警備の者達が頭を下げている中を進んでいく。
 やがて、明るく心地よいと感じられる空間へとたどり着いた。
「ビスマルク?」
 事前に連絡を入れていなかったから、だろうか。驚いたような表情と共に置くからルルーシュが姿を現す。その美貌がかなりしたのほうにあるのは、彼が車いすに座っているからだ。
「何かあったのか?」
 不安そうな視線に、ビスマルクは小さく首を横に振ってみせる。
「では、どうしたのだ?」
 忙しいお前が前触れもなくここに来るなんて、とルルーシュは首をかしげてみせた。そうすれば、母親譲りの黒髪がさらりと音を立てて流れる。
「ルルーシュ殿下は、以前、自分に何が出来るのか、とおっしゃっておられましたね?」
「あぁ……俺はこの体だからな。それでも、皇族に生まれた以上、義務を果たさなければいけないと思う」
 だが、こんな自分に何が出来るというのか。きっと、出来ることがあるとは思うのだが、それが見つけられない。
 ルルーシュはそう言って唇を噛む。
 だが、すぐに彼は笑みを口元に浮かべた。
「お茶を飲んでいく程度の時間はあるのだろう?」
 話は、お茶と一緒に聞かせてもらおう。そう彼は続ける。
「Yes.Your Highness」
 そんな彼の表情の変化が愛おしい。
 そして、これから自分が話すことを聞いた彼が、どのような表情を見せるのだろうか。
 できれば、喜んで欲しい。
 そうすれば、はなのような笑顔を見せてくれるだろう。
 こんなことを考えながらビスマルクは指示された椅子へと腰を下ろした。


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08.09.01up